双面の王子に愛されています

八百屋 成美

文字の大きさ
7 / 14

7. ※

しおりを挟む
 隠し通路の先にある部屋は、王城の煌びやかさとは無縁の、石造りの冷ややかな空間だった。
 窓はなく、部屋を照らすのは壁に掛けられた数本の燭台の揺らめきのみ。そこはまるで、イルスという存在そのものを表すような、静寂と孤独に満ちた鳥籠だった。

「……寒いか?」
「いえ、平気でございます」

 ルカが答えると、イルスは無言でルカの正面に立ち、その帯に手をかけた。
 するり、と衣擦れの音が響く。
 カイのように強引に引きちぎるような乱暴さはなかった。だが、一枚一枚丁寧に、まるで美術品の覆いを外すように衣服を取り払っていくその手つきには、逃げ道をじわじわと塞ぐような、静かで重い圧力が込められていた。
 最後のシャツが床に落ち、ルカの裸身が薄暗い部屋に晒される。
 騎士のように鍛え上げられているわけではないが、男らしく引き締まった細身の肢体。
 イルスはその身体をじっと凝視した。紫がかった陰影を帯びた碧眼が、ルカの平らな胸板、腹筋のライン、そして腰骨のあたりに残る赤い痕跡――カイが付けたキスマークを一つ一つ数えるように巡っていく。

「……汚されているな」

 ポツリと、憎悪の滲む声が落ちた。
 イルスの冷たい指先が、鎖骨に残る赤い鬱血痕に触れる。

「あ……っ」
「ここも、ここも……兄上の所有印だ。……気に入らない」

 氷のように冷たい指が、熱を持った痕の上をなぞる。その温度差に、ルカの喉仏が大きく上下した。
 次の瞬間、イルスはルカの肩に噛み付いた。

「っ、ぐぅ……!?」
「上書きしてやる。……お前の肌も、記憶も、すべて私だけのものになるまで」

 痛みは一瞬だった。イルスは歯を立てた場所を、今度は慈しむように、ねっとりと舌で舐め上げた。
 ざらりとした舌の感触が、カイの痕跡を溶かしていく。
 チュッ、ジュル、と水音が石室に反響する。イルスは執拗だった。一つの痕に何度も吸い付き、舌先で転がし、さらに強く歯を立てて、カイの痕跡が完全に自分の色に塗り替わるまで許さない。

「は、ぁ……イルス様、そん、なに……」
「まだだ。まだ兄上の匂いがする」

 イルスはルカを長椅子に押し倒すと、その股間に顔を埋めた。
 昨日、カイに犯されたばかりの場所。男としての象徴とその奥にある秘部が、無防備に晒される。
 イルスはルカの膝を割り、白い太腿の内側に顔を寄せると、そこにも独占欲を示すように赤い印を吸い付けた。

「ひっ、あ!? い、イルス様……!」
「静かに。……ここは昨日、兄上がこじ開けた場所だろう? なら、私が記憶を塗り替えなければならない」

 言葉と共に、イルスの細く長い指が、ルカの秘所へと這った。
 人差し指と、中指。
 二本揃えられたその指は、カイの三本指のような暴力的な拡張ではなく、鋭利な刃物のように隙間へと滑り込んだ。

「く、っ……冷たい……っ」
「力を抜け。兄上は力任せに広げただろうが……私は違う」

 イルスの指は、入り口を広げることよりも、内部の形を確かめるように動いた。
 冷たかった指先が、ルカの体温と腸壁の熱で次第に温められていく。
 ナカの粘膜が、異物を排出しようと収縮し、イルスの指に吸い付く。
 イルスはそれを楽しむように、クチュ、クチュと粘着質な音を立てて指を出し入れした。そして、不意に指先を曲げ、内側にある固い隆起――前立腺を、二本の指先で挟むように擦り上げた。

「あぁッ!? っ、そこ、は……!」
「ここか。……男の急所だな」

 ルカの身体が弓なりに跳ねる。
 そこは、カイでさえ昨夜はただ突き上げるだけだった場所だ。イルスは解剖学者のように冷静に、しかし執拗に、その一点だけを狙って指の腹でプレスし、爪先でカリカリと引っ掻いた。

「や、あ、あぁ……ッ! イルス様、おかしく、なる……ッ!」
「おかしくなればいい。……兄上の楔よりも、私の指の方がいいと、その身体で言ってみろ」

 前立腺を的確に責められ、ルカの自身のペニスは誰にも触れられていないのに硬く勃起し、先端から蜜を滴らせていた。
 脳髄が痺れるような快感。
 イルスはルカの反応を見逃さず、責める速度を早めた。二本の指がハサミのように内壁を挟み込み、抉る。

「ひグ、ッ、うあぁああ!」

 耐えきれず、ルカは長椅子の革を爪が食い込むほどに握りしめた。
 目の前がチカチカと明滅する。男の性感帯を的確に掌握された快感は、暴力的な支配とは違う、逃げ場のない泥沼のような心地よさだった。

「準備はいいな。……ルカ」

 指が引き抜かれると、代わりに熱く硬い質量が押し当てられた。
 イルスが自身の衣服を肌蹴させ、昂ぶった剛直を露わにする。
 彼はルカの脚を自分の腰に絡ませると、ゆっくりと、時間をかけて沈み込ませた。

「ん、んぐぅ……っ!」

 キチキチに狭まった男の窄まりを、灼熱の楔がこじ開けていく。
 カイの時のような一気呵成の貫通ではない。ミリ単位で侵入し、内壁のひだを一枚一枚めくり上げるような、じれったくも濃厚な挿入だった。

「は、ぁ……きついな。だが、この締め付けこそが……お前が男である証拠だ」
「あ、ふ、入っ、て……くる……っ」
「ああ。私の全てが、お前の奥深くまで侵食していくぞ」

 根元まで収まると、二人は重なり合ったまま大きく息を吐いた。
 イルスはルカの上に覆いかぶさると、耳元で囁きながら腰を動かし始めた。
 ぬるり、と重い音を立てて抜き差しされるたびに、先ほど開発されたばかりの前立腺が容赦なく擦り上げられる。

「あっ、あッ! そこ、だめ、イルスさまっ、そこばかり……ッ!」
「兄上はここを愛してくれなかったのだろう? 私が愛してやる。お前が泣いて許しを乞うまで」

 イルスの腰使いは、蛇のように執拗だった。
 一度引き抜いたかと思えば、角度を変えて一番感じるところをねちねちと抉る。
 ルカのペニスが、刺激に連動してビクビクと跳ね、我慢汁を散らす。

「見てみろ、ルカ。お前のモノも、こんなに喜んでいる」
「い、いや、見ないで、ください……ッ!」
「隠すな。……兄上の前では見せなかった顔を見せろ。だらしない声で、私の名前を呼べ」

 イルスはルカの両手を組み敷き、その顔を覗き込んだ。
 普段の冷徹な仮面は剥がれ落ち、そこには汗に濡れ、嫉妬と欲望に狂った一人の男の顔があった。

「イルス様……っ、イルス、様ぁ……ッ!」
「そうだ……もっとだ、ルカ……ッ!」

 名前を呼ばれるたび、イルスの律動は激しさを増していった。
 ゴツゴツとした男同士の骨盤がぶつかり合い、低い音が響く。
 ルカの理性が弾け飛ぶ。カイの圧倒的な「陽」の快楽とは違う、身体の芯から溶かされ、絡め取られるような「陰」の淫靡な快楽。
 逃げたいのに、離れられない。
 冷たかったはずの影の王子が、今や誰よりも熱く、ルカの全てを支配していた。

「いくぞ、ルカ……! 私の種を、その身に刻め……!」
「あ、あぁッ! 出、でる、っ!」

 イルスが最奥で腰を固定し、ルカの前立腺を強く押し潰した。
 同時に、ルカのペニスから白濁した液が勢いよく迸り、お腹の上に飛び散った。
 その直後、イルスの楔からも熱い奔流がルカの胎内へと注ぎ込まれる。
 ドクドクと脈打つ剛直が、所有の証を吐き出していく感覚に、ルカは目の前が真っ白になり、意識が飛びそうになった。
 絶頂の余韻が去った後も、イルスはルカの中から抜けようとはしなかった。
 繋がったまま、汗ばんだルカの額に自身の額を押し付ける。

「……これで、お前の中は私で満たされた」

 その声は、どこか安堵したように震えていた。
 イルスはルカの腹部に散った精液を指で掬うと、それをルカの唇に塗りつけた。

「綺麗だ、ルカ。……もう二度と、兄上だけのものだなんて言わせない」

 その歪んだ独占欲に、ルカは恐怖よりも先に、胸が締め付けられるような愛おしさを感じていた。
 この孤独な王子にとって、自分との繋がりだけが、唯一の確かな「証明」なのだ。
 ルカは重いまぶたを開け、イルスの首に腕を回した。

「……はい、イルス様。私は今……貴方様のものです」

 その言葉を聞くと、イルスは初めて、年相応の幼さを残した満足げな笑みを浮かべ、ルカの唇を深く塞いだ。
 影の隠し部屋で交わされた情事は、表の世界よりも濃密で、逃れられない共犯の契りとなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断られるのが確定してるのに、ずっと好きだった相手と見合いすることになったΩの話。

叶崎みお
BL
ΩらしくないΩは、Ωが苦手なハイスペックαに恋をした。初めて恋をした相手と見合いをすることになり浮かれるΩだったが、αは見合いを断りたい様子で──。 オメガバース設定の話ですが、作中ではヒートしてません。両片想いのハピエンです。 他サイト様にも投稿しております。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

捨てられた花屋のオメガは、雨の日に現れたスパダリ社長に溺愛される~抑制剤をやめたら、運命の番に捕まりました~

水凪しおん
BL
花屋『フルール・リリエン』で働くオメガの藍沢湊は、かつて家柄を理由に番(つがい)に捨てられたトラウマから、アルファを頑なに拒絶して生きてきた。 強力な抑制剤でフェロモンを隠し、ひっそりと暮らす湊。しかしある雨の日、店に現れたIT企業社長のアルファ・橘蓮に見初められてしまう。 「この花、あなたに似ている」 毎日店に通い詰め、不器用ながらも真っ直ぐな愛を注ぐ蓮。その深い森のような香りに、湊の閉ざされた心と、抑え込んでいた本能が揺さぶられ始めて――? 傷ついたオメガ×一途で完璧なスパダリ社長。 雨上がりの紫陽花のように涙に濡れた恋が、あたたかな陽だまりに変わるまでの、救済と溺愛のオメガバース。 ※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。

学園一のスパダリが義兄兼恋人になりました

すいかちゃん
BL
母親の再婚により、名門リーディア家の一員となったユウト。憧れの先輩・セージュが義兄となり喜ぶ。だが、セージュの態度は冷たくて「兄弟になりたくなかった」とまで言われてしまう。おまけに、そんなセージュの部屋で暮らす事になり…。 第二話「兄と呼べない理由」 セージュがなぜユウトに冷たい態度をとるのかがここで明かされます。 第三話「恋人として」は、9月1日(月)の更新となります。 躊躇いながらもセージュの恋人になったユウト。触れられたりキスされるとドキドキしてしまい…。 そして、セージュはユウトに恋をした日を回想します。 第四話「誘惑」 セージュと親しいセシリアという少女の存在がユウトの心をざわつかせます。 愛される自信が持てないユウトを、セージュは洗面所で…。 第五話「月夜の口づけ」 セレストア祭の夜。ユウトはある人物からセージュとの恋を反対され…という話です。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

王子と俺は国民公認のカップルらしい。

べす
BL
レダ大好きでちょっと?執着の強めの王子ロギルダと、それに抗う騎士レダが結ばれるまでのお話。

処理中です...