(休載中)下町のグランと公爵家のオリヴァー

rifa

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オリヴァーの昔話

オリヴァーがグランになった日・10

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「……貴殿は、あの町の者たちと交流が深いと聞く。そこで、気の置ける数人に事情を話し、ロザリーがあの町で暮らせるよう何かと手を貸してもらえるよう、頼んでもらいたい。その際に被る迷惑や面倒に対し、相応の謝礼をすると加え、伝えてほしい」
「……その者たちがそれを受け入れなければ? 必ずしも貴族に友好的な者たちばかりでは、ありませんよ」
「……そこを、なんとか頼み込んでもらいたい」
「……なるほど」
 これはたしかに面倒なことになりそうだと、分かってはいたが改めて理解してしまった。
「申し訳ないが、何卒……」
「頭をお上げください、グランディア公爵閣下!」
 アンドロは、椅子から降りて額を床につける動作をしたクラウドに驚き、慌てて止めさせた。
 クラウドはつくづく不器用だと思っている。
 頭が悪いわけではないのだが、心から気を許した者に対しては愚策を取りがちなのだ。
 だがつまりこれは、クラウドはアンドロに気を許してくれているということで、アンドロはその気持ちを嬉しく思った。
 アンドロも、クラウドに気を許している。
 初めて会った時から、「危なっかしい御仁だ」と思ってはいた。そしてそれがいつの間にか、「この人の力になって差しあげたい」と思うようになっていたのだ。
 だから、今回もロザリーに手を貸していた。
 本来なら、捨て置いた。
 クラウドの家の者だから、手を貸そうと思ったのだ。そうでなければ、風邪が治ったばかりの息子・マルクの風邪がぶり返すかもしれない決断をしようとは思わなかった。
 アンドロも、それほど優しい心根の持ち主ではない。それこそクラウドと似たタイプなのかもしれない。
 そう感じながら、アンドロは諦めたようにため息を吐いた。
「公爵夫人のこと、承知いたしました。巧く事が進むよう、手は尽くします」
「……ありがとう、ディザクライン侯爵」
「恐れ入ります」
「……その、もう一つ……個人的な願いなので、聞き入れなくても、良いのだが……」
「はい? なんでしょう」
「……個人的なこういう場ではわしのことを、クラウドと呼んでもらって構わない。仰々しすぎても、肩が凝るだろう?」
 茶目っ気を含んでそうおどけるクラウドに、アンドロは一瞬唖然としてしまった。
 名前で呼ぶことを許すのは、クラウドが信頼をしてくれているという証であった。
 今まで、信用はされているのだと思ったが、名前で呼ぶことを許されるほど気を置いてもらえているとは思わず、アンドロはそれをとても嬉しく思った。
「……では、僭越ながら私のことも『アンドロ』とお呼びください」
「そうか! ありがとう、アンドロ!」
「……私は呼び捨てが躊躇われるので、『クラウドさん』とお呼びするのでよろしいですか?」
「構わないとも!」
 そう言って破顔するクラウド。しばらくして二人は、クスクスと笑い合った。
 アンドロにとって、これほどの褒美はなかった。
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