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祭り後編
その二
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この日も暇を持て余していた凪咲は、雪路が出場していたミスコンも観に来ていた。
「ユキちゃん、ミスコンお疲れ様」
「ありがとう、今日も来てくれたんやね」
「うん、暇だったからさ。にしてもびっくりだね、あんなことあるんだ」
凪咲はギャラリーの後方にいたので詳細は分かっていなかったが、騒ぎには居合わせていて多少の動揺が残っていた。
「せやね、私も知らん男の人に『ご家族の方から連絡が』って言われた時はちょっと怖かったわ」
「お前何呑気そうにしてんねん、信おったから良かったようなもんの……まぁ怪我とか無うて何よりやわ」
騒ぎがあったことを聞き付けた嶺山は、犯人こそ逮捕されているが一人にはさせられないと車で迎えに来ていた。
「でもそんなの言われたら冷静でいられないよね、いくら護衛の人がいるからって」
「家の場合ちょっと特殊やから。『ご両親』って言われてあぁこの人ニセモノやって」
雪路はそう言って笑った。
「まぁな。俺ら異母兄妹やし、どっちも婚外子やから何ちゅうか『両親』いうワードがピンとこんのや」
「うん、それに私らの母はとっくに亡くなってるから」
「そういうこっちゃ、それで俺らを騙くらかすんは無理や」
嶺山兄妹は笑っていたが、凪咲からすると少しばかり話題が黒過ぎると感じていた。
「いや笑えないって」
「でも可哀想扱いはされたないのよ」
「それは分かる。アタシも実母は四歳くらいの時に亡くなってるから、お母さんいなくて可哀想みたいなことはよく言われたなぁ」
「あれはマジ面倒臭いな」
「「だねぇ」」
三人は幼少期に持った複雑な感情を共有していた。
「ところでこの後どうする? ホテル戻る?」
「う~ん素泊まりだから何か食べてから戻る」
「せやったら『オクトゴーヌ』行く? カフェ営業まだやってるから」
「けど智はおらんぞ」
「何か昨日は大変だったみたいだよ。今日会わなくても明日から三日ほど泊まらせてもらうから」
凪咲は前日佐孝と稲城と共に夜まで祭りを楽しんでいた。夜間滑り込みで出店コンテスト会場に入ったので、悌に代わってからの盛況振りは目にしている。
「『オクトゴーヌ』新しい人入ってんだね、出店で調理してた人見たこと無いもん」
「えっ? 義さんやないの?」
二人は夜遅くまで出張販売に出ていたため、昨日のアクシデントをまだ知らなかった。
「違ったよ。もっと背が高くて昭和映画のオトコマエって感じの人」
「それ吾さんやわ。けど何で?」
「理由は知らないけどどっか行っちゃったんだって。それでえーっと村木さんか、が手伝いのついでに応援を呼んでくれたって聞いてるよ」
何の気無しに事実のみを話す凪咲に対し、嶺山兄妹は反応しきれずにお互いの顔を見合わせる。
「ん? どうしたの? アタシ何かおかしなこと言った?」
凪咲は二人の態度を不思議そうに見やる。
「いや、義優勝する気満々やったのに途中で抜けたってのがなぁ」
「ホンマやね。けど昨夜戻ってった時義さん見た?」
「そういや見てないなぁ」
嶺山は昨夜の記憶を辿りながら口をへの字にする。
「順位良くなかったみたいだよ、それで逃げたんじゃない?」
凪咲は川瀬をほぼ知らないので好きなように言う。
「そこまで無責任な人やないよ」
雪路はそんな彼女を窘めたが、嶺山は今の川瀬であればその可能性も捨て切れないと思い何も言えなかった。程なくして『オクトゴーヌ』に到着したので、自家用車を『離れ』の駐車場に停めてから裏口をまわって店内に入る。ランチタイムもとおに終わっているのに客足はまだ途絶えておらず、テーブル席は満席状態であった。
「今日は一段と混んでるね」
カウンター席に空きがあったので、三人は横並びで座る。
「最近カフェ営業は人気が上がってきとるからな」
嶺山もほぼ毎日店の様子を見ているだけに、この日の混雑ぶりに驚きを隠せない。
「ひょっとしたらアレかも、昭和映画のオトコマエにファンが付いたんじゃないかな?」
「確かにそれやったら説明が付くわ」
嶺山は厨房にほど近いテーブル席にいる女性客を見た。彼女たちは時々中を覗こうと試みており、少しでも悌の姿が見えると嬉しそうにはしゃいでいる。
「これヘタしたらカフェの方が忙しなるんちゃうか?」
嶺山は『オクトゴーヌ』の様子を面白そうに観察していた。
「本業の宿泊かてお客様増えてるやないの」
「素泊まりはな。食事付きの方は減ってるんや、毎日見とったら分かる」
嶺山につられた凪咲も店内の観察を始めている。この日は繁盛しているためか昭和映画のオトコマエこと悌も接客に出ており、女性客の視線を釘付けにしていた。
「凄いの引き入れたんだね。昨日のポモドーロは美味しかったもん」
「吾さんのお料理も評判良いよ、私は“ヅケカツ定食”をオススメするわ」
「そうなの? それにしようかな?」
「ほな俺もそれにしよ、プラス百円でドリンク付くけどどうする?」
「私は付いてるお茶で十分やわ」
「アタシは喉乾いたからオレンジジュース付ける」
嶺山はちょうどいいタイミングでカウンターに入ってきた義藤に声を掛け、“ヅケカツ定食”を三人分注文した。
「ご注文繰り返しまぁす。“ヅケカツ定食”が三つ、ユキちゃんは定食のみ、智っちの義妹さんはドリンクプラスでオレンジジュース、旦那もドリンクプラスでアイスコーヒーでお間違い無いですかぁ?」
義藤の復唱に凪咲は目を丸くする。小野坂の結婚式の場に居合わせていたものの、直接顔を合わせていないので言わばこれが初対面となる。
「あれ? どっかで会ったことある?」
「はいっ! オレ面接希望でその日ここに入っちゃったんす」
その出来事には憶えがあり、旅行客風の男の子がアポを取らずに面接を受けに来たというのは聞いていた。
「あぁ、その時の子なんだ。よく捕まんなかったね」
「翌朝捕まっちゃいましたぁ。家出中だったんで、実家のクソ親に捜索届出されてて」
「そっち? 君未成年だったんだ。でも良かったじゃん、結果的に採用されて」
「はいっ! んじゃオーダー通してきまぁす」
義藤は三人に会釈してから厨房に入っていった。
「ちょっと気になってたんだよね、式場内の人があの子のこと通報してたからさ」
凪咲は義藤と対面をしたことで、参列者の一人が嫌悪の態度を見せていたのを思い出していた。彼女にしてみれば、その男は夫である兄を差し置いて兄嫁にべったりへばり付いていたことに嫌悪感を覚えていたのだが。
「「はぁっ?」」
嶺山兄妹は彼女の爆弾発言に再度驚かされていた。
「ユキちゃん、ミスコンお疲れ様」
「ありがとう、今日も来てくれたんやね」
「うん、暇だったからさ。にしてもびっくりだね、あんなことあるんだ」
凪咲はギャラリーの後方にいたので詳細は分かっていなかったが、騒ぎには居合わせていて多少の動揺が残っていた。
「せやね、私も知らん男の人に『ご家族の方から連絡が』って言われた時はちょっと怖かったわ」
「お前何呑気そうにしてんねん、信おったから良かったようなもんの……まぁ怪我とか無うて何よりやわ」
騒ぎがあったことを聞き付けた嶺山は、犯人こそ逮捕されているが一人にはさせられないと車で迎えに来ていた。
「でもそんなの言われたら冷静でいられないよね、いくら護衛の人がいるからって」
「家の場合ちょっと特殊やから。『ご両親』って言われてあぁこの人ニセモノやって」
雪路はそう言って笑った。
「まぁな。俺ら異母兄妹やし、どっちも婚外子やから何ちゅうか『両親』いうワードがピンとこんのや」
「うん、それに私らの母はとっくに亡くなってるから」
「そういうこっちゃ、それで俺らを騙くらかすんは無理や」
嶺山兄妹は笑っていたが、凪咲からすると少しばかり話題が黒過ぎると感じていた。
「いや笑えないって」
「でも可哀想扱いはされたないのよ」
「それは分かる。アタシも実母は四歳くらいの時に亡くなってるから、お母さんいなくて可哀想みたいなことはよく言われたなぁ」
「あれはマジ面倒臭いな」
「「だねぇ」」
三人は幼少期に持った複雑な感情を共有していた。
「ところでこの後どうする? ホテル戻る?」
「う~ん素泊まりだから何か食べてから戻る」
「せやったら『オクトゴーヌ』行く? カフェ営業まだやってるから」
「けど智はおらんぞ」
「何か昨日は大変だったみたいだよ。今日会わなくても明日から三日ほど泊まらせてもらうから」
凪咲は前日佐孝と稲城と共に夜まで祭りを楽しんでいた。夜間滑り込みで出店コンテスト会場に入ったので、悌に代わってからの盛況振りは目にしている。
「『オクトゴーヌ』新しい人入ってんだね、出店で調理してた人見たこと無いもん」
「えっ? 義さんやないの?」
二人は夜遅くまで出張販売に出ていたため、昨日のアクシデントをまだ知らなかった。
「違ったよ。もっと背が高くて昭和映画のオトコマエって感じの人」
「それ吾さんやわ。けど何で?」
「理由は知らないけどどっか行っちゃったんだって。それでえーっと村木さんか、が手伝いのついでに応援を呼んでくれたって聞いてるよ」
何の気無しに事実のみを話す凪咲に対し、嶺山兄妹は反応しきれずにお互いの顔を見合わせる。
「ん? どうしたの? アタシ何かおかしなこと言った?」
凪咲は二人の態度を不思議そうに見やる。
「いや、義優勝する気満々やったのに途中で抜けたってのがなぁ」
「ホンマやね。けど昨夜戻ってった時義さん見た?」
「そういや見てないなぁ」
嶺山は昨夜の記憶を辿りながら口をへの字にする。
「順位良くなかったみたいだよ、それで逃げたんじゃない?」
凪咲は川瀬をほぼ知らないので好きなように言う。
「そこまで無責任な人やないよ」
雪路はそんな彼女を窘めたが、嶺山は今の川瀬であればその可能性も捨て切れないと思い何も言えなかった。程なくして『オクトゴーヌ』に到着したので、自家用車を『離れ』の駐車場に停めてから裏口をまわって店内に入る。ランチタイムもとおに終わっているのに客足はまだ途絶えておらず、テーブル席は満席状態であった。
「今日は一段と混んでるね」
カウンター席に空きがあったので、三人は横並びで座る。
「最近カフェ営業は人気が上がってきとるからな」
嶺山もほぼ毎日店の様子を見ているだけに、この日の混雑ぶりに驚きを隠せない。
「ひょっとしたらアレかも、昭和映画のオトコマエにファンが付いたんじゃないかな?」
「確かにそれやったら説明が付くわ」
嶺山は厨房にほど近いテーブル席にいる女性客を見た。彼女たちは時々中を覗こうと試みており、少しでも悌の姿が見えると嬉しそうにはしゃいでいる。
「これヘタしたらカフェの方が忙しなるんちゃうか?」
嶺山は『オクトゴーヌ』の様子を面白そうに観察していた。
「本業の宿泊かてお客様増えてるやないの」
「素泊まりはな。食事付きの方は減ってるんや、毎日見とったら分かる」
嶺山につられた凪咲も店内の観察を始めている。この日は繁盛しているためか昭和映画のオトコマエこと悌も接客に出ており、女性客の視線を釘付けにしていた。
「凄いの引き入れたんだね。昨日のポモドーロは美味しかったもん」
「吾さんのお料理も評判良いよ、私は“ヅケカツ定食”をオススメするわ」
「そうなの? それにしようかな?」
「ほな俺もそれにしよ、プラス百円でドリンク付くけどどうする?」
「私は付いてるお茶で十分やわ」
「アタシは喉乾いたからオレンジジュース付ける」
嶺山はちょうどいいタイミングでカウンターに入ってきた義藤に声を掛け、“ヅケカツ定食”を三人分注文した。
「ご注文繰り返しまぁす。“ヅケカツ定食”が三つ、ユキちゃんは定食のみ、智っちの義妹さんはドリンクプラスでオレンジジュース、旦那もドリンクプラスでアイスコーヒーでお間違い無いですかぁ?」
義藤の復唱に凪咲は目を丸くする。小野坂の結婚式の場に居合わせていたものの、直接顔を合わせていないので言わばこれが初対面となる。
「あれ? どっかで会ったことある?」
「はいっ! オレ面接希望でその日ここに入っちゃったんす」
その出来事には憶えがあり、旅行客風の男の子がアポを取らずに面接を受けに来たというのは聞いていた。
「あぁ、その時の子なんだ。よく捕まんなかったね」
「翌朝捕まっちゃいましたぁ。家出中だったんで、実家のクソ親に捜索届出されてて」
「そっち? 君未成年だったんだ。でも良かったじゃん、結果的に採用されて」
「はいっ! んじゃオーダー通してきまぁす」
義藤は三人に会釈してから厨房に入っていった。
「ちょっと気になってたんだよね、式場内の人があの子のこと通報してたからさ」
凪咲は義藤と対面をしたことで、参列者の一人が嫌悪の態度を見せていたのを思い出していた。彼女にしてみれば、その男は夫である兄を差し置いて兄嫁にべったりへばり付いていたことに嫌悪感を覚えていたのだが。
「「はぁっ?」」
嶺山兄妹は彼女の爆弾発言に再度驚かされていた。
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