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25話
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「……なんで、怒っているんですか?」
「お前が謝るから」
その言葉は、突き放すようなものではなく、むしろ、こちらへ歩み寄ろうとするような、そんな親しみ深ささえ感じられ、それが少しだけ怖かった。
歩み寄られた分だけ、アシルに信頼を寄せて、何もかも預けてしまいそうで。
過去、そんなことを何度もして、その期待の数だけ、悲しい想いをした。
だからルミナスは、そんな想いをしないようにある程度の距離を保とうとしているつもりなのに、アシルは構わずぐいぐいと立ち入ってくる。
だからだと思う。つい心を開いてしまったような言葉が、ルミナスの口から出てしまったのは。
「謝る前から、不機嫌そう……だけど……」
敬語も使わなかった。
何度冷たく突き放されたことがあっても、それでもまだ、優しさにすがりたくなる自分の心が残っていたようだ。
(距離を……)
うっかり自分から縮めてしまったと気づいた時には、手遅れだった。すでに口から発してしまった言葉は、もうなかった事にはできない。
ぼんやりしていたとかで、アシルが聞き逃していた展開に賭けたいが、そんな都合よく行くはずもなく、アシルが驚いた様子でルミナスを見た。
その驚いた顔は真っ赤に染まっていて、彼はルミナスの視線に気づくと急いで顔を逸らした。
そんな様子を、なんだか可愛らしいなと感じてしまう。
相手が大人の男性だから、こんな感想は失礼になるかと思って言わなかったが。
「アシルは、別に怒っているわけではないですよ。ナインがルミナスに『すごい』って感心されていたから、嫉妬しちゃったんですよ」
「バッ……サーナ!」
サーナに説明されると、アシルはいっそう顔を真っ赤にして狼狽する。
「そ、そんなことより、この世界の事とか説明するんだろう! 早く話したほうが良いんじゃないか?」
話を逸らすアシルがそう言うと、料理を持ってきたミンクの表情が絶望に染まる。
おそらく昨日のように話し込んで、せっかくの料理が冷めてしまうのではないかと思ったのだろう。
「しょ、食事を、しながら話しませんか?」
行儀が悪いかもしれないが、料理を温かいうちに食べ、なおかつアシルが話を変えたいと感じていただろう気持ちも無下にしない、ベストな方法だと思い提案した。
(出しゃばりだと思われるかな……)
そう恐れないわけではないが、アシルとサーナは快くその提案を受け入れてくれた。
おかげで、温かい食事が無駄になることはないとミンクは安堵の表情を浮かべてくれたし、はじめて自分の意見を尊重してもらえたという喜びに、ルミナスの心も満たされていた。
まず最初にスープが運ばれてきた。冷たいかぼちゃのスープである。
それを音を立てずに飲んだが、美味しくてつい声が漏れてしまった。
「おいしいっ」
昨日も思ったが、こんなに食事が美味しいと思ったのは生まれて初めてだ。
美味しくてどんどん食べられそうだが、気を張って最後まで丁寧に食べる努力をした。
スープを食べ終わったところで、瑞々しい緑黄色野菜が使われたサラダが出てきた。味付けはされてあったから、ドレッシングやマヨネーズなど使わず美味しく食べることが出来た。
しかし昨日と同じく、それでもうお腹がいっぱいになってしまった。
「このあと……パンが出てくるんでしたっけ?」
「お前が謝るから」
その言葉は、突き放すようなものではなく、むしろ、こちらへ歩み寄ろうとするような、そんな親しみ深ささえ感じられ、それが少しだけ怖かった。
歩み寄られた分だけ、アシルに信頼を寄せて、何もかも預けてしまいそうで。
過去、そんなことを何度もして、その期待の数だけ、悲しい想いをした。
だからルミナスは、そんな想いをしないようにある程度の距離を保とうとしているつもりなのに、アシルは構わずぐいぐいと立ち入ってくる。
だからだと思う。つい心を開いてしまったような言葉が、ルミナスの口から出てしまったのは。
「謝る前から、不機嫌そう……だけど……」
敬語も使わなかった。
何度冷たく突き放されたことがあっても、それでもまだ、優しさにすがりたくなる自分の心が残っていたようだ。
(距離を……)
うっかり自分から縮めてしまったと気づいた時には、手遅れだった。すでに口から発してしまった言葉は、もうなかった事にはできない。
ぼんやりしていたとかで、アシルが聞き逃していた展開に賭けたいが、そんな都合よく行くはずもなく、アシルが驚いた様子でルミナスを見た。
その驚いた顔は真っ赤に染まっていて、彼はルミナスの視線に気づくと急いで顔を逸らした。
そんな様子を、なんだか可愛らしいなと感じてしまう。
相手が大人の男性だから、こんな感想は失礼になるかと思って言わなかったが。
「アシルは、別に怒っているわけではないですよ。ナインがルミナスに『すごい』って感心されていたから、嫉妬しちゃったんですよ」
「バッ……サーナ!」
サーナに説明されると、アシルはいっそう顔を真っ赤にして狼狽する。
「そ、そんなことより、この世界の事とか説明するんだろう! 早く話したほうが良いんじゃないか?」
話を逸らすアシルがそう言うと、料理を持ってきたミンクの表情が絶望に染まる。
おそらく昨日のように話し込んで、せっかくの料理が冷めてしまうのではないかと思ったのだろう。
「しょ、食事を、しながら話しませんか?」
行儀が悪いかもしれないが、料理を温かいうちに食べ、なおかつアシルが話を変えたいと感じていただろう気持ちも無下にしない、ベストな方法だと思い提案した。
(出しゃばりだと思われるかな……)
そう恐れないわけではないが、アシルとサーナは快くその提案を受け入れてくれた。
おかげで、温かい食事が無駄になることはないとミンクは安堵の表情を浮かべてくれたし、はじめて自分の意見を尊重してもらえたという喜びに、ルミナスの心も満たされていた。
まず最初にスープが運ばれてきた。冷たいかぼちゃのスープである。
それを音を立てずに飲んだが、美味しくてつい声が漏れてしまった。
「おいしいっ」
昨日も思ったが、こんなに食事が美味しいと思ったのは生まれて初めてだ。
美味しくてどんどん食べられそうだが、気を張って最後まで丁寧に食べる努力をした。
スープを食べ終わったところで、瑞々しい緑黄色野菜が使われたサラダが出てきた。味付けはされてあったから、ドレッシングやマヨネーズなど使わず美味しく食べることが出来た。
しかし昨日と同じく、それでもうお腹がいっぱいになってしまった。
「このあと……パンが出てくるんでしたっけ?」
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