三人の義兄から歪な愛を受けています

八百屋 成美

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 クリスとの甘い夜が過ぎ去っても、エリオットの心の混乱は深まるばかりだった。アレクシスに支配され、クリスに慰められる。二人の兄に身体を許してしまったという事実は、重い罪悪感となって彼にのしかかる。しかし同時に、それぞれの兄が与えてくれた強烈な快楽の記憶が、彼の身体の奥底に熱として残り続けていた。
 彼は、日中はなるべく二人の兄と顔を合わせないように、図書室や庭園の隅で静かに過ごすことが多くなった。しかし、そんな彼の変化を、もう一人の兄が見逃すはずはなかった。
 三兄、ゼム。
 彼は、魔術の研究に没頭するあまり、他の兄弟に比べてエリオットと接する時間は少なかった。しかし、その観察眼は誰よりも鋭く、そして冷静だった。
 ある日の午後、エリオットが図書室で古書を読んでいると、音もなくゼムが背後に立っていた。

「エリオット。少し、僕の研究室に来てくれないか」

 その声は、いつも通りの静かなものだったが、どこか有無を言わせぬ響きを帯びている。断れる雰囲気ではなく、エリオットは黙って頷いた。
 ゼムの研究室は、公爵邸の最も奥まった塔の中にあった。様々な鉱石や薬草、怪しげな光を放つ液体が入った瓶が所狭しと並び、甘く不思議な香りが漂っている。

「そこに座って」

 ゼムが指差したのは、部屋の中央に置かれた黒曜石で作られた、診察台のような長椅子だった。言われるがままにエリオットが腰を下ろすと、ゼムは彼の正面に立ち、そのミステリアスな紫の瞳でじっと見つめてきた。

「最近、君の様子がおかしい。……君の身体から発せられる魔力の流れが、乱れているんだ」
「魔力、ですか……?」
「そう。特に、感情の起伏によって揺らぐ、微細な魔力の波長がね。まるで、大きな喜びと、深い罪悪感という、相反する感情が同時に渦巻いているかのようだ」

 その言葉に、エリオットは心臓を鷲掴みにされたような衝撃を受けた。この兄には、何もかもお見通しなのか。

「兄さんたちに、何かされたのかい?」

 ゼムの問いは、単刀直入だった。その紫の瞳は、真実以外を許さないかのように、エリオットの心を射抜いてくる。エリオットは、顔を青ざめさせ、唇を固く結ぶことしかできなかった。

「……沈黙は、肯定と受け取るよ」

 ゼムは、静かにそう言うと、研究室の棚から一つの道具を取り出した。それは、水晶を滑らかに磨き上げた、美しい杖のようなものだった。先端には、小さな宝珠が埋め込まれている。

「これは、『真実の鏡』という魔道具だ。対象者の記憶に干渉し、隠された真実を映像として映し出すことができる」
「……!」
「もちろん、通常は尋問対象の犯罪者などにしか使わない。君にこれを使うのは、僕としても本意ではないんだが……。君が何も話してくれない以上、仕方ない」

 ゼムは、そう言うと杖の先端をエリオットの額にそっと当てた。ひんやりとした水晶の感触に、エリオットの身体が震える。

「やめ……やめてください、兄様……!」
「大丈夫。少し、君の記憶を覗かせてもらうだけだよ」

 ゼムの指が、杖に込められた魔術の起動印を結ぶ。宝珠が淡い光を放ち、エリオットの意識が、抵抗も虚しく深い霧の中へと引きずり込まれていく。
 杖の上の空間に、ぼんやりとした映像が浮かび上がった。
 ――書斎で、冷たい瞳のアレクシスに支配され、組み敷かれる自分の姿。
 ――寝室で、優しい言葉を囁くクリスに、蕩かされるように抱かれている自分の姿。
 そのあまりに生々しい光景に、ゼムの顔から、すうっと表情が消えた。いつもは静かな好奇心の色を宿しているだけの紫の瞳が、今は冷たい怒りと、熱い嫉妬の炎で燃え上がっていた。

「……なるほど。そういうことか」

 呟きは、絶対零度の響きを持っていた。

「アレクシスも、クリスも……僕の大切な研究対象に、なんてことをしてくれたんだ」

 ゼムは杖を離すと、今度は別の棚から、見たこともないような形状の、滑らかな黒曜石や水晶で作られた様々な道具が収められた箱を取り出してきた。それらは、どれも医療用具のようでもあり、拷問具のようでもあった。

「兄様……それは……?」
「魔力循環を活性化させるための、研究用の道具だよ」

 ゼムは、その中の一つ、先端が丸みを帯びた水晶の棒を手に取り、エリオットに見せつけるように言った。

「兄さんたちが君に与えたのは、ただの動物的な快楽だ。それでは、君の持つ稀有な才能は開花しない。僕が、本当の快楽というものを教えてあげる」

 その瞳は、もはや兄弟に向けるものではなかった。未知の現象を前にした、探究心と独占欲に駆られた魔術師の瞳だった。

「君の身体の、魔力の流れが最も集中する場所……そこを、この魔道具で刺激すれば、一体どんな反応が見られるのか。……ああ、興味が尽きないよ、エリオット」

 ゼムは、恍惚とした表情で、その冷たい水晶の先端を、震えるエリオットの内腿にそっと滑らせた。それは、これから始まる、未知の探究の合図だった。
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