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ゼムによる魔術的な探求の夜を経て、エリオットの中にあった最後の抵抗線は、完全に消え去っていた。支配的なアレクシス、甘く優しいクリス、そして未知の快楽を探求するゼム。三者三様の、しかし等しく深く歪んだ愛情をその身に刻み込まれ、彼の心と身体は、もはや兄たちなしではいられないほどに変えられてしまっていた。
その事実を、兄たち自身が気づかないはずはなかった。
ゼムの研究室での一件の翌日、彼はアレクシスとクリスを呼び出した。そして、真実の鏡を使い、エリオットの記憶から映し出した三つの夜――アレクシスとの夜、クリスとの夜、そして自分との夜――の光景を、無言で見せつけた。
嫉妬と怒りに燃え上がる二人の兄。特に、自分が付けた傷をクリスに慰められ、さらにゼムにまで好きにされていたことを知ったアレクシスの怒りは凄まじかった。クリスもまた、自分が癒やしたはずのエリオットが、さらに別の形で傷つけられ(あるいは悦ばされ)ていたことに激昂した。
「よくもエリオットを……!!」
三兄弟の間で、これまでで最も激しい争いが勃発した。魔術の光が飛び交い、剣が抜かれ、公爵邸の一室は戦場と化した。
「私が……私が、悪いのです。私が、兄様たち全員を……愛してしまったから……」
エリオットの悲痛な告白は、三人の兄たちの激しい争いを凍りつかせた。自分たちの独占欲が、このか細い身体にどれほどの重荷を負わせ、そして彼をここまで追い詰めてしまったのか。その事実に、三者三様の表情で打ちのめされていた。怒りも嫉妬も、今は後悔の念に押し流されていた。
部屋に、重い沈黙が落ちる。
その沈黙を破ったのは、意外にもエリオット自身だった。彼は涙を拭うと、震えながらも、まっすぐに兄たちを見据えた。
「……もう、争わないでください」
その声は、まだ弱々しかったが、確かな意志の光が宿っていた。
「兄様たちが争う姿を見るのが、私には一番つらいのです。もし……もし、私が原因で兄様たちの絆が壊れてしまうくらいなら……私は……」
そこまで言って、エリオットは言葉を詰まらせた。その瞳に浮かんだのは、深い絶望。彼は、自らの命を絶つことさえ厭わない、と暗に告げていたのだ。
その覚悟は、三人の兄にとって何よりも恐ろしいものだった。エリオットを失う。その可能性は、彼らの心からすべての個人的な欲望を消し去るには十分だった。
「……分かった」
最初に口を開いたのはアレクシスだった。彼は剣を鞘に収め、エリオットの前に膝をついた。
「もう、争わない。お前を苦しませることは、決してしないと誓おう」
「俺もだ、エリオット」とクリスが続いた。「お前が悲しむくらいなら、俺はなんだって我慢する」
ゼムもまた、静かに頷き、その手から魔力の光を消した。「君の望む通りにしよう」
三人の誓いを聞き、エリオットの肩からふっと力が抜けた。しかし、問題の根本は解決していない。三人が自分を求め、自分が三人を受け入れてしまったという事実は変わらないのだ。このままでは、またいつか同じことが繰り返されるだろう。
「……一つだけ、お願いがあります」
エリオットは、震える声で、しかしはっきりと告げた。それは、彼がこの歪んだ状況の中で見つけ出した、唯一の答えだった。
「今夜だけ……今夜だけでいいですから……兄様たち、三人の愛を、私にください。それで、終わりにします」
「なっ……!?」
「エリオット、お前、何を……」
兄たちが驚愕する中、エリオットは続けた。
「アレクシス兄様の愛も、クリス兄様の愛も、ゼム兄様の愛も、私にはどれも大切です。だから、最後に、そのすべてを一度に感じたいのです。そして、明日からは……私はただの弟に戻ります。兄様たちも、ただの兄に……戻ってください……」
それは、あまりにも健気で、そして残酷な願いだった。一度知ってしまった愛を、一夜限りの夢として葬り去ろうというのだ。兄たちは、その提案に激しく心を揺さぶられた。しかし、エリオットの瞳に宿る、悲壮なまでの決意を前に、誰も反対することはできなかった。これは、彼がこの歪んだ関係に終止符を打ち、前に進むために必要な儀式なのだ。
その事実を、兄たち自身が気づかないはずはなかった。
ゼムの研究室での一件の翌日、彼はアレクシスとクリスを呼び出した。そして、真実の鏡を使い、エリオットの記憶から映し出した三つの夜――アレクシスとの夜、クリスとの夜、そして自分との夜――の光景を、無言で見せつけた。
嫉妬と怒りに燃え上がる二人の兄。特に、自分が付けた傷をクリスに慰められ、さらにゼムにまで好きにされていたことを知ったアレクシスの怒りは凄まじかった。クリスもまた、自分が癒やしたはずのエリオットが、さらに別の形で傷つけられ(あるいは悦ばされ)ていたことに激昂した。
「よくもエリオットを……!!」
三兄弟の間で、これまでで最も激しい争いが勃発した。魔術の光が飛び交い、剣が抜かれ、公爵邸の一室は戦場と化した。
「私が……私が、悪いのです。私が、兄様たち全員を……愛してしまったから……」
エリオットの悲痛な告白は、三人の兄たちの激しい争いを凍りつかせた。自分たちの独占欲が、このか細い身体にどれほどの重荷を負わせ、そして彼をここまで追い詰めてしまったのか。その事実に、三者三様の表情で打ちのめされていた。怒りも嫉妬も、今は後悔の念に押し流されていた。
部屋に、重い沈黙が落ちる。
その沈黙を破ったのは、意外にもエリオット自身だった。彼は涙を拭うと、震えながらも、まっすぐに兄たちを見据えた。
「……もう、争わないでください」
その声は、まだ弱々しかったが、確かな意志の光が宿っていた。
「兄様たちが争う姿を見るのが、私には一番つらいのです。もし……もし、私が原因で兄様たちの絆が壊れてしまうくらいなら……私は……」
そこまで言って、エリオットは言葉を詰まらせた。その瞳に浮かんだのは、深い絶望。彼は、自らの命を絶つことさえ厭わない、と暗に告げていたのだ。
その覚悟は、三人の兄にとって何よりも恐ろしいものだった。エリオットを失う。その可能性は、彼らの心からすべての個人的な欲望を消し去るには十分だった。
「……分かった」
最初に口を開いたのはアレクシスだった。彼は剣を鞘に収め、エリオットの前に膝をついた。
「もう、争わない。お前を苦しませることは、決してしないと誓おう」
「俺もだ、エリオット」とクリスが続いた。「お前が悲しむくらいなら、俺はなんだって我慢する」
ゼムもまた、静かに頷き、その手から魔力の光を消した。「君の望む通りにしよう」
三人の誓いを聞き、エリオットの肩からふっと力が抜けた。しかし、問題の根本は解決していない。三人が自分を求め、自分が三人を受け入れてしまったという事実は変わらないのだ。このままでは、またいつか同じことが繰り返されるだろう。
「……一つだけ、お願いがあります」
エリオットは、震える声で、しかしはっきりと告げた。それは、彼がこの歪んだ状況の中で見つけ出した、唯一の答えだった。
「今夜だけ……今夜だけでいいですから……兄様たち、三人の愛を、私にください。それで、終わりにします」
「なっ……!?」
「エリオット、お前、何を……」
兄たちが驚愕する中、エリオットは続けた。
「アレクシス兄様の愛も、クリス兄様の愛も、ゼム兄様の愛も、私にはどれも大切です。だから、最後に、そのすべてを一度に感じたいのです。そして、明日からは……私はただの弟に戻ります。兄様たちも、ただの兄に……戻ってください……」
それは、あまりにも健気で、そして残酷な願いだった。一度知ってしまった愛を、一夜限りの夢として葬り去ろうというのだ。兄たちは、その提案に激しく心を揺さぶられた。しかし、エリオットの瞳に宿る、悲壮なまでの決意を前に、誰も反対することはできなかった。これは、彼がこの歪んだ関係に終止符を打ち、前に進むために必要な儀式なのだ。
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