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36話
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それからルミナスは、生まれてから18年間体験したことのない生活をしている。
「…………」
「おはよ、ルミナス……」
「お、おはよう……アシル」
毎朝、起きるたびに目の前に美青年の寝起きを見るのは心臓に悪い。健康には良いのに心臓に悪いという矛盾が発生する。
ここに来てからはもっと経つらしいが、ルミナスが目を覚ましてから半年経った。
やけにこの『異世界』という場所は居心地が良い。
息も吸いやすいし、なにより、自分を邪魔そうに扱う人がいない。
「ルミナスも、もとは此処の住人だからだろうな」
朝食の席でそう言ったアシルの言葉の意味が気になって聞いてみたが、彼は寂しそうに笑っただけで、答えてくれようとはしなかった。
「言えないことなの……?」
「……今は時期尚早だ。ルミナスが受け入れるのに、今は未だその時じゃないんだ」
そう言って頭を乱暴に撫でられた。
整えた髪が乱されて怒ったのはサーナだった。
「メイドさんたちが整えてくれたのに!」
怒る彼女に、ルミナスはやはりまだうろたえてしまう。
「わ、私なんかの髪は、大丈夫ですから……。あ、でも、本当に、メイドの方にはなんてお詫びをしたらいいか……」
だが、そういう事を言うと、いつもアシルがすごい形相で睨んでくるのだ。隣に立つサーナも、やや目を吊り上げているように見える。
「??? ふがっ」
なにか悪いことを言ってしまったかもしれないと考えていると、頬を両サイドに引き伸ばされた。
「『私なんか』って言うなって言っただろう? お前の髪を乱したオレのことを怒ればいいんだよ、今の場合は」
「ほ、ほうられ」
口を広げられている形なので、「そうだね」という言葉が上手く言えなかった。しばらく広げられ続けるかと思ったが、アシルは案外早く引っ張るのをやめてくれた。
「言い分は?」
「ごめんなさい、まだ慣れなくて……。私が悪者になれば、いつも丸く収まるから、習慣づいちゃっていて……」
「……まあ、いいさ。これからゆっくり直して行けばいい。時間はたっぷりあるしな」
「……うん」
アシルやサーナ、そして今日もこの場にはいないがナインは、ルミナスが卑下する言葉を使うときつく咎めてくる。
サーナとナインは、アシルほどきつくない。ただ、無言の圧を感じるし、空気を読んでしまうタイプのルミナスにはむしろ、そちらのほうが堪えた。
自分を咎めないこと、見下さないこと、とにかく自分を辱めるような言葉を使うのは禁じられた。
なにが良くなかったのかは未だにわからないが、これが最初の仕事だと言われればなんとかそれを遂行するしかない。
長年培われた癖はそう簡単に治らないが、それでも根気強く見守ってくれるアシルたちの優しさが胸に沁みた。
半年前、ルミナスはサーナの助手の仕事をすぐに始めるのかと思っていた。
だが止められた。まだ万全ではないので、万全になったとサーナが判断してから半月ほど休んでからにしましょうと言われ、それまでは休養を余儀なくされた。
その間の生活は、「オレに任せろ!」とやたら張り切っているアシルに甘えることとなった。
ルミナスが目覚めてからお世話になっていたのは、アシルの屋敷だった。
あまりにも内装が立派なので、外観がどういうものなのか見てみたいとお願いしたら、サーナが車椅子にルミナスを乗せて見せに連れ出してくれた。
ちなみにその時、アシルは仕事でどうしても外せない用事があるということで、その役目をサーナに預けざるを得なかった。
彼は露骨に不満を顔に出していたが、サーナが軽やかに無視して車椅子を押していった。
「…………」
「おはよ、ルミナス……」
「お、おはよう……アシル」
毎朝、起きるたびに目の前に美青年の寝起きを見るのは心臓に悪い。健康には良いのに心臓に悪いという矛盾が発生する。
ここに来てからはもっと経つらしいが、ルミナスが目を覚ましてから半年経った。
やけにこの『異世界』という場所は居心地が良い。
息も吸いやすいし、なにより、自分を邪魔そうに扱う人がいない。
「ルミナスも、もとは此処の住人だからだろうな」
朝食の席でそう言ったアシルの言葉の意味が気になって聞いてみたが、彼は寂しそうに笑っただけで、答えてくれようとはしなかった。
「言えないことなの……?」
「……今は時期尚早だ。ルミナスが受け入れるのに、今は未だその時じゃないんだ」
そう言って頭を乱暴に撫でられた。
整えた髪が乱されて怒ったのはサーナだった。
「メイドさんたちが整えてくれたのに!」
怒る彼女に、ルミナスはやはりまだうろたえてしまう。
「わ、私なんかの髪は、大丈夫ですから……。あ、でも、本当に、メイドの方にはなんてお詫びをしたらいいか……」
だが、そういう事を言うと、いつもアシルがすごい形相で睨んでくるのだ。隣に立つサーナも、やや目を吊り上げているように見える。
「??? ふがっ」
なにか悪いことを言ってしまったかもしれないと考えていると、頬を両サイドに引き伸ばされた。
「『私なんか』って言うなって言っただろう? お前の髪を乱したオレのことを怒ればいいんだよ、今の場合は」
「ほ、ほうられ」
口を広げられている形なので、「そうだね」という言葉が上手く言えなかった。しばらく広げられ続けるかと思ったが、アシルは案外早く引っ張るのをやめてくれた。
「言い分は?」
「ごめんなさい、まだ慣れなくて……。私が悪者になれば、いつも丸く収まるから、習慣づいちゃっていて……」
「……まあ、いいさ。これからゆっくり直して行けばいい。時間はたっぷりあるしな」
「……うん」
アシルやサーナ、そして今日もこの場にはいないがナインは、ルミナスが卑下する言葉を使うときつく咎めてくる。
サーナとナインは、アシルほどきつくない。ただ、無言の圧を感じるし、空気を読んでしまうタイプのルミナスにはむしろ、そちらのほうが堪えた。
自分を咎めないこと、見下さないこと、とにかく自分を辱めるような言葉を使うのは禁じられた。
なにが良くなかったのかは未だにわからないが、これが最初の仕事だと言われればなんとかそれを遂行するしかない。
長年培われた癖はそう簡単に治らないが、それでも根気強く見守ってくれるアシルたちの優しさが胸に沁みた。
半年前、ルミナスはサーナの助手の仕事をすぐに始めるのかと思っていた。
だが止められた。まだ万全ではないので、万全になったとサーナが判断してから半月ほど休んでからにしましょうと言われ、それまでは休養を余儀なくされた。
その間の生活は、「オレに任せろ!」とやたら張り切っているアシルに甘えることとなった。
ルミナスが目覚めてからお世話になっていたのは、アシルの屋敷だった。
あまりにも内装が立派なので、外観がどういうものなのか見てみたいとお願いしたら、サーナが車椅子にルミナスを乗せて見せに連れ出してくれた。
ちなみにその時、アシルは仕事でどうしても外せない用事があるということで、その役目をサーナに預けざるを得なかった。
彼は露骨に不満を顔に出していたが、サーナが軽やかに無視して車椅子を押していった。
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