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アホ王子への教育とこの異世界
第38講 『料理と心と村上信夫 ~“おもてなし”が国を動かした時~』
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王宮大ホール。
煌びやかなシャンデリアの下、長いテーブルには豪華な料理がずらりと並んでいた。
――トラディア王国の外交晩餐会、開宴直前。
「おい、この料理、見た目はいいけどさ……」
ケイ王子がナイフでステーキを突っつきながら言う。
「冷めた料理出すってどうなの? もてなしって熱々じゃなきゃダメでしょ!」
「で、ですが殿下……! 全員同時に出すには限界が……!」
青ざめるのは王宮料理長、フラン・ド・ミュゼ。
王立厨房を仕切る実力派だが、王子のわがままにはいつも胃を痛めている。
「じゃあ一皿ずつ持ってこさせればいいじゃん!」
「全員にですか!? 百五十名おりますが!?」
「気合いで!!」
「無茶言うなぁ……!」
私は横でワインを口にしながら、思わず呟いた。
「……東京五輪の時の村上信夫のビュッフェスタイルって、やっぱ革新的だったんだなぁ」
ケイ王子がぱっとこちらを振り向く。
「なにそれ! ビュッフェ!? 美味そう!」
「いや、“食べ放題”じゃない。“おもてなしの形”の話だ」
「どう違うの!?」
「……仕方ねぇ。じゃあ、フラン料理長も一緒に講義だ」
「え、わ、私もですか!?」
*
黒板にはバンっと
『ホテルの厨房から世界へ日本のおもてなし文化を見せつけた男、村上信夫』
「さて、1964年――東京オリンピック。
戦後の日本が世界に“復興”を示す一大イベントだ」
私は黒板に“おもてなし=文化外交”と書いた。
「その時、選手たちが泊まった“選手村”で問題が起きた。
国も宗教も違う人たちに、同じ料理を出せない。
味付けも習慣もまったく違う。
――それを解決したのが、ひとりの料理人。村上信夫だ」
「へぇ……料理人がオリンピックで?」
「そう。“味の外交官”だよ。
彼は“相手の国の食文化を尊重し、同じ空間で食べられる形”を考えた。
それが――ビュッフェスタイル。
つまり、“自分で選んで、自分の国の味を作る”という自由な食の形だ」
「自分で取るの!? 王族的にありなの!?」
「その柔軟さこそ“進化”なんだ。
村上は言った――“料理は国境を越える言葉である”」
私は黒板にもう一行書いた。
『料理とは、食べる人の笑顔を想像する仕事である。』
フラン料理長が感嘆の声を上げた。
「……それは、料理人にとって最高の哲学ですな……!」
「彼はフランス料理の修行を積みながら、
“和”の心と“西洋”の技を融合させた。
ホテルオークラで“ホテルカレー”を発案し、
“世界の舌”に通じる味を作った。
しかも、食べるスピードや温度まで研究していた」
「え、温度!?」
「そう。彼は言った。“熱いものは熱く、冷たいものは冷たく”。
それが料理の礼儀であり、おもてなしの魂だと」
「つまり、“味”より“心”ってことか」
「そう。“味わう”とは、“相手の心を受け取る”ってことだ」
私は少し笑いながら言った。
「――ブリア=サヴァランが“食の哲学者”なら、
村上信夫は“おもてなしの戦略家”だな」
チョークを置き、深く息を吸う。
心の奥で何かが灯る。
「……私が作る料理に、国境はない。
異なる文化が一つのテーブルで笑い合う――
それが“平和の味”だ」
ケイ王子が叫ぶ。
「きたっ! コヒロの憑依魔術“料理人編”だ!!」
リョーキューがぼそっと言う。
「殿下、毎回テンション上がりすぎです……」
*
翌週。
トラディア王国での“諸外国大使晩餐会”が開催された。
テーブルには――料理が並んでいない。
代わりに、ホールの中央に巨大な調理台と長い列。
香ばしい香りと湯気が立ち上る。
「フラン料理長……これが……」
「はい。“ビュッフェスタイル”でございます。
各国の食材と味付けを少しずつ揃え、
どなたでも自由に取っていただけるようにしました」
外国の大使たちが驚き、笑い、皿を手に取っていく。
場に、笑顔が生まれた。
「……すげぇ。国境を越えた“食卓外交”だな」
私は思わず呟いた。
そこにケイ王子が現れ、堂々と胸を張る。
「どうだ! 僕の提案、成功だろ!!」
「お前、何もしてねぇだろ!!」
私は思わず王子の頭を引っ叩いた。
「いってぇ! 何すんだよ!?」
「“おもてなし”は“我が”じゃなく“共に”だ! 勘違いすんな!」
「……うっ……そ、そうだな……」
王子が頬を押さえながらも、笑っていた。
フラン料理長がその光景を見て、深々と一礼した。
「殿下、これぞ“美味礼讃”にして“心の宴”ですな」
私は肩をすくめ、呟いた。
「村上信夫……帝国ホテル料理長から東京五輪選手村でのビュッフェスタイル……昭和の料理の鉄人だよな」
煌びやかなシャンデリアの下、長いテーブルには豪華な料理がずらりと並んでいた。
――トラディア王国の外交晩餐会、開宴直前。
「おい、この料理、見た目はいいけどさ……」
ケイ王子がナイフでステーキを突っつきながら言う。
「冷めた料理出すってどうなの? もてなしって熱々じゃなきゃダメでしょ!」
「で、ですが殿下……! 全員同時に出すには限界が……!」
青ざめるのは王宮料理長、フラン・ド・ミュゼ。
王立厨房を仕切る実力派だが、王子のわがままにはいつも胃を痛めている。
「じゃあ一皿ずつ持ってこさせればいいじゃん!」
「全員にですか!? 百五十名おりますが!?」
「気合いで!!」
「無茶言うなぁ……!」
私は横でワインを口にしながら、思わず呟いた。
「……東京五輪の時の村上信夫のビュッフェスタイルって、やっぱ革新的だったんだなぁ」
ケイ王子がぱっとこちらを振り向く。
「なにそれ! ビュッフェ!? 美味そう!」
「いや、“食べ放題”じゃない。“おもてなしの形”の話だ」
「どう違うの!?」
「……仕方ねぇ。じゃあ、フラン料理長も一緒に講義だ」
「え、わ、私もですか!?」
*
黒板にはバンっと
『ホテルの厨房から世界へ日本のおもてなし文化を見せつけた男、村上信夫』
「さて、1964年――東京オリンピック。
戦後の日本が世界に“復興”を示す一大イベントだ」
私は黒板に“おもてなし=文化外交”と書いた。
「その時、選手たちが泊まった“選手村”で問題が起きた。
国も宗教も違う人たちに、同じ料理を出せない。
味付けも習慣もまったく違う。
――それを解決したのが、ひとりの料理人。村上信夫だ」
「へぇ……料理人がオリンピックで?」
「そう。“味の外交官”だよ。
彼は“相手の国の食文化を尊重し、同じ空間で食べられる形”を考えた。
それが――ビュッフェスタイル。
つまり、“自分で選んで、自分の国の味を作る”という自由な食の形だ」
「自分で取るの!? 王族的にありなの!?」
「その柔軟さこそ“進化”なんだ。
村上は言った――“料理は国境を越える言葉である”」
私は黒板にもう一行書いた。
『料理とは、食べる人の笑顔を想像する仕事である。』
フラン料理長が感嘆の声を上げた。
「……それは、料理人にとって最高の哲学ですな……!」
「彼はフランス料理の修行を積みながら、
“和”の心と“西洋”の技を融合させた。
ホテルオークラで“ホテルカレー”を発案し、
“世界の舌”に通じる味を作った。
しかも、食べるスピードや温度まで研究していた」
「え、温度!?」
「そう。彼は言った。“熱いものは熱く、冷たいものは冷たく”。
それが料理の礼儀であり、おもてなしの魂だと」
「つまり、“味”より“心”ってことか」
「そう。“味わう”とは、“相手の心を受け取る”ってことだ」
私は少し笑いながら言った。
「――ブリア=サヴァランが“食の哲学者”なら、
村上信夫は“おもてなしの戦略家”だな」
チョークを置き、深く息を吸う。
心の奥で何かが灯る。
「……私が作る料理に、国境はない。
異なる文化が一つのテーブルで笑い合う――
それが“平和の味”だ」
ケイ王子が叫ぶ。
「きたっ! コヒロの憑依魔術“料理人編”だ!!」
リョーキューがぼそっと言う。
「殿下、毎回テンション上がりすぎです……」
*
翌週。
トラディア王国での“諸外国大使晩餐会”が開催された。
テーブルには――料理が並んでいない。
代わりに、ホールの中央に巨大な調理台と長い列。
香ばしい香りと湯気が立ち上る。
「フラン料理長……これが……」
「はい。“ビュッフェスタイル”でございます。
各国の食材と味付けを少しずつ揃え、
どなたでも自由に取っていただけるようにしました」
外国の大使たちが驚き、笑い、皿を手に取っていく。
場に、笑顔が生まれた。
「……すげぇ。国境を越えた“食卓外交”だな」
私は思わず呟いた。
そこにケイ王子が現れ、堂々と胸を張る。
「どうだ! 僕の提案、成功だろ!!」
「お前、何もしてねぇだろ!!」
私は思わず王子の頭を引っ叩いた。
「いってぇ! 何すんだよ!?」
「“おもてなし”は“我が”じゃなく“共に”だ! 勘違いすんな!」
「……うっ……そ、そうだな……」
王子が頬を押さえながらも、笑っていた。
フラン料理長がその光景を見て、深々と一礼した。
「殿下、これぞ“美味礼讃”にして“心の宴”ですな」
私は肩をすくめ、呟いた。
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