親友だった奴等と異世界で勇者やってましたが、俺だけ力不足だとクビにされたので見返すために可愛い亜人たちと世界救っちゃいます!

農民サイド

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第1章 冒険の始まり

第5話 勇者らしからぬ男

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 俺は現物を見るまで、サティアの言っていた、でかい建物は比喩表現かなんかだと思いこんでいた。
 シルヴェストにあった王様の城だって、せいぜい高さ60メートルくらいで、たしかにでかいが都会育ちの俺にとっては、そこまででもないなと感じる程度だったのだが……
 今、俺の目の前にある建物は、たしかにでかい。
 なにせ、高さが100メートルぐらいで、横幅だって150メートルはあるんじゃないかと思うほどのでかさだ。
 しかもそこにデカデカと、カジノと書かれているんだから、なんというか場違い感が半端ない。

「入り口で金巻き上げてんのも、こういうことか……」

 いやぁ……関わりたくないなあ。
 と言うのが俺の本音だが、男が格好つけたんだから最後まで責任は取らなきゃいけないとも思う。
 俺は、建物に近づきながら、入り口がないものかと探索していると、屈強な男が立っている場所を発見する。
 パッと見た感じ、入り口のような物は、付いていないが、人が立ってんだから、入り口はそこだろうと勝手な想像で近づいてみる。

「こんにちは」

 男は、俺の様子をみるなり、いきなり睨みつけて圧を放ってくる。
 どうみても貧乏人にしか見えない俺は、冷やかしにしか思えないのだろう。
 それでも、話ぐらいは聞けるかと、更に会話を続けてみる。

「ここに、サザーラインって名前の人はいますか?」
「ああ!?」

 声による威圧。
 普通の冷やかしならここで逃げるんだろうが、残念ながらここに用のある俺はしつこいぞ。

「サザーラインは、ここにいますか?」

 二度目の問いかけに、男たちが出した答えは……

「…………」

 無視!
 まあ、見ない、聞かない、言わないが一番、不審者に対して有効だけども…… 
 けど、実力行使で排除しない辺り、貧困街のガラの悪いだけの連中とは、違うみたいだな。
 会話が一方通行なのは変わらないけど。
 
「このカジノって、誰でも入れるんですか?」

 どうせ、返事もないだろうと、何気なく聞いてみたのだが、意外にも男からの返事があった。

「入ることは出来る」

 意味深だな……
 大方、入ったら最後、勝って金を稼ぐか、負けて地下で強制労働ってところか?
 そもそも、これだけ大きな施設だと、好き勝手すると国の内情にまで響きそうで怖いわ。
 しかしなあ……まあ、男は度胸、なんでも試してみるもんか!

「じゃあ、入ります」
「本当に入るんだな?」
「おう!」
「それじゃあ、身体検査をするぞ。持ち物を全部出せ」

 俺は言われるままに、全てを出す。
 サイフ、銀貨1枚、兵士募集の紙……

「お前、これだけでよく生きてたな……」
「いやぁ、中々悪運が強いみたいで」

 男は、呆れた顔で入り口の扉を開けてくれた。
 どうやら、仕掛け扉みたいで、パッと見は壁で普通には開かないらしい。

「それじゃ」

 俺は一応、男に挨拶をして、中へと入った。
 中は薄暗い、一本道のようだが、しばらく歩くと、明かりが見えてきた。
 
「うお……」

 明かりのを抜けると、そこは大きなホールになっていた。
 多くのテーブルでは、ディーラーがカードを配り、ルーレット台では客たちが転がる玉の行方を追っている、それらを多くの見物客が囲み、熱狂的に遊戯を楽しんでいるようだ。
 しかも客のほとんどは、貴族で側にボディガードまで待機させ、常に周囲を見張らせている。
 また、更に奥の方には、大きなビンゴ会場や、踊り子のショー、それに……

「奴隷の競りか?」

 競り合うような声が、入り口にいる俺の方まで聞こえる。
 まあ、そういうものがある可能性も考えていたが、実際に見るとあまりいい気がしないな。
 特に、現代っ子の代表である俺からすれば奴隷なんてナンセンス。
 しかし、ここは現代ではないので、その考えに強くノーとも言えないのが辛いところ。

「さてと、行きますか」

 決意を改めるように声を出し向ったのは、テーブルの上で行われているポーカーゲーム。
 キメ顔で席についた俺は、ディーラーから説明を聞く。
 ポーカーは、俺のような健全な高校生でも知っているトランプゲームの1つで、ゲームに参加しているプレイヤーに5枚づつトランプを配り、一度だけ手札を同じ5枚になるように交換して、ゲームを降りるか続けるかを決める。
 そして、ゲームを続けるプレイヤー同士で手札を公開し、一番強い組み合わせだったやつが勝ち、掛け金を全部もらうっていうゲームだ。

「いくら掛けますか?」

 俺は、有り金全部である、銀貨1枚を取り出し、テーブルに置く。
 俺以外の貴族は、それぞれ金貨を数十枚ほど掛けてゲームに挑むようだ。
 
「ふむ……」

 俺の手は、ハートのA、ハートの11、ハートの12、スペードの4、クローバーの5となっているのでそのうち、4、5を戻し、2枚を受け取る。
 その際、ちょっとだけカードに細工をして、受け取るカードの表面を魔力で書き換え、ハートの10、ハートの13にすると……    
 あっと言う間にロイヤル・ストレート・フラッシュ!
 ちょっとずるいけど、まあ仕方がない。

「レイズ」
「レイズ」
「チェック」

 他の貴族たちも引き直した結果を見て、掛け金を釣り上げているようだ。
 ちなみにレイズが掛け金の釣り上げを意味し、チェックはその回の勝負を降りることを意味する。
 あと、コールとフォールドっていうのもある、コールは前のプレイヤーと同じ金額を掛けること、フォールドはそのまま勝負することだ。

「フォールド」

 掛け金のない俺は、必然的にフォールドするしかない。
 プレイヤー全員の準備が揃ったところでディーラーが声を上げる。

「オープン」

 ディーラーの合図により、全員の手札を公開する。
 左から、スリーカード、ストレート……そして俺のロイヤル・ストレート・フラッシュ。
 その瞬間、俺以外の動きが固まる。
 それもそうだろう、俺の手札はほぼ負けなし……つまり俺のひとり勝ちを示しているのだから。
 こうして、俺は一瞬にして、大金持ち……とはいかず、突然表れた厳つい男に、腕を引っ張られ、連行される。
 華やかなエリアを抜けて、薄暗い階段をのぼること、数10階分……
 足腰が立たなくなりそうになりながら、連れてこられたのは最上階の部屋。
 厳つい男がドアを開けると、中にいたのは、道化のような格好した男。
 見晴らしのいい窓の外を眺めながめている様子から、こいつがサザーラインな気がしてきた。

「ボス、怪しい男を連れてきました」
「了解、下がっていいよ」
「はっ」

 厳つい男が、部屋を出ていく様子を見送り、前を向くと、道化の格好の男の視線が俺を向いていた。
 
「君……見ない顔だね」
 
 そこで、俺は自分が顔を変えていたのを思い出す。
 まあ、変えていなくても、誰だか分からない気もするけど……

「まあ、いいや。君のような貧民がこんな所に何しに来たの?」
「あ、いや、サザーラインって人を探してて……」

 すると道化の格好の男は、クネクネと長い手足を動かし、俺の目の前までやって来る。
 その動き方は、正直気持ち悪いと思ったが、こじれるのは勘弁だったので、必死に態度に出さないようにした。
 
「君、その名前どこできいたの?」

 道化の格好の男は、俺の顔を舐め回すように見ている。

「いや、知り合いに聞いたんですよね。サザーラインって人を探しているって」
「ふーん……君のそれ、魔力を貼り付けてるの?」

 まじか、俺の顔面加工技術写真だとイケメンだねがばれただと……

「……よく分かりましたね」

 俺は、能力を解除して、素顔に戻す。

「おお、あなた様はかの有名な、シルヴェストの勇者様が1人、サイゾウ様ではないですか。なぜこんな辺境地に、お1人で? しかもイカサマまでして」

 おかしい、今までの流れだと知らないってお約束だろ!
 なんで、知ってんだ、しかもめっちゃくちゃ詳しく。

「いや、さっきも説明したけどサザーラインって人を探してるんだって」

 すると道化の格好の男は、いきなり両手を叩きながら愉快そうに。

「そうでした、そうでした。サザーラインですね……それは私です」
「いや、お前かい!」

 いや、薄々そんな気はしていたが、思わず叫んでしまった……

「はい、私です。で、何用でしょうか? この、七星英雄が1人『魔眼のロイド・サザーライン』に、どのような御用ですか?」

 七星英雄……?
 聞いたことないな。
 まあ、気になるけど後回しでいいや。

「いや、サティアって女の子のお姉さんを探してて、そのサティアって子が、お姉さんはこの国で一番でかくて、サザーラインって人のところにいるって……」
「ああ、猫族の女の子ですね」
「そうそう」
「でしたら、今頃、ビンゴでもして遊んでおられますよ。亜人連合代表のティアナ様がね」

 亜人連合? 
 代表のティアナ?
 分からない単語が増えてきたな……

「ってか、遊んでんのかよお姉さん……」
「ええ、ここの常連ですよ」

 しかも常連!?
 もう、情報が多すぎて疲れたよ俺は……

「あ、ロイドさん。なんかお騒がせしました。俺帰りますんで……」
「どうぞ、どうぞ。何ならお金お貸ししますので下で遊んでいきますか?」
「いや、結構です……」

 おいおい、鼻まで折って、イカサマまでして助けに来たのに、ご本人はカジノで豪遊中って……

「ふざけるなあああああああああ」

 ロイドは、いきなり叫びだした俺を、冷めた目で見ていた。
 さて、帰ろうと、ドアを開けようとすると……
 いきなり、バンっ! と大きな音を立てて、ドアが吹き飛び。
 俺は、開いたドアに吹き飛ばされる。
 その際に、また鼻に追加ダメージを食らった。

「ついに、見つけたぞ! ロイド・サザーライン、今ここで貴様を殺す!」

 あまりの痛みに、丸まって藻掻いていると、女の声が聞こえる。
 俺は、痛む鼻を抑えながら、声の主へと視線を移す。
 そこにはフードを深々と被り、マントを羽織った女性が立っていた。

「今日は、変わった来客が多い日ですね」
「うるさい! 貴様のせいでお姉さまは……お姉さまは……」

 女性の声色は、徐々に涙混じりの声へと変わる。

「お前のせいで、遊戯狂いになってしまったんだ!」

 お前もお姉さんの関係者か!
 もう嫌だ、この世界……
 まともな人がいないよぉ。
 疲れ切った俺は、このままここで寝ることにした。
 おやすみなさい。
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