(休載中)下町のグランと公爵家のオリヴァー

rifa

文字の大きさ
13 / 39
オリヴァーの昔話

オリヴァーとミレーの夜中会話・1

しおりを挟む
「……ん……」
 暗い部屋で目を覚まして見上げた天井は、いつもの天井ではなかった。
自分が身を預けている布団も、硬い粗末なものではなく、ふかふかとしていて、洗濯したての清潔感に溢れた香りがミレーの鼻に届く。
 ここはクローバー家のミレーの部屋ではなく、グランディア家がミレーに与えた部屋だと思い出すまで少し時間を要し、その間しばらく困惑していた。
「……そうだった。グラン……じゃなかった。オリヴァーに、今日からここで暮らせって言われて……」
 眠る前の日のことを思い出す。
 下町に向かう途中の並木通りで暴漢に襲われていたところを、オリヴァーが助けてくれた。そして彼に保護をされ、暴漢にミレーを襲わせるよう指示を出したのが義妹のアリサ・クローバーではないかという疑いがあるため、その義妹の下に帰ることを懸念したオリヴァーが、ミレーの身柄をグランディア邸で預かると言ったのだ。
(そして……アリサと婚約を破棄して、私と婚姻を結ぶ……)
 本当にそんなことが許されるのだろうか。自分もしっかりと義妹や父親と話をしたほうがいいのではないか、と意見をしたが「話が通じる相手なのか?」と訊ねられれば、ミレーはもう言い返すことが出来なくなってしまった。
 話を聞く人たちであれば、ミレーはここまで追い詰められていないからだ。
 ため息を吐いて、ミレーはゆっくりとベッドから降りた。
「いたっ……」
 オリヴァーがぐるぐる巻きにしてくれた足が、わずかに傷んで顔をゆがめる。
 日中はなんだかんだオリヴァーやカミラたちが支えてくれたおかげでそこまで痛くなかったのだと知った。一人の力で立とうとすると、こんなに痛い。
(思ったより……怪我していたんだ)
 他人事のように思ってしまう。
いきなり普段の生活と、なにもかもかけ離れた生活をしているせいか、丸一日も経っていないのに気持ちは対岸の火事だ。
 周囲を見渡す。
 あたりはまだ夜のようだが、眠る前のことを思い出しているうちに、闇夜に眼が慣れてきた。
「……オリヴァーも、もう寝ているかな」
 そもそも、どこがオリヴァーの部屋かも分からない。日中入った部屋すら、廊下に出てしまえばわからないほど部屋がたくさんあるのに、夜間ともなると、もう混乱しかないのではないだろうか。
 危惧しながらも、ミレーは音をたてぬよう気をつけながら部屋を出た。
 廊下は日中見るより広く感じられた。
 その理由は。
「……キレイ」
 外に面している大きな窓ガラスの数々から差し込む月光が、廊下の装飾品を照らしてキラキラと輝いていたのだ。
「わ、わッ……! まるで海中にいるみたい……ッ!」
 つい、音をたてないように気をつけていたことも忘れて声を上げてしまった。
 海中のような廊下に驚いていると、背後から「ぷっ」と吹き出すような声が聞こえた。
 そちらにもひどく驚いて、しばらく反応できずにいた。
「オレもこの景色は好きだよ」
 その声で、笑った主の正体がわかったから安堵できた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...