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オリヴァーはようやくアリサのほうに視線を向けた。視線だけ、向けた。
「それは、ミレーの嘘だからだ。……暴漢に襲われるところに偶然出くわして助けたのは、私だからな。キズモノになったっていうのは、状況を説明する前に貴女の御父君の先走った考えですから。そんな父親に問い詰められて恐怖したミレーが吐いた嘘を、真に受けた貴女がそれに便乗したというだけ」
「う、嘘? そ、それに、オリヴァー様が、この女を助けた?」
「あぁ。仕事でその付近にいて、たまたま」
平然と述べるが、それはたしかに嘘ではなかった。だが、『オリヴァーの仕事』ではないなと、ミレーは密かに思う。
「それより、大事なことは……ミレーを襲った暴漢たちは、アリサ夫人……貴女が指示して襲わせたと言うじゃないですか」
オリヴァーの言葉に、周囲のざわめきが強くなった。
「な、なんの根拠があって……!」
「言ったでしょう? ミレー嬢を助けたのは私だと。助け出した際、少し痛めつければ、暴漢たちはすぐに口を割ったんですよ。『アリサという男爵令嬢に指示をされた』と」
それを聞くとアリサは、身体をぶるぶると震わせて頭を振った。
「う、嘘です! そんなの嘘! わ、私はそんな奴らは知りませんし、そんなことも指示していません! 助けてください、オリヴァー様……! みんなで私をハメようと……」
「じゃあ何故、あなたはバークスファー伯爵のもとへ嫁がれたのですか?」
オリヴァーの問いに、アリサの身体がびくりと跳ねた。
「説明できないでしょう。……指示した暴漢たちはある子爵家の者で、保釈金を請求された家の者たちは彼らを見放し、見放された子爵令息たちは、保釈金を男爵家に請求して欲しいと懇願したんです。保釈金を渡さないのなら、アリサ嬢に指示されたと自白する、という脅迫文を、男爵家へ送った。それに怯えた男爵は、貴女と、男爵家の名誉を守るためにその保釈金を渡した。でも、その金額は男爵家にとって痛手だった。なぜなら、ミレー嬢を嫁がせるつもりでいた貴女の旦那であるバークスファー伯爵が、どこで知ったのか、ミレー嬢がキズモノになったという噂を耳にし、婚約破棄を言い渡してきたからだ。……男爵は、事前にもらっていた結納金で保釈金を払ってしまっていた。だからその分を返せば、男爵家は破産してしまう。それを阻止するため男爵は、貴女をミレー嬢の代わりに、バークスファー伯爵に嫁がせ、結納金を返さずに済んだ」
一気に説明を終わらせると、オリヴァーは息を吐いてから、アリサを見やる。
「……間違いないですよね?」
その目には侮蔑の色がありありと混ざっていた。
そんな冷たい視線を受けたアリサは、ボロボロと涙を流しながら肩を震わせている。
さすがにこれを見逃すことは出来ないと、ミレーはオリヴァーに懇願した。
「もう、ここで、やめて……」
「…………」
オリヴァーは何か言いたそうな顔をしていたが、何も言わずにじっとミレーを見ていた。
だが、諦めたように、それに従った。
それでもアリサに近づけまい、自分から離すまいとするようにオリヴァーが抱きしめるミレーに、アリサは憤った。
「離れなさいよ! あんた、なにオリヴァー様にべたべたくっついているのよ!」
くっついているのはオリヴァーなのだが、という言葉は、今は面倒くさいことになりそうなので言わないでいた。
「オレがくっついているんだよ」
言わないでおこうとしたのに、オリヴァーがさらりと言ってしまった。
「お、オリヴァー様……今すぐそんな女から離れてください……」
弱々しく紡がれるアリサの言葉を、オリヴァーはばっさり切り捨てた。
「婚約者なんで、無理だな」
「………………へ?」
「さ。もう帰っていいか?」
オリヴァーはアリサのコトはもう放っておくつもりなのか、エドワードのほうへ話しかけている。しかも、敬語を忘れて。
「……せめてお前の父親が到着するまではゆっくりして行ったらどうだ。というか、お前まだパーティーの主役である兄上と当主である父上にも謁見していないだろうが。ミレー嬢の傷の手当てもした方がいいだろうし」
エドワードの言うコトは正論だが、オリヴァー同様、もう丁寧な言葉を使う気がないようだ。
まわりを取り囲んでいる野次馬たちは、オリヴァーの『婚約者発言』に動揺しすぎて、二人の砕けた言葉遣いなど気にしている様子はない。
エドワードはどうかわからないが、オリヴァーは間違いなく気づいていない。
集まっている令嬢のほとんどの視線が、オリヴァーに抱きしめられているミレーに向けられていることに。
興味を含んだ様々な感情の視線が、ミレーを品定めするように不躾に突き刺す。
そのような好奇の視線に耐えるのはとても疲れるだろう。足や頬や頭皮がじくじく痛むのも、帰りたい気持ちを後押ししている。
だがこの状況で帰ってしまえば、どのようなうわさ話が広がるか分からない。
根も葉もないうわさが広がり、グランディア家とディザクライン家、なによりミレー自身の迷惑にならないようにするためには、今ここで帰るわけにはいかなかった。
ミレーはエドワードに向きなおると、背筋を伸ばして、足の痛みに耐えながら、丁寧にカーテシーをした。
「お気遣い感謝いたします。そのお言葉に甘えまして、傷の手当てをお願いしたく申し上げます」
「…………」
エドワードはしばらく沈黙していたが、咳払いをしてからようやく口を開く。
「頭を上げてください、ミレー嬢。もちろん、今宵はどうかゆるりとパーティーをお楽しみいただきたい」
「おい、ミレー……」
「ね。オリヴァー、いいでしょう? 私、パーティーは初めてだし、せっかくこの日のために色々頑張ったのだから。……ね?」
オリヴァーが止めに入りそうな気配を感じて、ミレーは彼の方へ振り返ると笑顔で伝えた。
彼は愚かではない。
ミレーのこの笑顔に込められた思惑を、彼が読み取れないはずはない。
オリヴァーはしばし不貞腐れたように黙ったが、すぐにうなずいた。
「……ではエドワード様のご厚意に感謝し、パーティーを楽しませていただきます」
しぶしぶ頭を下げるオリヴァーに、エドワードがにたりと笑みを浮かべる。
「いや、お前は帰っていいんじゃないか? 陛下と兄上への謁見が済んだら、お前だけとっとと帰って良いぞ」
頭を上げたオリヴァーの笑顔に、青筋が浮かんでいるように見える。
「正直、お前と顔を合わせているだけでイライラする。とっとと帰れ、オリバカ」
オリヴァーに顔を近づけて耳元で囁くエドワードに驚き、ミレーは足をもつれさせてその場で転倒した。
「ミレー!!」
驚いたオリヴァーが、距離の近いエドワードを押しのけてミレーを抱き起した。
「やっぱり足が痛いんじゃないか……!」
「ち、違うわ。ひ、ヒールが折れて……」
先ほどアリサに叩かれていた時に折れたのだろう。左のハイヒールの踵がぽっきり折れていた。
「気づかなくて悪かった……。あまりにも毅然としていたから……」
「そう見えたのなら良かったわ」
「……良くはないだろう」
オリヴァーと小さな声で会話をしていると、「ぷっ」と大きく噴き出すような声がした。
二人でそちらを見ると、目元のメイクが涙で崩れているアリサが、目元を黒くさせて大笑いしだした。
「無様すぎるわね! あんたなんかがオリヴァー様の婚約者? ありえないでしょう! 公爵家やオリヴァー様の弱みでも握ったの? そもそも、ディザクライン家の……マルク様の妹っていうのも意味わからないんだけど? トイレで間抜けにも転倒するみじめな女は、そういう卑怯な手でのし上がることしか出来ないでしょうが!!」
その言葉が、オリヴァーの怒りに拍車をかけているとも知らずに、アリサは大笑いをしている。
「……てめぇ、いい加減に」
「待って、オリヴァー。その前に、立ちたいの。手伝ってくれる?」
ここでオリヴァーをキレさせても意味がない。
それより、アリサを利用して、自分たちに向けられている悪意や風評被害を、お返ししたほうが良いと思いついたのだ。
「それは、ミレーの嘘だからだ。……暴漢に襲われるところに偶然出くわして助けたのは、私だからな。キズモノになったっていうのは、状況を説明する前に貴女の御父君の先走った考えですから。そんな父親に問い詰められて恐怖したミレーが吐いた嘘を、真に受けた貴女がそれに便乗したというだけ」
「う、嘘? そ、それに、オリヴァー様が、この女を助けた?」
「あぁ。仕事でその付近にいて、たまたま」
平然と述べるが、それはたしかに嘘ではなかった。だが、『オリヴァーの仕事』ではないなと、ミレーは密かに思う。
「それより、大事なことは……ミレーを襲った暴漢たちは、アリサ夫人……貴女が指示して襲わせたと言うじゃないですか」
オリヴァーの言葉に、周囲のざわめきが強くなった。
「な、なんの根拠があって……!」
「言ったでしょう? ミレー嬢を助けたのは私だと。助け出した際、少し痛めつければ、暴漢たちはすぐに口を割ったんですよ。『アリサという男爵令嬢に指示をされた』と」
それを聞くとアリサは、身体をぶるぶると震わせて頭を振った。
「う、嘘です! そんなの嘘! わ、私はそんな奴らは知りませんし、そんなことも指示していません! 助けてください、オリヴァー様……! みんなで私をハメようと……」
「じゃあ何故、あなたはバークスファー伯爵のもとへ嫁がれたのですか?」
オリヴァーの問いに、アリサの身体がびくりと跳ねた。
「説明できないでしょう。……指示した暴漢たちはある子爵家の者で、保釈金を請求された家の者たちは彼らを見放し、見放された子爵令息たちは、保釈金を男爵家に請求して欲しいと懇願したんです。保釈金を渡さないのなら、アリサ嬢に指示されたと自白する、という脅迫文を、男爵家へ送った。それに怯えた男爵は、貴女と、男爵家の名誉を守るためにその保釈金を渡した。でも、その金額は男爵家にとって痛手だった。なぜなら、ミレー嬢を嫁がせるつもりでいた貴女の旦那であるバークスファー伯爵が、どこで知ったのか、ミレー嬢がキズモノになったという噂を耳にし、婚約破棄を言い渡してきたからだ。……男爵は、事前にもらっていた結納金で保釈金を払ってしまっていた。だからその分を返せば、男爵家は破産してしまう。それを阻止するため男爵は、貴女をミレー嬢の代わりに、バークスファー伯爵に嫁がせ、結納金を返さずに済んだ」
一気に説明を終わらせると、オリヴァーは息を吐いてから、アリサを見やる。
「……間違いないですよね?」
その目には侮蔑の色がありありと混ざっていた。
そんな冷たい視線を受けたアリサは、ボロボロと涙を流しながら肩を震わせている。
さすがにこれを見逃すことは出来ないと、ミレーはオリヴァーに懇願した。
「もう、ここで、やめて……」
「…………」
オリヴァーは何か言いたそうな顔をしていたが、何も言わずにじっとミレーを見ていた。
だが、諦めたように、それに従った。
それでもアリサに近づけまい、自分から離すまいとするようにオリヴァーが抱きしめるミレーに、アリサは憤った。
「離れなさいよ! あんた、なにオリヴァー様にべたべたくっついているのよ!」
くっついているのはオリヴァーなのだが、という言葉は、今は面倒くさいことになりそうなので言わないでいた。
「オレがくっついているんだよ」
言わないでおこうとしたのに、オリヴァーがさらりと言ってしまった。
「お、オリヴァー様……今すぐそんな女から離れてください……」
弱々しく紡がれるアリサの言葉を、オリヴァーはばっさり切り捨てた。
「婚約者なんで、無理だな」
「………………へ?」
「さ。もう帰っていいか?」
オリヴァーはアリサのコトはもう放っておくつもりなのか、エドワードのほうへ話しかけている。しかも、敬語を忘れて。
「……せめてお前の父親が到着するまではゆっくりして行ったらどうだ。というか、お前まだパーティーの主役である兄上と当主である父上にも謁見していないだろうが。ミレー嬢の傷の手当てもした方がいいだろうし」
エドワードの言うコトは正論だが、オリヴァー同様、もう丁寧な言葉を使う気がないようだ。
まわりを取り囲んでいる野次馬たちは、オリヴァーの『婚約者発言』に動揺しすぎて、二人の砕けた言葉遣いなど気にしている様子はない。
エドワードはどうかわからないが、オリヴァーは間違いなく気づいていない。
集まっている令嬢のほとんどの視線が、オリヴァーに抱きしめられているミレーに向けられていることに。
興味を含んだ様々な感情の視線が、ミレーを品定めするように不躾に突き刺す。
そのような好奇の視線に耐えるのはとても疲れるだろう。足や頬や頭皮がじくじく痛むのも、帰りたい気持ちを後押ししている。
だがこの状況で帰ってしまえば、どのようなうわさ話が広がるか分からない。
根も葉もないうわさが広がり、グランディア家とディザクライン家、なによりミレー自身の迷惑にならないようにするためには、今ここで帰るわけにはいかなかった。
ミレーはエドワードに向きなおると、背筋を伸ばして、足の痛みに耐えながら、丁寧にカーテシーをした。
「お気遣い感謝いたします。そのお言葉に甘えまして、傷の手当てをお願いしたく申し上げます」
「…………」
エドワードはしばらく沈黙していたが、咳払いをしてからようやく口を開く。
「頭を上げてください、ミレー嬢。もちろん、今宵はどうかゆるりとパーティーをお楽しみいただきたい」
「おい、ミレー……」
「ね。オリヴァー、いいでしょう? 私、パーティーは初めてだし、せっかくこの日のために色々頑張ったのだから。……ね?」
オリヴァーが止めに入りそうな気配を感じて、ミレーは彼の方へ振り返ると笑顔で伝えた。
彼は愚かではない。
ミレーのこの笑顔に込められた思惑を、彼が読み取れないはずはない。
オリヴァーはしばし不貞腐れたように黙ったが、すぐにうなずいた。
「……ではエドワード様のご厚意に感謝し、パーティーを楽しませていただきます」
しぶしぶ頭を下げるオリヴァーに、エドワードがにたりと笑みを浮かべる。
「いや、お前は帰っていいんじゃないか? 陛下と兄上への謁見が済んだら、お前だけとっとと帰って良いぞ」
頭を上げたオリヴァーの笑顔に、青筋が浮かんでいるように見える。
「正直、お前と顔を合わせているだけでイライラする。とっとと帰れ、オリバカ」
オリヴァーに顔を近づけて耳元で囁くエドワードに驚き、ミレーは足をもつれさせてその場で転倒した。
「ミレー!!」
驚いたオリヴァーが、距離の近いエドワードを押しのけてミレーを抱き起した。
「やっぱり足が痛いんじゃないか……!」
「ち、違うわ。ひ、ヒールが折れて……」
先ほどアリサに叩かれていた時に折れたのだろう。左のハイヒールの踵がぽっきり折れていた。
「気づかなくて悪かった……。あまりにも毅然としていたから……」
「そう見えたのなら良かったわ」
「……良くはないだろう」
オリヴァーと小さな声で会話をしていると、「ぷっ」と大きく噴き出すような声がした。
二人でそちらを見ると、目元のメイクが涙で崩れているアリサが、目元を黒くさせて大笑いしだした。
「無様すぎるわね! あんたなんかがオリヴァー様の婚約者? ありえないでしょう! 公爵家やオリヴァー様の弱みでも握ったの? そもそも、ディザクライン家の……マルク様の妹っていうのも意味わからないんだけど? トイレで間抜けにも転倒するみじめな女は、そういう卑怯な手でのし上がることしか出来ないでしょうが!!」
その言葉が、オリヴァーの怒りに拍車をかけているとも知らずに、アリサは大笑いをしている。
「……てめぇ、いい加減に」
「待って、オリヴァー。その前に、立ちたいの。手伝ってくれる?」
ここでオリヴァーをキレさせても意味がない。
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