(休載中)下町のグランと公爵家のオリヴァー

rifa

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オリヴァーの昔話

オリヴァーとミレーの夜中会話・2

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「……オリヴァー……様!」
「……眠れないのか?」
 心配そうに訊ねる声に安心しながら、ミレーは頷いた。
「……疲れているのに、目が覚めてしまって」
「今日はいろいろなことがあったからな。オレもこの邸に来たときは、いつも寝不足だった」
「……オリヴァー様がこの邸にきたとき」
 昼間に聞かせてもらったオリヴァーの昔話を思い出す。
 オリヴァーにとってあまり楽しい話ではないかもしれないが、話を逸らせるのもわざとらしい気がして、ミレーは黙ってしまった。
「そう気を使わなくていい。言いたいことや聞きたいことは遠慮なく聞いてくれ。ミレーに聞かれたことなら、喜んで答えたい」
「……オリヴァー様」
「ん?」
「……ううん、ありがとうございます。でも」
 自分の意見を言うのが躊躇われる。
 今まで、相手の機嫌を損ねないように黙ってやり過ごすのが、ミレーの生き方だったからだ。
(相変わらず情けない……)
 そう考えたとき、頭を軽くポンポンポンと三回叩かれた。
 グランが下町で『ミレーが変なことを考えたら叩いて、頭から埃を出すように変な考えを出している』と言ってから、何度も頭を軽く叩かれる。
 撫でられている、という表現に近いかもしれない叩き方ではあるが。
「……私が何を考えているのか頭の中を覗き見ることでも出来るの?」
 じとりと睨みやれば、オリヴァーはなんてことないように言い放つ。
「そんなこと出来なくても、ミレーの考えていることならなんとなく分かる」
「なんとなくで、人の頭を叩かないでよ! 私の背が縮んじゃったらどうするの?」
 言葉遣いが無遠慮なものになってしまう。
 逆にオリヴァーはそれが嬉しいらしく、生き生きとした声で返してくる。
「オレがその分大きくなってやるから、安心しろ」
「何がどういう解決になっているの?!」
 つい声量が上がってしまったミレーの口を、オリヴァーが固い右手の平で押さえた。
「みんな寝ているから」
 大きな窓ガラスから差し込んだ月光に照らされたオリヴァーの瞳が、キラキラと輝いていた。
 陽の光の下では真っ黒な艶めいた彼の黒髪が、月光に照らされるとやや紅紫色に艶めいて見えた。
 朝と夜で印象の変わって見える彼の姿に、ミレーは自身の心臓がどうにかなるのではないかと思うほどに高鳴っていた。
「……月光に照らされたミレーも、綺麗だな」
 うっとりと慈しむように表情を崩し微笑むオリヴァーは、どこか妖艶に映って見えた。
(うぅ……全世界の女性が嫉妬してしまうくらい格好いい……)
 世の女性が誰に嫉妬するのか。もちろんアリサに、である。
 契約上はまだオリヴァーはアリサと婚約関係を結んでいるのだ。なので、ミレーもアリサに嫉妬している。
 しかしオリヴァーはもうアリサとの婚約破棄手続きを進めているし、同時進行でミレーとの婚姻契約に向けて手続きを始めているのだ。
 実感がないので、その事実に目をつむっている。

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