親友だった奴等と異世界で勇者やってましたが、俺だけ力不足だとクビにされたので見返すために可愛い亜人たちと世界救っちゃいます!

農民サイド

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第1章 冒険の始まり

第4話 小手先の勇者

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 おっす、俺、碇才蔵。
 ひょんなことから、盗みを働いた女の子……サティアを助けてしまい、遂に名実共に犯罪者になってしまった、元勇者だ。
 まあ、可愛い女の子のためなら、少しぐらいの悪いことしても女神様はきっと許してくれる。
 そして、サティアのお姉さんがこの国の一番でかい建物のサザーラインとか言う人の所に捕まってるとのことなので助けることになったのだが、進捗はあまりよろしくない。
 俺は、その辺の商店のおっさんに話しかけるのだが……

「あの……」
「なんだよ、兄ちゃん客か?」
「いや、人を探してて……」
「客じゃねーなら、とっとと消えな!」

 と取り付く間もなく、追い返されてしまう。
 まあ、この世界の情報は有料だから、仕方ないと言えば仕方ないのだが……
 
「きっついわ……」
「サイゾウ、情けない」
「サティアも、頑張ってくれよ……」

 助けてくれと言う割には、非協力的だし、なんか引っかかるけど考えないようにしよう。
 俺たちは、誰か協力してくれそうな人を探すために酒場に足を運んだ。
 まあ、無一文なので注文は出来ないのだが……

「お姉さん、ミルク1つ」
「はーい、ただいま」

 イスに座るなり、サティアが酒場のウエイターに注文をする。

「お、おい、サティア。お金持ってんのか?」

 思わずサティアに耳打ちする。
 すると、革サイフを取り出して中身を見せてくるので覗き込むと、結構な数の硬貨が入っていた。

「なんで、お金持ってんの?」
「えへへ……」

 と笑顔で答える。
 
「……少し貸してくれない?」
「いやだ」

 俺は嫌がるサティアに土下座をし、何でもすると約束することで500ゴールド借りることが出来た。
 ちなみにこの世界のお金は、銅貨1枚を1ゴールド、銀貨1枚を100ゴールド、金貨1枚1000ゴールドなので、借りれたのは、丁度銀貨5枚と言うわけだ。
 ちなみに、リンゴっぽい果物が1個、30ゴールドなので日本円に換算すると、1ゴールド5円ぐらいだと思う。
 
「サティアは、ここで待っててくれ、ちょっと聞いて回ってくるから」
「はーい」

 俺は、席を離れると、酒場のマスターに声をかける。

「へーい、マスター。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

 マスターは、俺を無視してコップを磨いている。
 
「サザーラインって言う人のことなんだけど」

 俺は、銀貨2枚をそっとカウンターに置く。
 マスターは、それを黙って回収すると、俺に視線を合わせることなく話始める。

「サザーラインは、この辺の裏稼業を仕切ってる元締めだ」

 いきなり、危ない情報きたなぁ。
 
「で、その人、どこにいるのか分かったりします?」

 マスターは、また黙っている。
 嘘だろ……銀貨2枚でそれだけ?
 銀貨2枚って言ったら、1日中下水場の掃除してもらえる金額だぞ!
 だが、情報のためには仕方がない……
 俺は、追加で2枚をカウンターに置く。

「貧困街の一番奥だよ。つってもお兄さんじゃ、行っても死ぬだけだから辞めときな」

 なるほど、貧困街か……全然頭になかったな。
 それに、俺のこと想って忠告までしてくれるなんて……優しいなこのマスター。

「助かった!」

 俺が礼を言うと、マスターは無言で手を上げる。
 席に戻り、サティアにマスターから聞いたサザーラインの話と、危険が伴うことを説明して、サティアに、ここで待ってるように提案する。

「いやだ、私も行く!」
「いや、俺の説明聞いてた? 俺が行っても死ぬんだから、サティアが付いてきたら死亡率200パーセントよ? だから大人しく待ってて、俺がサクッと行ってくるから」

 まあ、場合によっては逝ってくることになるかもしれないけど。
 女の子のために死ぬなら、勇者らしくていいんじゃないかなと俺は思う。

「いやだ、絶対、一緒に行く!」
「いやいやいや、死ぬんだよ!? サティアが死んじゃったら、お父さんもお母さんもお姉さんも悲しむよ絶対」
「父ちゃんと母ちゃんは、もう死んじゃったし。私には姉ちゃんしかいないから、姉ちゃんを助けるためなら死ぬのも怖くない!」

 なるほど、すでに両親を失っているのか……それならお姉さんのために、無茶したがる気持ちも分かるけど……
 もっと命を大事にしてほしいと、兄ちゃんは想うぞ。
 
「……いや、俺が悲しいから待っててくれ。情けない話だけど、俺はまだ人が死ぬってことを体験したことがないんだ。だから、出来れば誰にも死んでほしくないし、殺したくもない。これは俺のエゴだけど」
「サイゾウ……私は、別にサイゾウが死んでも悲しくないよ」
「その、一言いる!? 今、俺が格好よくまとめたのに!」

 それでも、なんとか説得してサティアは待っていると約束してくれた。
 自分でも、分かってるけど、誰かを守れるほど俺は強くないからな、出来れば1人でいる方が戦いやすい。

「それじゃ、待ってろよサティア」
「貸したお金返すまで死なないでね」

 違う。
 そこは、もっと可愛く。死んじゃ嫌だよ。とか、返ってくるの待ってるから。とかじゃないの?
 まあ、この世界の人は結構、リアリストばっかだからね……
 正直、心持ちはマリアナ海溝の底に沈んだがごとく、落ち込んいるが、時間も惜しいので、さっさと貧困街に向かうことにする。


 ◇


「ここか?」

 さっきまでいた、華やかな場所が表なら、ここはまさに裏って感じなぐらい正反対。
 建物はどれもボロボロ、道は舗装されておらず土だし、道の脇にはまともな服を着てない人間が何人も座って俺を見ている。
 まあ、まともな服を着てるやつもいるが、明らかに危ない感じが溢れているので、出来れば一度も関わり合いにはなりたくないなと思う。

「さて、どこかな……」

 俺が貧困街の中へと進もうとすると、危険を絵に書いたようなガラの悪い3人組が行く手を阻む。
 1人は、大柄で口をへの字に曲げ俺を見下している男、1人は恰幅がよく、手にはナックルダスターのようなものをはめている男、最後の1人は、背中に剣を挿しているヒョロい男だ。

「何でしょうか?」

 どうみても、先に進むのは危険だと忠告してくれそうな、心優しい村人って感じじゃないが、いきなり殺すとかはしてこないと思うし、一応、平和的な方向で話を進めてみる。
 しかし、俺の言葉とは裏腹に、3人は明らかに小物臭たっぷりの笑い声を上げる。

「ヒッヒッヒ、ここを通りたければ入場料を払いな」
「旅のもんだか、知らんが痛い目見たくなきゃ払うんだな」
「それとも自分の血で服を汚したいか? ヒヒっ」

 前言撤回、どう見ても強制戦闘イベントで、ここで「じゃあ戻りまーす」とか言っても許してくれなさそうだ。
 やっぱりサティアを連れてこなくて正解だった。

「あの、俺は出来れば平和的にいきたいんで、いくら払えばいいですか?」 
「決まってんだろ! 有り金全部だよ!」

 まだ希望はあるかと思い、黙って銀貨1枚を差し出す。

「てめぇ! 舐めてんのかサイコロにすんぞ!」

 ヒョロい男が背中の剣を抜く。
 ひえぇ、切れ味良さそうなロングソードだな……

「生憎、これしか持ち合わせがないんですよね。俺……これで勘弁してくれませんか?」

 3人組は、顔を見合わせると、問答無用で襲いかかってくる。

「だったら服も全部置いてけっ!」

 恰幅のいい男が、外見に似合わない速度でパンチを繰り出してくる。
 しかし、いくら俺が弱いと言っても、流石に元勇者……それぐらいのパンチはなんてこ――。

「ぐへっ!」

 バキッと音を立てて、男のパンチが俺の顔面を捉える。
 多分、鼻が折れた。
 そういや、最近、正人の防御スキルが強すぎてそれに甘えて回避の仕方を忘れてたわ……

「いってぇ……」

 俺は痛む鼻を押さえながら、今にも剣を振り下ろさんとする、ヒョロい男に視線を合わせ、両手を構える。

「喰らえ、猫騙し!」

 俺は、ヒョロい男の目の間で両手を打ち合わせると、男は驚き隙が出来たので、持っていた剣を柄取りの要領で取り上げる。

「ほら、死にたくなければ、さっさと降参してくれ」

 奪い取った剣を、男たちに向けて構える。
 これで少しでも戦意が削げてくれるといいのだが……

「武器を持ったくらいで! 3人に勝てるわけねーだろ!」

 で、ですよね……
 恰幅のいい男と、大柄な男は2人同時に俺に向ってくる。
 まあ、数の暴力は戦闘の基本だし、その方が強いと思うよ……
 2!?
 俺は手に持っていた剣を、2人目掛けて投げると、男たちの意識が一瞬、そちらに向う。その瞬間に、男たちの肩と手首と膝に触る。
 まるでガムでも貼り付けるように。

「へっ、虚仮威しかよ!」

 すぐに男たちの意識はこちらに向ってくるが、もう遅い。
 
「俺の十八番! 引っ付いたら離れない髪の毛のガム!」

 恰幅のいい男と大柄の男の体がピッタリとくっ付く。
 まあ、正しく言えば、俺の能力で魔力を接着剤のようにして2人の肩と手首と膝をくっ付けた。

「まだやるか?」
「くっそ、離れねえ!」

 男たちは必死に離れようと、藻掻いているが、お互いの重みと、身長差で全く身動きが取れそうにない。
 更に、今は辛うじて立っているが、バランスを崩せば立ち上がれないことも理解しているので、そう簡単には攻撃もできないだろう。
 しかし……むさい男2人がくっ付いてる姿は、見ていてあんまり気持ちいいもんじゃないな。
 とか、余計なことを考えていたせいで、背後から近づいてきた、残ったヒョロい男に気づかず、何か堅いもので後頭部を殴られ、その衝撃で、一瞬、意識を失いかけるが……

「生憎、打たれ強さだけが取り柄でね!」

 気合で持ちこたえると、さっき武器を奪った時にくっ付けた、引っ付いたら離れない髪の毛のガムを使って、男の腕を引っ張り、体勢を前のめりにさせると、無防備にななった男の顎に力いっぱいの掌底を打ち込む。

「あがっ……」

 ヒョロい男は、何が起こったか分からないまま、口から血を吹き出して倒れた。

「やっべえ、舌噛んだな、こいつ……」

 俺は倒れた、ヒョロい男の口を覗き込む。
  
「なんだ、舌先噛んだだけか……」

 死なないことを確認すると、ヒョロい男を放置して、くっ付いた2人に視線を移す。

「ちょっと、聞きたいことあるんだけど」
「な、なにもんだてめえ!」
「いや、俺のことはいいよ。この辺に、サザーラインって人住んでない?」

 男たちは、顔を見合わせ、こちらに向き直る。

「悪いが、依頼主のことは話せねえな」

 いや、依頼主って言ってるけど!?

「だがな、俺たちも鬼じゃねえ。開放してくれたら話してやらんこともないぞ?」

 こいつら、どの立場でもの言ってんだ?
 まあ、いいかぐるぐる巻きにして、その辺に放置しとくか。
 
絶対に解けない紐絡まった髪の毛

 俺の能力で魔力を凝縮した長い紐を作り出し、2人をぐるぐる巻きにし、伸びている男の手足を縛り、3人まとめて隅の方に転がしておいた。
 これでしばらくは動けないだろう……

「よし、終わった終わった……痛ってぇ……」

 戦いが終わり、安堵すると同時に、興奮が冷めてきて、全身が痛みだす。

「誰かヒール使える人いないかなぁ……」

 俺は辺りを見回すが、今の悶着で、周囲に人の姿はなくなっていた。
 まあ、そもそもこの世界で、回復魔法が使える人は、ほとんどいないらしいし。
 俺も、まだ荒川以外に回復魔法が使える人とは出会ったことはない。
 そう考えると、俺の鼻は一生、治らない気がしてきた……
 鼻血を洋服で拭き取り、大きくため息を付きながら、貧困街の中へと進んでいく。


 ◇


 貧困街の入り口で身を隠すようにして、フードとマントに身を包んだ者が、値踏みするように才蔵の動きを観察していた。

「あれが、勇者の1人……碇才蔵……」

 声からして女性のように感じるが、フードのせいで顔を確認することは出来ない。
 その女性は、戦いを終え、歩き出した才蔵の後を悟られぬように、付いていく。
 果たして、この女性とは一体、何者なのか……
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