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起きた時、一番に窓の外が見えた。
窓はもう閉じられていたが、外はまだ真っ暗だった。
「お、ミレー。起きたか」
「ごめ、なさい。私、どのくらい寝てたの……?」
「30分くらいしか寝てないって。ちょうど飯が出来たところだから、食おうぜ。起き上がれるか?」
グランがミレーの身体を起こそうとしてくれようとしたが、その前に自分で身を起こした。
先ほどまで裸だった自分の身体は、すでにバスローブのような衣服を纏っていた。
「???」
「あ、それオレが着せといた。すっぽんぽんだと風邪ひくだろ?」
「……あ、ありがとう」
慌ててお礼を言ってから、またバスローブを見る。
そしてグランをまた見る。
「どした?」
グランは、温かそうな湯気を放つスープと焼いたパンをテーブルに並べながら不思議そうにミレーを見やる。
「……い、いえ」
今ミレーが着ているバスローブは、グランが今着ている服よりずっと高価に見える。というより、ミレーの普段着より、今着ているグランの服の方が綺麗だし、今着ているミレーのバスローブはそのグランの服より上等そうだ。
(平民の普段着やバスローブより劣るドレスを着ていた私が仮にも貴族だなんて、笑っちゃう……)
自嘲的な笑みをこぼしながら、グランがいるテーブルへ歩み寄った。
「まあいいか。ほら、飯食おうぜ」
「……め、飯? え、私も?」
「当たり前だろ」
グランの向かい側のテーブルに座るよう促され、訳が分からないままその指示に従い椅子に座った。
目の前にはグランのであろうスープとパンと水の入ったグラス、そして自分の前にも同じものが並べられていた。
「お代わりもあるから、食えそうなら遠慮なく言えよ」
そう告げるグランは「いただきます」と自身の前で手を合わせて食事をし始めた。
だがミレーは、いつまでも目の前にある食事に手がつけられなかった。
(食べる、の? これを? あ、でもグランが作ってくれたスープ……早くしないと冷めちゃう……でも……)
どうしたらいいかわからず困っていると、グランの手がすっとミレーの前に伸びて、彼の持つ匙がミレーの前に置かれたスープをひと掬いした。
彼はそのまま掬ったスープをこくりと飲んでから、自身の前の皿のスープを同じ匙で掬ってミレーの前に差し出した。
「ん」
「……あっ」
これを食せ、という意味だと理解するが早く、ミレーはそのスープを匙ごと口に含んだ。
「……ん」
スープは匙に乗っている間に少し冷めたらしく、飲んでもまったく熱くなかった。飲みやすい。
それでもぬくもりのような温かさが残っており、ミレーの身体がほんわり安堵したのを感じる。
ミレーは夢中でスープを掬って食べた。この身なりで今更令嬢を気取っても意味はないが、最低限の矜持から出来るだけ見栄えを気にして食べた。
それでも、自分の身体は思っていたより飢餓状態だったのか、あっという間に目の前のスープを平らげてしまった。
「うまかったか?」
空になったスープ皿を名残惜しく見つめていたが、グランの声に顔を上げれば、嬉しそうに彼が笑んでいた。
「は、はい!」
「良かった。まだ食えそうならお代わりをよそうけど……」
そう問われるが、さすがにお代わりまでいただくわけには……と断ろうとしたところでミレーのお腹がぎゅるるると音を鳴らした。
「?」
お腹を壊したのかと思っていると、グランが「ぷっ」と吹き出した。
「まだ足りないみたいだな」
「え?」
グランがミレーの前にある空の皿を手に取り、またそれにスープを注ぎ入れていた。
「今のは腹の虫だよ。腹が減っているときに鳴るんだ。今まで鳴ったことないのか?」
ミレーは黙って頷く。気持ちがすでに、香り立つスープの入った皿に向けられている。
それがグランの苦笑で我に返る。
(わ、私……グランと話をしているのに食べ物に夢中になるなんて……!)
また熱くなってきた顔を両手で隠すように抑える。
「良いんだよ。作った甲斐があるってものだ。作った人間にとってはそれを喜んで食べてくれれば冥利に尽きるんだ。だから、ミレーが美味しそうに食べてくれているだけで良いんだぜ」
(神なのかしら?)
こんな寛大な受け止め方をしてくれた人間なんて、ミレーの実家にはいなかった。
食べているスープも温かいが、それ以上にじんわりとしたぬくもりがミレーの胸いっぱいに広がっていく。
「もっと食べて、もう少し身体に肉をつけろよ。……今のままだと、強く抱きしめたら骨を折っちまいそうだからな」
笑いながら怖いことを言う。ミレーは気にしたことはないが、そんなに自分の骨は脆く見えるのだろうかと気になった。
窓はもう閉じられていたが、外はまだ真っ暗だった。
「お、ミレー。起きたか」
「ごめ、なさい。私、どのくらい寝てたの……?」
「30分くらいしか寝てないって。ちょうど飯が出来たところだから、食おうぜ。起き上がれるか?」
グランがミレーの身体を起こそうとしてくれようとしたが、その前に自分で身を起こした。
先ほどまで裸だった自分の身体は、すでにバスローブのような衣服を纏っていた。
「???」
「あ、それオレが着せといた。すっぽんぽんだと風邪ひくだろ?」
「……あ、ありがとう」
慌ててお礼を言ってから、またバスローブを見る。
そしてグランをまた見る。
「どした?」
グランは、温かそうな湯気を放つスープと焼いたパンをテーブルに並べながら不思議そうにミレーを見やる。
「……い、いえ」
今ミレーが着ているバスローブは、グランが今着ている服よりずっと高価に見える。というより、ミレーの普段着より、今着ているグランの服の方が綺麗だし、今着ているミレーのバスローブはそのグランの服より上等そうだ。
(平民の普段着やバスローブより劣るドレスを着ていた私が仮にも貴族だなんて、笑っちゃう……)
自嘲的な笑みをこぼしながら、グランがいるテーブルへ歩み寄った。
「まあいいか。ほら、飯食おうぜ」
「……め、飯? え、私も?」
「当たり前だろ」
グランの向かい側のテーブルに座るよう促され、訳が分からないままその指示に従い椅子に座った。
目の前にはグランのであろうスープとパンと水の入ったグラス、そして自分の前にも同じものが並べられていた。
「お代わりもあるから、食えそうなら遠慮なく言えよ」
そう告げるグランは「いただきます」と自身の前で手を合わせて食事をし始めた。
だがミレーは、いつまでも目の前にある食事に手がつけられなかった。
(食べる、の? これを? あ、でもグランが作ってくれたスープ……早くしないと冷めちゃう……でも……)
どうしたらいいかわからず困っていると、グランの手がすっとミレーの前に伸びて、彼の持つ匙がミレーの前に置かれたスープをひと掬いした。
彼はそのまま掬ったスープをこくりと飲んでから、自身の前の皿のスープを同じ匙で掬ってミレーの前に差し出した。
「ん」
「……あっ」
これを食せ、という意味だと理解するが早く、ミレーはそのスープを匙ごと口に含んだ。
「……ん」
スープは匙に乗っている間に少し冷めたらしく、飲んでもまったく熱くなかった。飲みやすい。
それでもぬくもりのような温かさが残っており、ミレーの身体がほんわり安堵したのを感じる。
ミレーは夢中でスープを掬って食べた。この身なりで今更令嬢を気取っても意味はないが、最低限の矜持から出来るだけ見栄えを気にして食べた。
それでも、自分の身体は思っていたより飢餓状態だったのか、あっという間に目の前のスープを平らげてしまった。
「うまかったか?」
空になったスープ皿を名残惜しく見つめていたが、グランの声に顔を上げれば、嬉しそうに彼が笑んでいた。
「は、はい!」
「良かった。まだ食えそうならお代わりをよそうけど……」
そう問われるが、さすがにお代わりまでいただくわけには……と断ろうとしたところでミレーのお腹がぎゅるるると音を鳴らした。
「?」
お腹を壊したのかと思っていると、グランが「ぷっ」と吹き出した。
「まだ足りないみたいだな」
「え?」
グランがミレーの前にある空の皿を手に取り、またそれにスープを注ぎ入れていた。
「今のは腹の虫だよ。腹が減っているときに鳴るんだ。今まで鳴ったことないのか?」
ミレーは黙って頷く。気持ちがすでに、香り立つスープの入った皿に向けられている。
それがグランの苦笑で我に返る。
(わ、私……グランと話をしているのに食べ物に夢中になるなんて……!)
また熱くなってきた顔を両手で隠すように抑える。
「良いんだよ。作った甲斐があるってものだ。作った人間にとってはそれを喜んで食べてくれれば冥利に尽きるんだ。だから、ミレーが美味しそうに食べてくれているだけで良いんだぜ」
(神なのかしら?)
こんな寛大な受け止め方をしてくれた人間なんて、ミレーの実家にはいなかった。
食べているスープも温かいが、それ以上にじんわりとしたぬくもりがミレーの胸いっぱいに広がっていく。
「もっと食べて、もう少し身体に肉をつけろよ。……今のままだと、強く抱きしめたら骨を折っちまいそうだからな」
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