(休載中)下町のグランと公爵家のオリヴァー

rifa

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オリヴァーの昔話

オリヴァーがグランになった日・9

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 三日の滞在中に、ロザリーの体調もだいぶ良くなり、ひとまず熱は治まった。
 しかしもともと身体が弱いロザリーを心配し、アンドロがロザリーへ、オリヴァーと共に帰ることを薦めるが、ロザリーは一向に首を縦に振ろうとはしない。
「あの人は、オリヴァーのことを愛してはいない」
 そう決めつけるロザリーに、アンドロは内心苛立ちを覚えていた。
 案の定、三日経っても富裕層街に戻ろうとはしないロザリーは、どうにかこの町に住まわせてはもらえないかとアンドロに頼み込んだ。
 アンドロはこの下町の管理者でもなんでもないが、下町へ何度も足を運び、この町の人たちとも懇意にするくらいには親しみがある。
 だからどうしたら下町で暮らせるようになるか、手続きの仕方や相談相手を知ってはいるが、「妻を信じて待つ」と言ったクラウドの気持ちを想うと、同じ子を持つ親として、ロザリーの気持ちを寛容に受け入れることがどうしても出来なかったのだ。
「ここで暮らしたほうが、オリヴァーのためにもなる」と言ったロザリーの判断に、アンドロは同意出来なかった。
「それは、オリヴァー様に聞いて判断されたことなのですか?」
 その問いに、ロザリーは頭を振った。
 そして、信じられないという目でアンドロを見やった。
「あの子はまだ3歳ですよ? そんな幼い子がそんなことを問われて、わかるわけがないではないですか!」
 そう決めつけるロザリーに、アンドロは若干の軽蔑を覚えた。
 だが、何も言うことは出来ない。
 ひとまず、クラウドの判断を仰ごうと、再びグランディア公爵邸に足を運んだ。
「……たびたび、迷惑をかけて申し訳ない」
 仔細を聞いたクラウドは、ロザリーに変わって妻の非礼を詫びた。
 クラウドもほとほと困ってしまった様子だ。
 通されたティールームで、彼は自分と大して変わらない歳なのに、とても老け込んで見えた。三日前よりさらに、疲れているように見える。
 この状況で、公務が忙しいことだけが原因とは思えなかった。
 クラウド自身が下町に赴くのが良いと、彼自身も思っているらしいが、そんなことをすれば下町にロザリーたちがいることを誰が漏らしたとなることを懸念しているようだ。
そしてそれを知る人物に、すぐ思い当ってしまうだろう。
 そうなれば、アンドロがロザリーに非難されてしまうだろうと危惧してくれたのだ。
「そのお心遣いは大変ありがたく思います。ですが、どうか私のことはお構いなく」
 そう伝えても、クラウドは渋った。
 渋りながらも「妻の要望を叶えてやりたいと思う」とクラウドは言った。
 ロザリーを大切にしようと思うあまりの、判断ミスではないかとアンドロは感じた。
(この人はどうも、夫人に気遣いをしすぎる)
 それを優しさというべきか、気が弱いというべきか、そんなことを考えないわけではないが、これ以上はアンドロが関わることが出来ない、夫婦間の問題だと諦めた。
「……ディザクライン侯爵。貴殿にこれ以上お願いをするのは……良くないことだとは分かっています、分かっていますが……最後に一つだけお願いをしたい。そこから先は、私のほうでやりますが、最後にもう一度だけ、手を貸していただきたい……」
「……どのような願いでしょう?」
 アンドロは、目の前の哀れな公爵を慈しみながら、そう訊ねた。
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