(休載中)下町のグランと公爵家のオリヴァー

rifa

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オリヴァーの昔話

オリヴァーとミレーの夜中会話・3

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「……おい、ミレー。聞いてんのか? 口説いてんだが」
 オリヴァーが急にグラン口調に変え、整ったその綺麗な顔をぐいっとミレーに近づけた。「ひゃ」
 また声が上がりそうになったのを、すでに予期していたらしいオリヴァーの手に塞がれ、音になる前に喉の奥へと戻って行った。
「移動しようか」
 いつまでも冷える廊下で立ち話もどうかと思ったのだろう。ミレーもそれに同意した。
 ゆっくり足を動かそうとする前に、オリヴァーがミレーを両手で担ぎ上げ、お姫様抱っこをしながら歩き出した。
「ッ!?」
 驚いて声が出そうになったのを、今度は自分の意思で止めることが出来た。
 オリヴァーはそんなミレーの顔を覗き込みながら、満足そうに笑った。
「自分で気づけて偉いぜ、ミレー」
 オリヴァーはすぐにミレーを褒める。何をしても褒める。おそらく呼吸をしているだけでも褒めてくれるだろう。
(やさしいなぁ)
 ミレーはそのオリヴァーの誉め言葉をすべて『優しさ』だと思っていた。

 連れてこられたのはオリヴァーの部屋だった。
 初めて入る彼の部屋は、どこか殺風景を思わせるほど、何もなかった。
 クローバー家のミレーの部屋よりは物はあるが、オリヴァーの部屋も最小限のものしか置いていなかった。
 グランディア邸で割り当てられたミレーの部屋より何もない。
 ミレーの部屋のようにベッドに天蓋が付いておらず、ドレッサーも本棚もないし、絵も飾られていない、シャンデリアもない……とにかく、ミレーに割り当てられた部屋にある娯楽的なものが、オリヴァーの部屋には一切ないのだ。
 あるのは、天蓋の付いていないふかふかのベッドと、大きめのクローゼット、丈夫そうな大きく長い黒革のソファー、そしてそのソファーの傍に、何本か刀が立て置かれていた。
 それだけだ。
 実家のミレーの部屋よりも簡素に思えるが、最低限置かれている家具がすべて高級さと清潔感を放っているため、ミレーの部屋より立派な部屋に見えた。
「……本棚が無い、ですね」
「本はあまり好きじゃないから、部屋には置かない。あんなもん部屋に置いていたら、眠れるものも眠れねえっつーの」
「……ふふっ」
「……どうした、ミレー?」
 すっかりグラン口調のオリヴァーに、うっかり笑いがこぼれてしまった。
 オリヴァーは柔らかい表情で優しく問いかけてくれた。
 ミレーは頭を振って「つい嬉しくなってしまって」と答えた。
 その言葉の意味をどう受け止めたのか、オリヴァーは目を細めて笑みを浮かべたまま「そうか」と言った。
「ミレーは本を読むのか?」
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