30 / 30
30. 祭りのあとと、新たな日常の予感
しおりを挟む
長かった体育祭は最終的に、我々一年四組の、総合優勝という形で幕を閉じた。
騎士団の四人が個人競技で(失格や参考記録になりながらも)残した圧倒的なインパクトと、クラス対抗リレーでの劇的な勝利。そして、応援団長である私(の名の下に団員たちが頑張った)の応援合戦での高得点。それらが、奇跡的な相乗効果を生んだ結果だった。
表彰式でクラスの代表として、一条くんと共に、優勝旗を受け取る。
全校生徒からの温かい拍手と、歓声。
その中心に立ちながら私の心は、不思議と、穏やかだった。
あれほど、嫌で逃げ出したかった「目立つ」という行為が、今は、少しだけ誇らしく感じられる。
「やりましたな、乃蒼様!」
隣に立つ一条くんが、満面の笑みで私に囁く。
「これも全て、貴女様が我々を導いてくださったおかげです!」
「……私、何もしてないけどね」
「ご謙遜を!」
彼の、相変わらずのキラキラとした瞳。
その瞳を、私はもう、以前のように鬱陶しいとは思わなかった。
全てのプログラムが終了し、閉会式が終わる頃にはあれほど青く澄み渡っていた空は、美しい茜色に染まり始めていた。
生徒たちは祭りの後の、心地よい疲労感と少しだけ寂しい余韻に浸りながら、それぞれの教室へと戻っていく。
「はぁ~、疲れた~!」
教室に戻るなり莉緒ちゃんが、机に突っ伏した。
「でも、めちゃくちゃ面白かった! あんたのクラス、最高だよ、乃蒼ちゃん!」
「……まあ、退屈は、しなかったかな」
私も自分の席に座り、小さく笑った。
教室のあちこちで、クラスメイトたちが今日の健闘を称え合っている。
「一条、最後のリレー、マジで感動したぞ!」
「早苗、お前、速すぎだろ!」
「夢見ヶ崎さん、応援団長、お疲れ様!」
私にそう声をかけてくれたのは、倉吉くんにPCをハッキングされたあの野村くんだった。彼の表情には、もう、以前のような怯えはなく、ただ、爽やかな笑顔だけがあった。
「……ありがとう」
私がそう返すと、彼は少しだけ、照れたように笑った。
クラスの中に確かに、絆が生まれていた。
あの、バラバラでどこかよそよそしかった教室が、体育祭という一つの大きな祭りを経て一つのチームになったのだ。
そして、その中心にいつも、あの四人の騎士たちがいた。
教室の片付けも終わり、完全に陽が落ちる頃。
私は、莉緒ちゃんと騎士団の四人と、一緒に校門を出た。
なんとなく、このまま解散するのが名残惜しくて。
「……終わっちゃったな」
早苗くんが夕暮れの空を見上げながら、ぽつりと呟いた。
「うむ。実に、充実した一日だった」
一条くんも満足げに、頷く。
「乃蒼様、本日の貴女様の幸福度は、92%。極めて良好な数値です」
如月くんが、どこから取り出したのかタブレットで謎のグラフを見せてくる。
「……貴女様の、笑顔を私の記憶に、また一つ刻むことができました」
倉吉くんが、夕闇に紛れて私の隣で、静かに囁いた。
いつもの、彼らだ。
相変わらず、ズレていて少しだけ、おかしい。
でも。
「……楽しかった、かも」
私の口から、自然とそんな言葉が、漏れた。
「え?」
全員の視線が私に集まる。
私は、少しだけ頬を赤らめながら、もう一度、言った。
「だから……今日の体育祭、皆と一緒で楽しかったかもしれないって、思ったの」
それは、私の偽らざる本心だった。
平凡とは、かけ離れていたけれど。
恥ずかしい思いも、たくさんしたけれど。
それでも、振り返ってみればそこには、確かに私が教科書でしか知らなかった「青春」の熱い欠片が、あったのだ。
私の言葉に四人は、一瞬、呆然とした顔をした。
そして、次の瞬間、一条くんが今日一番の、太陽のような笑顔で叫んだ。
「おおおおおおおおっ! 乃蒼様が! 我々の戦いを、認めてくださったぞ!」
「やったぜ! 乃蒼が笑った!」
彼らはまるで子供のように、手を取り合ってその場で、ぴょんぴょんと跳ね始めた。
その姿に私と莉緒ちゃんは、顔を見合わせて思わず、吹き出してしまった。
一頻り、笑った後。
私は息を整えて、彼らに向き直った。
そして、宣言する。
「……私の普通の高校生活、一体どこに行っちゃったんだろうね」
私は、わざとらしくため息をついてみせる。
「もう、平凡なJKになるのは諦めた。でも!」
そこで、私は一度、言葉を区切ると彼らの目を一人ひとりしっかりと見つめて、言った。
「あなたたちの求婚は、断固拒否! これは、絶対に譲らないから!」
「ええええええ!?」
「そんなあ!」
絶望の声を上げる一条くんと早苗くん。
「でも……」
私は続ける。
「あなたたちがまた、暴走して私の日常をこれ以上めちゃくちゃにしないように……監視役くらいはしてあげても、いいかなって」
それは、私の最大限の譲歩。
そして、不器用な感謝の言葉。
私の言葉の意味を、彼らは正確に理解できたかどうか。
それは、わからない。
でも、四人は顔を見合わせると、やがて一条くんが、代表して私の前に恭しく跪いた。
そして、彼は騎士の誓いを立てるように、言った。
「――御意に、我が主君」
その姿はやっぱり、どうしようもなく非常識で。
でも、ほんの少しだけ格好いい、なんて。
思ってしまったことは、絶対に、彼らには内緒だ。
こうして、私の平凡とは程遠い体育祭は終わった。
そして、ここから、私の本当の意味での非常識な日常が、始まる予感がした。
前途多含な学園生活。
それは、まだ始まったばかりだ。
騎士団の四人が個人競技で(失格や参考記録になりながらも)残した圧倒的なインパクトと、クラス対抗リレーでの劇的な勝利。そして、応援団長である私(の名の下に団員たちが頑張った)の応援合戦での高得点。それらが、奇跡的な相乗効果を生んだ結果だった。
表彰式でクラスの代表として、一条くんと共に、優勝旗を受け取る。
全校生徒からの温かい拍手と、歓声。
その中心に立ちながら私の心は、不思議と、穏やかだった。
あれほど、嫌で逃げ出したかった「目立つ」という行為が、今は、少しだけ誇らしく感じられる。
「やりましたな、乃蒼様!」
隣に立つ一条くんが、満面の笑みで私に囁く。
「これも全て、貴女様が我々を導いてくださったおかげです!」
「……私、何もしてないけどね」
「ご謙遜を!」
彼の、相変わらずのキラキラとした瞳。
その瞳を、私はもう、以前のように鬱陶しいとは思わなかった。
全てのプログラムが終了し、閉会式が終わる頃にはあれほど青く澄み渡っていた空は、美しい茜色に染まり始めていた。
生徒たちは祭りの後の、心地よい疲労感と少しだけ寂しい余韻に浸りながら、それぞれの教室へと戻っていく。
「はぁ~、疲れた~!」
教室に戻るなり莉緒ちゃんが、机に突っ伏した。
「でも、めちゃくちゃ面白かった! あんたのクラス、最高だよ、乃蒼ちゃん!」
「……まあ、退屈は、しなかったかな」
私も自分の席に座り、小さく笑った。
教室のあちこちで、クラスメイトたちが今日の健闘を称え合っている。
「一条、最後のリレー、マジで感動したぞ!」
「早苗、お前、速すぎだろ!」
「夢見ヶ崎さん、応援団長、お疲れ様!」
私にそう声をかけてくれたのは、倉吉くんにPCをハッキングされたあの野村くんだった。彼の表情には、もう、以前のような怯えはなく、ただ、爽やかな笑顔だけがあった。
「……ありがとう」
私がそう返すと、彼は少しだけ、照れたように笑った。
クラスの中に確かに、絆が生まれていた。
あの、バラバラでどこかよそよそしかった教室が、体育祭という一つの大きな祭りを経て一つのチームになったのだ。
そして、その中心にいつも、あの四人の騎士たちがいた。
教室の片付けも終わり、完全に陽が落ちる頃。
私は、莉緒ちゃんと騎士団の四人と、一緒に校門を出た。
なんとなく、このまま解散するのが名残惜しくて。
「……終わっちゃったな」
早苗くんが夕暮れの空を見上げながら、ぽつりと呟いた。
「うむ。実に、充実した一日だった」
一条くんも満足げに、頷く。
「乃蒼様、本日の貴女様の幸福度は、92%。極めて良好な数値です」
如月くんが、どこから取り出したのかタブレットで謎のグラフを見せてくる。
「……貴女様の、笑顔を私の記憶に、また一つ刻むことができました」
倉吉くんが、夕闇に紛れて私の隣で、静かに囁いた。
いつもの、彼らだ。
相変わらず、ズレていて少しだけ、おかしい。
でも。
「……楽しかった、かも」
私の口から、自然とそんな言葉が、漏れた。
「え?」
全員の視線が私に集まる。
私は、少しだけ頬を赤らめながら、もう一度、言った。
「だから……今日の体育祭、皆と一緒で楽しかったかもしれないって、思ったの」
それは、私の偽らざる本心だった。
平凡とは、かけ離れていたけれど。
恥ずかしい思いも、たくさんしたけれど。
それでも、振り返ってみればそこには、確かに私が教科書でしか知らなかった「青春」の熱い欠片が、あったのだ。
私の言葉に四人は、一瞬、呆然とした顔をした。
そして、次の瞬間、一条くんが今日一番の、太陽のような笑顔で叫んだ。
「おおおおおおおおっ! 乃蒼様が! 我々の戦いを、認めてくださったぞ!」
「やったぜ! 乃蒼が笑った!」
彼らはまるで子供のように、手を取り合ってその場で、ぴょんぴょんと跳ね始めた。
その姿に私と莉緒ちゃんは、顔を見合わせて思わず、吹き出してしまった。
一頻り、笑った後。
私は息を整えて、彼らに向き直った。
そして、宣言する。
「……私の普通の高校生活、一体どこに行っちゃったんだろうね」
私は、わざとらしくため息をついてみせる。
「もう、平凡なJKになるのは諦めた。でも!」
そこで、私は一度、言葉を区切ると彼らの目を一人ひとりしっかりと見つめて、言った。
「あなたたちの求婚は、断固拒否! これは、絶対に譲らないから!」
「ええええええ!?」
「そんなあ!」
絶望の声を上げる一条くんと早苗くん。
「でも……」
私は続ける。
「あなたたちがまた、暴走して私の日常をこれ以上めちゃくちゃにしないように……監視役くらいはしてあげても、いいかなって」
それは、私の最大限の譲歩。
そして、不器用な感謝の言葉。
私の言葉の意味を、彼らは正確に理解できたかどうか。
それは、わからない。
でも、四人は顔を見合わせると、やがて一条くんが、代表して私の前に恭しく跪いた。
そして、彼は騎士の誓いを立てるように、言った。
「――御意に、我が主君」
その姿はやっぱり、どうしようもなく非常識で。
でも、ほんの少しだけ格好いい、なんて。
思ってしまったことは、絶対に、彼らには内緒だ。
こうして、私の平凡とは程遠い体育祭は終わった。
そして、ここから、私の本当の意味での非常識な日常が、始まる予感がした。
前途多含な学園生活。
それは、まだ始まったばかりだ。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
「ご褒美ください」とわんこ系義弟が離れない
橋本彩里(Ayari)
恋愛
六歳の時に伯爵家の養子として引き取られたイーサンは、年頃になっても一つ上の義理の姉のミラが大好きだとじゃれてくる。
そんななか、投資に失敗した父の借金の代わりにとミラに見合いの話が浮上し、義姉が大好きなわんこ系義弟が「ご褒美ください」と迫ってきて……。
1~2万文字の短編予定→中編に変更します。
いつもながらの溺愛執着ものです。
「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!
野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。
私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。
そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
身代りの花嫁は25歳年上の海軍士官に溺愛される
絵麻
恋愛
桐島花は父が病没後、継母義妹に虐げられて、使用人同然の生活を送っていた。
父の財産も尽きかけた頃、義妹に縁談が舞い込むが継母は花を嫁がせた。
理由は多額の結納金を手に入れるため。
相手は二十五歳も歳上の、海軍の大佐だという。
放り出すように、嫁がされた花を待っていたものは。
地味で冴えないと卑下された日々、花の真の力が時東邸で活かされる。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です
氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。
英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる