双面の王子に愛されています

八百屋 成美

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 その日、王城の離宮にある王子の私室は、朝から不穏な空気に包まれていた。
 ルカがカイの着替えを手伝っている最中のことだ。シャツのボタンを留めようとしたルカの手首を、カイが不意に掴み上げた。

「……ルカ。その手首の痣はなんだ?」

 カイの声は低く、不機嫌さを隠そうともしていなかった。
 ルカの細い手首には、指の形に沿った青紫色の鬱血痕が残っていた。それは昨夜、イルスの情熱を受け止めた際に強く握りしめられた名残だ。

「これは……その、昨夜……」
「イルスか。あいつ、加減というものを知らないのか」

 舌打ちが響く。すると、部屋の空気の流れが変わり、暖炉の影から黒衣のイルスが音もなく現れた。

「人聞きの悪いことを言わないでください、兄上。……ルカが感じすぎて暴れるから、抑えていただけですよ」
「ほう? 俺の時は暴れるどころか、自らしがみついてきたがな」
「それは兄上が無理やり言わせたんでしょう。ルカは私の指の方が『形がいい』と言っていましたよ」

 朝から繰り広げられる、低レベルな所有権争い。
 ルカは二人の間に挟まれ、居心地の悪さに身を縮こまらせた。
 この数週間、カイとイルスはルカを共有しながらも、互いに激しい対抗意識を燃やしていた。
 どちらがよりルカを感じさせられるか。どちらがより深くルカに痕を残せるか。
 二人の愛は重く、激しく、ルカの身体は休まる暇がなかった。

「……お二人とも、そろそろお時間でございます」

 ルカが恐る恐る告げると、二人は同時にルカを見つめ、全く同じ顔でフンと鼻を鳴らした。
 似ていないようで、こういうところだけはそっくりな双子だった。
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