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29. クラス対抗リレー、最後の激走
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午前中の個人競技で、伝説(という名の失態)を次々と打ち立て、午後の騎馬戦では鉄壁の「絶対防御」を見せつけた騎士団。
彼らの常軌を逸した活躍(?)により、一年四組は良くも悪くも、この体育祭で最も注目されるクラスとなっていた。
そして、いよいよ、体育祭の最後を飾る最も盛り上がる競技が、始まろうとしていた。
学年でのクラス対抗リレー。
各クラスから選ばれた男女混合の選抜チームが、バトンを繋ぎクラスの誇りを懸けてグラウンドを駆け抜ける、体育祭のクライマックスだ。
「……はぁ、はぁ」
私は第一走者として、スタートラインに立っていた。
なぜ、私が。運動神経に、何一つ自信のない、私が。こんな大役を任されているのか。
その理由はもちろん、あの男のせいだ。
『乃蒼様! 貴女様に、このリレーの輝かしいスタートを切っていただきたいのです! 我々が、必ずや、貴女様の想いを繋ぎ、勝利へと導いてご覧に入れます!』
一条くんの、あの、キラキラとした一切の悪意のない瞳。
そして、それに同調するクラスメイトたちの、無責任な期待の眼差し。
その圧力に屈し、私は断り切れなかったのだ。
隣のレーンには、陸上部であろう女子生徒たちが、真剣な表情でクラウチングスタートの体勢を取っている。
場違い感が、半端ない。今すぐ、この場から逃げ出したい。
パーン!
無情にも、スタートのピストルが鳴り響く。
私は、ただ必死に、腕を振って足を前に出すことだけを考えた。
「頑張れー! 夢見ヶ崎さーん!」
「団長ー! 行けー!」
クラスメイトたちの、温かい声援が背中を押してくれる。
もちろん、陸上部のエースたちに敵うはずもない。
私は、あっという間に他の走者たちに引き離され、最下位で第二走者にバトンを渡した。
「ご、ごめん!」
「いいって、いいって! よく頑張った!」
その後も、四組の走者たちは、懸命にバトンを繋いでいく。
騎士団以外の普通のクラスメイトたち。彼らもまた、騎士団が作り出したあの異様な熱気に当てられてか、誰もが、勝利を信じて必死の形相で走っていた。
そして、運命のアンカー。
トップを走る三組と、数メートルの差で二位につけていた我が四組のアンカー、早苗翔がバトンを受け取った。
「うおおおおおっ!」
早苗くんは、まるで解き放たれた狼のように爆発的なスピードで、最後のストレートを駆け抜けていく。
彼の驚異的な加速力。それは、一条くんの、パワー溢れる走りとはまた違う、しなやかで俊敏な走りだった。
ぐんぐんと、トップとの差が縮まっていく。
そして、ゴールラインのわずか数メートル手前で、彼はついに三組のアンカーを捉えた。
「「「「いけえええええええっ!!」」」」
クラス全員の、絶叫にも似た声援。
その声に後押しされるように、早苗くんは最後の力を振り絞り、トップでゴールテープを切った。
「「「「「やったああああああああああっ!!!」」」」」
歓喜の渦に包まれる、一年四組の応援席。
皆が、ハイタッチを交わし抱き合って、勝利を喜んでいる。
私も、自然と笑顔になっていた。
……あれ?
待てよ。
私は、ふと、ある違和感に気づいた。
クラス対抗リレーのアンカーは各クラスで最も足の速い生徒が務めるのが、普通だ。
そして我がクラスで、最も速いのは、間違いなくあの、人間離れした身体能力を持つ一条彰人のはず。
なのになぜ、アンカーが早苗くんだったのだろうか。
そして、その一条くんの姿が、どこにも見当たらない。
早苗くんが、息を切らしながら、私たちの元へ、戻ってきた。
「彰人の奴、『乃蒼様を、脅威に晒すわけにはいかん! アンカーは、お前に任せたぞ、翔!』なんて、格好つけて、行っちまったんだよ。おかげでこっちは、心臓破れるかと思ったぜ」
彼はそう言って、悪態をつきながらもその表情は、どこか、誇らしげだった。
一条くん、どうしたのだろうかと、一瞬、思ったが、いつものことだろうと私は納得した。
彼らの常軌を逸した活躍(?)により、一年四組は良くも悪くも、この体育祭で最も注目されるクラスとなっていた。
そして、いよいよ、体育祭の最後を飾る最も盛り上がる競技が、始まろうとしていた。
学年でのクラス対抗リレー。
各クラスから選ばれた男女混合の選抜チームが、バトンを繋ぎクラスの誇りを懸けてグラウンドを駆け抜ける、体育祭のクライマックスだ。
「……はぁ、はぁ」
私は第一走者として、スタートラインに立っていた。
なぜ、私が。運動神経に、何一つ自信のない、私が。こんな大役を任されているのか。
その理由はもちろん、あの男のせいだ。
『乃蒼様! 貴女様に、このリレーの輝かしいスタートを切っていただきたいのです! 我々が、必ずや、貴女様の想いを繋ぎ、勝利へと導いてご覧に入れます!』
一条くんの、あの、キラキラとした一切の悪意のない瞳。
そして、それに同調するクラスメイトたちの、無責任な期待の眼差し。
その圧力に屈し、私は断り切れなかったのだ。
隣のレーンには、陸上部であろう女子生徒たちが、真剣な表情でクラウチングスタートの体勢を取っている。
場違い感が、半端ない。今すぐ、この場から逃げ出したい。
パーン!
無情にも、スタートのピストルが鳴り響く。
私は、ただ必死に、腕を振って足を前に出すことだけを考えた。
「頑張れー! 夢見ヶ崎さーん!」
「団長ー! 行けー!」
クラスメイトたちの、温かい声援が背中を押してくれる。
もちろん、陸上部のエースたちに敵うはずもない。
私は、あっという間に他の走者たちに引き離され、最下位で第二走者にバトンを渡した。
「ご、ごめん!」
「いいって、いいって! よく頑張った!」
その後も、四組の走者たちは、懸命にバトンを繋いでいく。
騎士団以外の普通のクラスメイトたち。彼らもまた、騎士団が作り出したあの異様な熱気に当てられてか、誰もが、勝利を信じて必死の形相で走っていた。
そして、運命のアンカー。
トップを走る三組と、数メートルの差で二位につけていた我が四組のアンカー、早苗翔がバトンを受け取った。
「うおおおおおっ!」
早苗くんは、まるで解き放たれた狼のように爆発的なスピードで、最後のストレートを駆け抜けていく。
彼の驚異的な加速力。それは、一条くんの、パワー溢れる走りとはまた違う、しなやかで俊敏な走りだった。
ぐんぐんと、トップとの差が縮まっていく。
そして、ゴールラインのわずか数メートル手前で、彼はついに三組のアンカーを捉えた。
「「「「いけえええええええっ!!」」」」
クラス全員の、絶叫にも似た声援。
その声に後押しされるように、早苗くんは最後の力を振り絞り、トップでゴールテープを切った。
「「「「「やったああああああああああっ!!!」」」」」
歓喜の渦に包まれる、一年四組の応援席。
皆が、ハイタッチを交わし抱き合って、勝利を喜んでいる。
私も、自然と笑顔になっていた。
……あれ?
待てよ。
私は、ふと、ある違和感に気づいた。
クラス対抗リレーのアンカーは各クラスで最も足の速い生徒が務めるのが、普通だ。
そして我がクラスで、最も速いのは、間違いなくあの、人間離れした身体能力を持つ一条彰人のはず。
なのになぜ、アンカーが早苗くんだったのだろうか。
そして、その一条くんの姿が、どこにも見当たらない。
早苗くんが、息を切らしながら、私たちの元へ、戻ってきた。
「彰人の奴、『乃蒼様を、脅威に晒すわけにはいかん! アンカーは、お前に任せたぞ、翔!』なんて、格好つけて、行っちまったんだよ。おかげでこっちは、心臓破れるかと思ったぜ」
彼はそう言って、悪態をつきながらもその表情は、どこか、誇らしげだった。
一条くん、どうしたのだろうかと、一瞬、思ったが、いつものことだろうと私は納得した。
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