9 / 39
オリヴァーの昔話
オリヴァーがグランになった日・9
しおりを挟む
三日の滞在中に、ロザリーの体調もだいぶ良くなり、ひとまず熱は治まった。
しかしもともと身体が弱いロザリーを心配し、アンドロがロザリーへ、オリヴァーと共に帰ることを薦めるが、ロザリーは一向に首を縦に振ろうとはしない。
「あの人は、オリヴァーのことを愛してはいない」
そう決めつけるロザリーに、アンドロは内心苛立ちを覚えていた。
案の定、三日経っても富裕層街に戻ろうとはしないロザリーは、どうにかこの町に住まわせてはもらえないかとアンドロに頼み込んだ。
アンドロはこの下町の管理者でもなんでもないが、下町へ何度も足を運び、この町の人たちとも懇意にするくらいには親しみがある。
だからどうしたら下町で暮らせるようになるか、手続きの仕方や相談相手を知ってはいるが、「妻を信じて待つ」と言ったクラウドの気持ちを想うと、同じ子を持つ親として、ロザリーの気持ちを寛容に受け入れることがどうしても出来なかったのだ。
「ここで暮らしたほうが、オリヴァーのためにもなる」と言ったロザリーの判断に、アンドロは同意出来なかった。
「それは、オリヴァー様に聞いて判断されたことなのですか?」
その問いに、ロザリーは頭を振った。
そして、信じられないという目でアンドロを見やった。
「あの子はまだ3歳ですよ? そんな幼い子がそんなことを問われて、わかるわけがないではないですか!」
そう決めつけるロザリーに、アンドロは若干の軽蔑を覚えた。
だが、何も言うことは出来ない。
ひとまず、クラウドの判断を仰ごうと、再びグランディア公爵邸に足を運んだ。
「……たびたび、迷惑をかけて申し訳ない」
仔細を聞いたクラウドは、ロザリーに変わって妻の非礼を詫びた。
クラウドもほとほと困ってしまった様子だ。
通されたティールームで、彼は自分と大して変わらない歳なのに、とても老け込んで見えた。三日前よりさらに、疲れているように見える。
この状況で、公務が忙しいことだけが原因とは思えなかった。
クラウド自身が下町に赴くのが良いと、彼自身も思っているらしいが、そんなことをすれば下町にロザリーたちがいることを誰が漏らしたとなることを懸念しているようだ。
そしてそれを知る人物に、すぐ思い当ってしまうだろう。
そうなれば、アンドロがロザリーに非難されてしまうだろうと危惧してくれたのだ。
「そのお心遣いは大変ありがたく思います。ですが、どうか私のことはお構いなく」
そう伝えても、クラウドは渋った。
渋りながらも「妻の要望を叶えてやりたいと思う」とクラウドは言った。
ロザリーを大切にしようと思うあまりの、判断ミスではないかとアンドロは感じた。
(この人はどうも、夫人に気遣いをしすぎる)
それを優しさというべきか、気が弱いというべきか、そんなことを考えないわけではないが、これ以上はアンドロが関わることが出来ない、夫婦間の問題だと諦めた。
「……ディザクライン侯爵。貴殿にこれ以上お願いをするのは……良くないことだとは分かっています、分かっていますが……最後に一つだけお願いをしたい。そこから先は、私のほうでやりますが、最後にもう一度だけ、手を貸していただきたい……」
「……どのような願いでしょう?」
アンドロは、目の前の哀れな公爵を慈しみながら、そう訊ねた。
しかしもともと身体が弱いロザリーを心配し、アンドロがロザリーへ、オリヴァーと共に帰ることを薦めるが、ロザリーは一向に首を縦に振ろうとはしない。
「あの人は、オリヴァーのことを愛してはいない」
そう決めつけるロザリーに、アンドロは内心苛立ちを覚えていた。
案の定、三日経っても富裕層街に戻ろうとはしないロザリーは、どうにかこの町に住まわせてはもらえないかとアンドロに頼み込んだ。
アンドロはこの下町の管理者でもなんでもないが、下町へ何度も足を運び、この町の人たちとも懇意にするくらいには親しみがある。
だからどうしたら下町で暮らせるようになるか、手続きの仕方や相談相手を知ってはいるが、「妻を信じて待つ」と言ったクラウドの気持ちを想うと、同じ子を持つ親として、ロザリーの気持ちを寛容に受け入れることがどうしても出来なかったのだ。
「ここで暮らしたほうが、オリヴァーのためにもなる」と言ったロザリーの判断に、アンドロは同意出来なかった。
「それは、オリヴァー様に聞いて判断されたことなのですか?」
その問いに、ロザリーは頭を振った。
そして、信じられないという目でアンドロを見やった。
「あの子はまだ3歳ですよ? そんな幼い子がそんなことを問われて、わかるわけがないではないですか!」
そう決めつけるロザリーに、アンドロは若干の軽蔑を覚えた。
だが、何も言うことは出来ない。
ひとまず、クラウドの判断を仰ごうと、再びグランディア公爵邸に足を運んだ。
「……たびたび、迷惑をかけて申し訳ない」
仔細を聞いたクラウドは、ロザリーに変わって妻の非礼を詫びた。
クラウドもほとほと困ってしまった様子だ。
通されたティールームで、彼は自分と大して変わらない歳なのに、とても老け込んで見えた。三日前よりさらに、疲れているように見える。
この状況で、公務が忙しいことだけが原因とは思えなかった。
クラウド自身が下町に赴くのが良いと、彼自身も思っているらしいが、そんなことをすれば下町にロザリーたちがいることを誰が漏らしたとなることを懸念しているようだ。
そしてそれを知る人物に、すぐ思い当ってしまうだろう。
そうなれば、アンドロがロザリーに非難されてしまうだろうと危惧してくれたのだ。
「そのお心遣いは大変ありがたく思います。ですが、どうか私のことはお構いなく」
そう伝えても、クラウドは渋った。
渋りながらも「妻の要望を叶えてやりたいと思う」とクラウドは言った。
ロザリーを大切にしようと思うあまりの、判断ミスではないかとアンドロは感じた。
(この人はどうも、夫人に気遣いをしすぎる)
それを優しさというべきか、気が弱いというべきか、そんなことを考えないわけではないが、これ以上はアンドロが関わることが出来ない、夫婦間の問題だと諦めた。
「……ディザクライン侯爵。貴殿にこれ以上お願いをするのは……良くないことだとは分かっています、分かっていますが……最後に一つだけお願いをしたい。そこから先は、私のほうでやりますが、最後にもう一度だけ、手を貸していただきたい……」
「……どのような願いでしょう?」
アンドロは、目の前の哀れな公爵を慈しみながら、そう訊ねた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる