私は普通のJKです! なのに転生騎士団全員から「我らが女王」とか呼ばれてるんですが!?

八百屋 成美

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30. 祭りのあとと、新たな日常の予感

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 長かった体育祭は最終的に、我々一年四組の、総合優勝という形で幕を閉じた。
 騎士団の四人が個人競技で(失格や参考記録になりながらも)残した圧倒的なインパクトと、クラス対抗リレーでの劇的な勝利。そして、応援団長である私(の名の下に団員たちが頑張った)の応援合戦での高得点。それらが、奇跡的な相乗効果を生んだ結果だった。
 表彰式でクラスの代表として、一条くんと共に、優勝旗を受け取る。
 全校生徒からの温かい拍手と、歓声。
 その中心に立ちながら私の心は、不思議と、穏やかだった。
 あれほど、嫌で逃げ出したかった「目立つ」という行為が、今は、少しだけ誇らしく感じられる。

「やりましたな、乃蒼様!」

 隣に立つ一条くんが、満面の笑みで私に囁く。

「これも全て、貴女様が我々を導いてくださったおかげです!」
「……私、何もしてないけどね」
「ご謙遜を!」

 彼の、相変わらずのキラキラとした瞳。
 その瞳を、私はもう、以前のように鬱陶しいとは思わなかった。
 全てのプログラムが終了し、閉会式が終わる頃にはあれほど青く澄み渡っていた空は、美しい茜色に染まり始めていた。
 生徒たちは祭りの後の、心地よい疲労感と少しだけ寂しい余韻に浸りながら、それぞれの教室へと戻っていく。
 
「はぁ~、疲れた~!」

 教室に戻るなり莉緒ちゃんが、机に突っ伏した。

「でも、めちゃくちゃ面白かった! あんたのクラス、最高だよ、乃蒼ちゃん!」
「……まあ、退屈は、しなかったかな」

 私も自分の席に座り、小さく笑った。
 教室のあちこちで、クラスメイトたちが今日の健闘を称え合っている。

「一条、最後のリレー、マジで感動したぞ!」
「早苗、お前、速すぎだろ!」
「夢見ヶ崎さん、応援団長、お疲れ様!」

 私にそう声をかけてくれたのは、倉吉くんにPCをハッキングされたあの野村くんだった。彼の表情には、もう、以前のような怯えはなく、ただ、爽やかな笑顔だけがあった。

「……ありがとう」

 私がそう返すと、彼は少しだけ、照れたように笑った。
 クラスの中に確かに、絆が生まれていた。
 あの、バラバラでどこかよそよそしかった教室が、体育祭という一つの大きな祭りを経て一つのチームになったのだ。
 そして、その中心にいつも、あの四人の騎士たちがいた。
 教室の片付けも終わり、完全に陽が落ちる頃。
 私は、莉緒ちゃんと騎士団の四人と、一緒に校門を出た。
 なんとなく、このまま解散するのが名残惜しくて。

「……終わっちゃったな」

 早苗くんが夕暮れの空を見上げながら、ぽつりと呟いた。

「うむ。実に、充実した一日だった」

 一条くんも満足げに、頷く。

「乃蒼様、本日の貴女様の幸福度は、92%。極めて良好な数値です」

 如月くんが、どこから取り出したのかタブレットで謎のグラフを見せてくる。

「……貴女様の、笑顔を私の記憶に、また一つ刻むことができました」

 倉吉くんが、夕闇に紛れて私の隣で、静かに囁いた。
 いつもの、彼らだ。
 相変わらず、ズレていて少しだけ、おかしい。
 でも。

「……楽しかった、かも」

 私の口から、自然とそんな言葉が、漏れた。

「え?」

 全員の視線が私に集まる。
 私は、少しだけ頬を赤らめながら、もう一度、言った。

「だから……今日の体育祭、皆と一緒で楽しかったかもしれないって、思ったの」

 それは、私の偽らざる本心だった。
 平凡とは、かけ離れていたけれど。
 恥ずかしい思いも、たくさんしたけれど。
 それでも、振り返ってみればそこには、確かに私が教科書でしか知らなかった「青春」の熱い欠片が、あったのだ。
 私の言葉に四人は、一瞬、呆然とした顔をした。
 そして、次の瞬間、一条くんが今日一番の、太陽のような笑顔で叫んだ。

「おおおおおおおおっ! 乃蒼様が! 我々の戦いを、認めてくださったぞ!」
「やったぜ! 乃蒼が笑った!」

 彼らはまるで子供のように、手を取り合ってその場で、ぴょんぴょんと跳ね始めた。
 その姿に私と莉緒ちゃんは、顔を見合わせて思わず、吹き出してしまった。
 一頻り、笑った後。
 私は息を整えて、彼らに向き直った。
 そして、宣言する。

「……私の普通の高校生活、一体どこに行っちゃったんだろうね」

 私は、わざとらしくため息をついてみせる。

「もう、平凡なJKになるのは諦めた。でも!」

 そこで、私は一度、言葉を区切ると彼らの目を一人ひとりしっかりと見つめて、言った。

「あなたたちの求婚は、断固拒否! これは、絶対に譲らないから!」
「ええええええ!?」
「そんなあ!」

 絶望の声を上げる一条くんと早苗くん。

「でも……」

 私は続ける。

「あなたたちがまた、暴走して私の日常をこれ以上めちゃくちゃにしないように……監視役くらいはしてあげても、いいかなって」

 それは、私の最大限の譲歩。
 そして、不器用な感謝の言葉。
 私の言葉の意味を、彼らは正確に理解できたかどうか。
 それは、わからない。
 でも、四人は顔を見合わせると、やがて一条くんが、代表して私の前に恭しく跪いた。
 そして、彼は騎士の誓いを立てるように、言った。

「――御意に、我が主君」

 その姿はやっぱり、どうしようもなく非常識で。
 でも、ほんの少しだけ格好いい、なんて。
 思ってしまったことは、絶対に、彼らには内緒だ。
 こうして、私の平凡とは程遠い体育祭は終わった。
 そして、ここから、私の本当の意味での非常識な日常が、始まる予感がした。
 前途多含な学園生活。
 それは、まだ始まったばかりだ。
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