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ヒールが折れてしまった片方は脱いで、不格好だがなんとか歩いてパーティー会場へ戻る。
先ほど野次馬をしていた者たちの顔が、アリサを見てひそひそ話をしたり、くすくす笑ったりして見ていた。
(何よ……なによ、こいつら……!)
悔しさで涙が滲みかけた時、顔に何かかけられ、反射的に目をつむったが、少し目に入ってしまった。
「いたっ……いたい!」
慌てて目元を擦る。
匂いで、かけられたのが葡萄酒だとわかる。
「あら、ごめんなさい。ついうっかり手が滑ってしまいましたわ」
なんとか目を開けると、複数の女性に取り囲まれていた。
謝罪をした令嬢が、空になったグラスを隣の女性に渡すと、ドレスをつまんでカーテシーをした。
「お初にお目にかかりますわ。私、クリスティン子爵家のサーナと申します。……お見知りおきをしなくて結構ですわ。貴女とは今後お会いすることもないでしょうから」
「はっ、なによ、あんた。話したくないなら、話しかけないでくださる?」
「本当に言葉遣いまで汚らしいのですね。汚いものを会場に置いておけないと思いませんこと?」
サーナはまわりの令嬢に同意を求める。令嬢たちは皆くすくすと気持ちの良くない笑いをしながら、小柄なアリサを見下していた。
「なにを言って……ッ!」
令嬢たちに混じって気づかなかったが、見知った顔が三つあった。
「あ……」
「よう、アリサさん。久しぶりじゃん」
それは、アリサがミレーを襲うよう指示した子爵家の3人の男たちだった。
彼らの怒気を含んだ表情に後ずさりするが、後ろは令嬢たちが壁を作っており、逃げ出すことが出来ない。
「会場に入れないで外をうろうろしていたから、ちょっと手引きをして中に入れてあげたの。……貴女がこのお三方の人生と、私たちからオリヴァー様を奪ったこと、どう責任を取るのかしら?」
サーナは笑みを消し、蛇のように鋭い視線でアリサを睨みやった。
少し怯んだが、それよりアリサの中で湧き上がった怒りの感情が勝った。
「なによ! オリヴァー様を奪ったのはあのくそ女よ! 私じゃないでしょう!」
「貴女がこのお三方に命じてミレー嬢を襲わせることをしなければ、このお三方が子爵家から絶縁されて貴族でなくなることも、オリヴァー様がミレー嬢と結婚をすることもなかったわ」
「そ、そんなの……あ、あんたたちがちゃんとあの女をキズモノにしないから、失敗したからじゃない! あんたたちがしっかりあの女を殺していれば、こんなことに……」
「あなた、ご自分が何を言われているのかわかっていないようね」
サーナは冷たい表情で溜息を吐く。
「な、なによ。たかが子爵令嬢の分際で……!」
「なに? まだオリヴァー様に愛されているのは自分だと妄言を申し上げるおつもりで? それとも、散々家畜呼ばわりされていた伯爵さまの地位を、こういう時にだけ利用なさるおつもりなので?」
令嬢たちはくすくすと笑いだした。
元子爵家の子息たちもアリサを嘲笑っていた。
「本当に汚らしいわ。……そういえばアリサ夫人、あなたこの殿方たちに、令嬢を襲うなんてリスクが高い依頼をしたのに、まだ報酬が支払われていないとか? それって、良くないことだと思いません?」
サーナは首を傾げて、ほそめた目でアリサを見やる。
「ほ、報酬って……あんたたちがお父様に取り立てにきたじゃない! あのせいで私は伯爵家に嫁ぐことに……!」
「あれは、お父様からの報酬でしょう? あなたが最初にこの方たちとしたお約束ですよ。『デートくらいならしてあげても良い』って言ったらしいですわね。今して差し上げなさいよ。ここでだと邪魔になるでしょうから、裏庭で、4人仲良く。警備に気づかれないようにしておきますから、少しくらい騒いだって大丈夫ですわよ」
「さ、騒ぐって……なに、ちょ、何よ! ~~ッ!」
声をあげようとしたアリサの口に、細かく千切った湿ったパンを詰め込まれ、その上から布を巻きつけられ、吐き出せないようにされた。
声が出せず、身体も令嬢たちに押さえつけられ、アリサはなすすべもなく裏庭へ連れていかれる。
「ここまで恨みを買っておいて、ただ睦まじい男女のデートになると思っておいでで? 伯爵さまの下で大いに学ばれて、熟練したその手練れっぷりを存分に見せつけてあげてくださいよ!」
胸の前で軽く拳を握るサーナの言葉で、アリサの背中にぞわりと恐怖が這いまわった。
だがどうにもならない。
「あまり騒がないでくださいね」
サーナは持っていたスティレットナイフで、アリサの服を切り裂いて、下着姿にした。
「これでも逃げたいのならどうぞ。王室が主催するパーティー会場を、この姿で駆け回りたいのなら」
楽しそうに笑ってナイフを隠すサーナのいかれた行動に、アリサは身を震わせる。
「ではごきげんよう、アリサさん。……貴族として最後の夜を、どうぞ楽しんでくださいまし」
先ほど野次馬をしていた者たちの顔が、アリサを見てひそひそ話をしたり、くすくす笑ったりして見ていた。
(何よ……なによ、こいつら……!)
悔しさで涙が滲みかけた時、顔に何かかけられ、反射的に目をつむったが、少し目に入ってしまった。
「いたっ……いたい!」
慌てて目元を擦る。
匂いで、かけられたのが葡萄酒だとわかる。
「あら、ごめんなさい。ついうっかり手が滑ってしまいましたわ」
なんとか目を開けると、複数の女性に取り囲まれていた。
謝罪をした令嬢が、空になったグラスを隣の女性に渡すと、ドレスをつまんでカーテシーをした。
「お初にお目にかかりますわ。私、クリスティン子爵家のサーナと申します。……お見知りおきをしなくて結構ですわ。貴女とは今後お会いすることもないでしょうから」
「はっ、なによ、あんた。話したくないなら、話しかけないでくださる?」
「本当に言葉遣いまで汚らしいのですね。汚いものを会場に置いておけないと思いませんこと?」
サーナはまわりの令嬢に同意を求める。令嬢たちは皆くすくすと気持ちの良くない笑いをしながら、小柄なアリサを見下していた。
「なにを言って……ッ!」
令嬢たちに混じって気づかなかったが、見知った顔が三つあった。
「あ……」
「よう、アリサさん。久しぶりじゃん」
それは、アリサがミレーを襲うよう指示した子爵家の3人の男たちだった。
彼らの怒気を含んだ表情に後ずさりするが、後ろは令嬢たちが壁を作っており、逃げ出すことが出来ない。
「会場に入れないで外をうろうろしていたから、ちょっと手引きをして中に入れてあげたの。……貴女がこのお三方の人生と、私たちからオリヴァー様を奪ったこと、どう責任を取るのかしら?」
サーナは笑みを消し、蛇のように鋭い視線でアリサを睨みやった。
少し怯んだが、それよりアリサの中で湧き上がった怒りの感情が勝った。
「なによ! オリヴァー様を奪ったのはあのくそ女よ! 私じゃないでしょう!」
「貴女がこのお三方に命じてミレー嬢を襲わせることをしなければ、このお三方が子爵家から絶縁されて貴族でなくなることも、オリヴァー様がミレー嬢と結婚をすることもなかったわ」
「そ、そんなの……あ、あんたたちがちゃんとあの女をキズモノにしないから、失敗したからじゃない! あんたたちがしっかりあの女を殺していれば、こんなことに……」
「あなた、ご自分が何を言われているのかわかっていないようね」
サーナは冷たい表情で溜息を吐く。
「な、なによ。たかが子爵令嬢の分際で……!」
「なに? まだオリヴァー様に愛されているのは自分だと妄言を申し上げるおつもりで? それとも、散々家畜呼ばわりされていた伯爵さまの地位を、こういう時にだけ利用なさるおつもりなので?」
令嬢たちはくすくすと笑いだした。
元子爵家の子息たちもアリサを嘲笑っていた。
「本当に汚らしいわ。……そういえばアリサ夫人、あなたこの殿方たちに、令嬢を襲うなんてリスクが高い依頼をしたのに、まだ報酬が支払われていないとか? それって、良くないことだと思いません?」
サーナは首を傾げて、ほそめた目でアリサを見やる。
「ほ、報酬って……あんたたちがお父様に取り立てにきたじゃない! あのせいで私は伯爵家に嫁ぐことに……!」
「あれは、お父様からの報酬でしょう? あなたが最初にこの方たちとしたお約束ですよ。『デートくらいならしてあげても良い』って言ったらしいですわね。今して差し上げなさいよ。ここでだと邪魔になるでしょうから、裏庭で、4人仲良く。警備に気づかれないようにしておきますから、少しくらい騒いだって大丈夫ですわよ」
「さ、騒ぐって……なに、ちょ、何よ! ~~ッ!」
声をあげようとしたアリサの口に、細かく千切った湿ったパンを詰め込まれ、その上から布を巻きつけられ、吐き出せないようにされた。
声が出せず、身体も令嬢たちに押さえつけられ、アリサはなすすべもなく裏庭へ連れていかれる。
「ここまで恨みを買っておいて、ただ睦まじい男女のデートになると思っておいでで? 伯爵さまの下で大いに学ばれて、熟練したその手練れっぷりを存分に見せつけてあげてくださいよ!」
胸の前で軽く拳を握るサーナの言葉で、アリサの背中にぞわりと恐怖が這いまわった。
だがどうにもならない。
「あまり騒がないでくださいね」
サーナは持っていたスティレットナイフで、アリサの服を切り裂いて、下着姿にした。
「これでも逃げたいのならどうぞ。王室が主催するパーティー会場を、この姿で駆け回りたいのなら」
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