平民に扮した公爵さまの甘い愛に蕩かされる令嬢の話

rifa

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「……なんで、こんなにしてくれるの?」
「ん?」
「わ、私に、昔会ったことがあるって言っても、私……覚えてないし……」
「……やっぱり覚えてないか」
 やや残念そうな声だが、仕方ないか、みたいな感じでため息を吐くグラン。だがなんでもないかのように自身も食事を続けた。
(……グラン、食べ方綺麗……)
 十年も前に礼儀作法を教わったきりで、それからは活かす機会もなかった自分の作法とは比べ物にならなかった。
 気をつけてはいるものの、スープがどうやってもテーブルの上に少量零れてしまい、やがて諦めて匙を置いた。
「もう腹いっぱいなのか?」
 グランはパンを千切っていた。なぜかそれをミレーのほうへ向けていた。
「う、うん……もう……」
 ぎゅるるる、とミレーのお腹の音が鳴る。
「まだ足りねえってさ」
 グランは千切ったパンの欠片をミレーの口にねじ込み、手ぶらになった指でミレーの唇を撫でた。
「……良いから食え」
 にぃっと笑むグランの表情が眩しく、目を細める。
 諦めて口の中に入れられたパンを咀嚼する。こちらもとても美味しい。
 グランがまたパンを千切ってミレーに向けようとしたので「自分の分がまだあるから!」と慌てて断った。
「そうか? ……じゃあ、そのパンを一口オレにもちょうだい?」
「え?」
 グランはミレーの回答を待たずに「あーん」と口を開いて、ミレーを見つめた。
 口を開けて待つグランは大きな雛鳥のようで、ちょっと可愛らしいなとつい笑ってしまった。
 根負けして、ミレーは自身のパンを、さきほどグランが自分にくれたのと同じくらいの大きさほど千切って、彼の口の中に入れた。
 ミレーの指がひっこめられる前に、グランが口を閉じて、ミレーの指を咥えた。
「ひぃう!?」
 グランの口の中で、ミレーの指がじゅぽじゅぽと粗く舐められる。その都度、口内に残っていると思われるふにゃふにゃになったパンにも触れた。
「グラッ……ぎょ、行儀悪い……っ……!」
 指が舐められているだけなのに、身体がびくりと反応してしまう。
 お風呂場でグランに触れられてから、彼に触れられると思うだけで身体が何かを期待しているように反応するのだ。
 グランはミレーの差し出した手首を掴んで、一度口から放してくれた。
 だが彼は口内に残っていたパンを飲み込むと、またミレーの指をゆっくり舐めた。
「んっ……はぁぅ♡」
「きもひいい?」
「やっ、だ、から……ぁ……咥えたまま、話さないでェ……」
 口を閉じてミレーの指を捕食したまま、口内で舌を使って、逃げ場を失ったミレーの細長い指を舐め続けていた。
「ぁふ……♡♡」
 次第に変な気持ちになってくる。
 舐められているのは指なのに、下腹部が、先ほどグランに風呂場で撫でられたところがじんじんと疼きだしたのだ。
 変な気持ちになったことを悟られないように、ミレーはグランを睨み上げた。
「やめ……て……」
「……悪かったって。そんなに怒るなよ」
 グランは口を開いて、ミレーの手指を解放した。
(……あ、おまた……え、う、うそ、私、漏らしちゃっ……?)
 グランに借りたバスローブ……しかも高そうなバスローブに染みがついてしまったかもしれないと慌てるが、今この場で確かめることも出来ない。
 どうしたらいいか分からず困って、困り果てて……ミレーは泣き出した。
「み、ミレー? ど、どうした? 気持ち悪かったか?」
 さすがに慌てた様子のグランだが、彼に漏らしてしまったことを告げるわけにもいかない。
 どうしようもなくて、ただ泣くしか出来ないミレーの頭を撫でようとしたのか、グランが席から立ち上がりこちらへ近づいてきたので、大きな声を出して静止を呼びかけた。
「だ、だめ……来ないで!」
「……もう何もしないから」
 落ち込む表情の彼に、酷い態度を取ってしまったかもしれないと反省したが、来てほしくない気持ちは本当だ。
(でも、はやく洗濯しないと、この綺麗な白いバスローブに染みが……)
「ぐ、グラン……」
「! なんだ?」
「……近くに、井戸か、池、ありますか……?」
「水が欲しいのか?」
 グランはちらりとテーブルの上を見る。
 ガラスコップに注がれている水に、一切手を付けていないのを見て不思議に思ったのだろう。
 だがすぐにあることに気づいたようだ。
「……漏らした?」
 彼の直球な質問に、顔が炎上しているのではないかというほど熱くなった。
「ば、ばばば、ば……」
「バカ、って言いたいのか?」
 言葉が出なくなり、涙目で言葉をつっかえさせていると、言いたいことをグランは察してくれたようだ。
「悪かったって。デリカシーがないってのは、よく言われるが……。まぁじゃあ、洗ってきてやるから、バスローブ脱いで……他のバスローブを持ってくるから。あとちょっと床も拭くから、脱いだバスローブで足を拭いて……」
「私がやる」
「え? でも……」
「……私が悪いんだもの、私がやるのは当然でしょう」
 恥ずかしさと情けなさで涙ぐみながら、ミレーは自身のバスローブを脱いで、黄色く変色してしまったバスローブで太ももと、ふくらはぎと、足元に滴る液をそれで拭った。
 だが少し拭いたところで、それを取り上げられる。
 抗議するようにグランを見れば、肘をついてミレーと目線を合わせてから、額に自分の額をぐりぐりと押し当ててきた。
 それでぐりぐり攻撃はやめてくれたが、別に痛くはなかった。少し前髪が乱れた程度だろう。
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