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首筋を伝う一筋の血が、白いシャツの襟を汚していく。
喉元に突きつけられた冷ややかな剣先。
ルカの目の前には、まったく同じ顔をした二人の美貌の主がいた。一人は寝間着姿で椅子に座り、もう一人は黒衣を纏い、剣を握っている。
「……動くな。声を上げれば、その瞬間に頸動脈を断つ」
黒衣の男――「裏」の王子が、氷のような声で告げた。
椅子に座っていた「表」の王子、カイがゆっくりと立ち上がり、ルカの前に歩み寄る。彼はルカの恐怖に強張った顔を面白そうに覗き込んだ。
「さて、私の可愛い従者よ。冥土の土産に教えてやろう。……この国では古来より、双子は『魂を分かち合った不完全な存在』として忌み嫌われている」
カイの指先が、ルカの頬を滑る。
「特に王族においては『国を割る凶兆』とされる。だから本来なら、弟であるこいつ――イルスは、生まれた瞬間に処分されるはずだった」
「処分……」
「ああ。だが母上はそれを拒んだ。我々は極秘裏に『一人』として育てられ、昼と夜、表と裏で入れ替わりながら生きてきた。……今日まで、誰にも悟られることなくな」
カイの碧眼が、鋭く細められた。
「だが、お前は気づいた。……なぜだ? 我々の演技は完璧だったはずだ。側近たちでさえ、長年騙し通せてきたのだぞ」
剣を突きつけているイルスもまた、訝しげな視線をルカに向けている。
二人の瞳には、殺意と共に、純粋な疑問が浮かんでいた。自分たちの半生をかけた演技が、なぜたかが一ヶ月の従者に見破られたのか。
ルカは震える喉を抑え、必死に言葉を紡いだ。
「……観察、いたしましたので」
「観察?」
「はい。カ……カイ様は、カップを持つ際に指を三本かけられます。筆圧も強く、歩き出しは左足からです。対して、イルス様とお呼びすればよろしいでしょうか……イルス様は、指を二本。筆圧は繊細で、右足から歩き出されます」
ルカが淡々と、しかし詳細に「違い」を並べ立てると、二人の表情が驚愕に凍りついた。
だが、ルカはそこで言葉を切らなかった。もっと根本的な理由を、正直に告げる。
「ですが、そのような細かい所作は些細なことです。私が違和感を覚えたのは、もっと別の……」
「別の?」
「私には最初から、お二人が『一人』には見えませんでした」
ルカは、真っ直ぐに二人の瞳を見つめ返した。
「どれほど似ていても、どれほど完璧に演じられていても……お二人の纏う空気も、魂の色も、私には別々のものに感じられました。お二人はそれぞれが、尊厳ある『個』でございます。ですから……私にはずっと、お二人が別の人間であるように見えておりました」
静寂が、部屋を支配した。
カイとイルスは、時が止まったように動かなかった。
彼らは生まれてからずっと、二人で一人であることを強いられてきた。「自分」という個を殺し、鏡像のように振る舞うことだけを求められてきたのだ。
それを、「最初から別人に見えていた」と断言された。
それは彼らにとって、生まれて初めて「自分自身」を認められた瞬間だった。
「…………ッ、はは」
沈黙を破ったのは、カイの乾いた笑い声だった。
彼は額に手を当て、肩を震わせたかと思うと、次の瞬間、烈火のごとき情熱を瞳に宿してルカを睨みつけた。
「面白い……! イルス、聞いたか? こいつは俺たちを見ていたそうだ。『カイ』と『イルス』として!」
「……信じられない。あんな僅かな接触で、そこまで見抜くなんて」
イルスは困惑したように剣を下ろしたが、その瞳は熱っぽく揺れ、ルカから離せなくなっていた。
二人の王子が、獲物を見る目から、宝物を見る目へと変わる。
カイが一歩踏み出し、ルカの腰を力強く引き寄せた。
「気に入った。ルカ、お前を殺すのは取りやめだ」
「で、では……」
「その代わり、お前は今日から俺たちの『共犯者』だ。その観察眼、そしてその口……死ぬまで俺たちのためだけに使え」
拒否権のない命令。だが、そこには以前のような冷酷さではなく、執着に近い熱が含まれていた。
喉元に突きつけられた冷ややかな剣先。
ルカの目の前には、まったく同じ顔をした二人の美貌の主がいた。一人は寝間着姿で椅子に座り、もう一人は黒衣を纏い、剣を握っている。
「……動くな。声を上げれば、その瞬間に頸動脈を断つ」
黒衣の男――「裏」の王子が、氷のような声で告げた。
椅子に座っていた「表」の王子、カイがゆっくりと立ち上がり、ルカの前に歩み寄る。彼はルカの恐怖に強張った顔を面白そうに覗き込んだ。
「さて、私の可愛い従者よ。冥土の土産に教えてやろう。……この国では古来より、双子は『魂を分かち合った不完全な存在』として忌み嫌われている」
カイの指先が、ルカの頬を滑る。
「特に王族においては『国を割る凶兆』とされる。だから本来なら、弟であるこいつ――イルスは、生まれた瞬間に処分されるはずだった」
「処分……」
「ああ。だが母上はそれを拒んだ。我々は極秘裏に『一人』として育てられ、昼と夜、表と裏で入れ替わりながら生きてきた。……今日まで、誰にも悟られることなくな」
カイの碧眼が、鋭く細められた。
「だが、お前は気づいた。……なぜだ? 我々の演技は完璧だったはずだ。側近たちでさえ、長年騙し通せてきたのだぞ」
剣を突きつけているイルスもまた、訝しげな視線をルカに向けている。
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「観察?」
「はい。カ……カイ様は、カップを持つ際に指を三本かけられます。筆圧も強く、歩き出しは左足からです。対して、イルス様とお呼びすればよろしいでしょうか……イルス様は、指を二本。筆圧は繊細で、右足から歩き出されます」
ルカが淡々と、しかし詳細に「違い」を並べ立てると、二人の表情が驚愕に凍りついた。
だが、ルカはそこで言葉を切らなかった。もっと根本的な理由を、正直に告げる。
「ですが、そのような細かい所作は些細なことです。私が違和感を覚えたのは、もっと別の……」
「別の?」
「私には最初から、お二人が『一人』には見えませんでした」
ルカは、真っ直ぐに二人の瞳を見つめ返した。
「どれほど似ていても、どれほど完璧に演じられていても……お二人の纏う空気も、魂の色も、私には別々のものに感じられました。お二人はそれぞれが、尊厳ある『個』でございます。ですから……私にはずっと、お二人が別の人間であるように見えておりました」
静寂が、部屋を支配した。
カイとイルスは、時が止まったように動かなかった。
彼らは生まれてからずっと、二人で一人であることを強いられてきた。「自分」という個を殺し、鏡像のように振る舞うことだけを求められてきたのだ。
それを、「最初から別人に見えていた」と断言された。
それは彼らにとって、生まれて初めて「自分自身」を認められた瞬間だった。
「…………ッ、はは」
沈黙を破ったのは、カイの乾いた笑い声だった。
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「面白い……! イルス、聞いたか? こいつは俺たちを見ていたそうだ。『カイ』と『イルス』として!」
「……信じられない。あんな僅かな接触で、そこまで見抜くなんて」
イルスは困惑したように剣を下ろしたが、その瞳は熱っぽく揺れ、ルカから離せなくなっていた。
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カイが一歩踏み出し、ルカの腰を力強く引き寄せた。
「気に入った。ルカ、お前を殺すのは取りやめだ」
「で、では……」
「その代わり、お前は今日から俺たちの『共犯者』だ。その観察眼、そしてその口……死ぬまで俺たちのためだけに使え」
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