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懲りずに続編
昔話をもう一つ……
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俺が二十歳になる少し前、畠中家……特に兄さんにとっては人生を左右する出来事が起こってしまった。正直に言えば突然だった訳じゃないらしいが、詳細を知らなかった俺にとってはショックのでかい事だった。
波那ちゃんが亡くなった。
以前、俺が中学に入学した時期に倒れて以来『次があったら覚悟しておいてください』って状態がずっと続いていたらしい。それを知ってたのは兄さんと実母早苗さんだけだったそうだ。
けど彼はいつも笑顔でむしろ元気そうに振る舞ってた、少なくとも俺にはそう見えてた。波那ちゃんと一緒にいた時期はそう長くなかったけど、俺にとってはお母さん的存在だっただけにしばらくは立ち直れなかった。
兄さんにしたら俺どころじゃなかったと思う、人生の伴侶として共に添い遂げると約束した人がいなくなったんだから。それでも案外平静を装ってたように思う、かなり後になって知ったけどそれが波那ちゃんの遺言だったらしいんだ。
それから程なくして田丸が家を訪ねてきた、何故かハナちゃんを連れて。当時大学進学で既に北海道暮らしをしてて、学業が一段落着いて帰省の際に立ち寄ってくれた。
『この度はご愁傷様です。猫を連れるのもどうかと思ったんだけど……』
挨拶もそこそこにハナちゃんを連れてきた事情を話し出す田丸。概要だけ説明すると、波那ちゃんが亡くなった時期辺りに一旦急激に元気が無くなったから病院に連れて行くと、容態が急変して吐血し生死を彷徨ったらしい。
ところが翌朝になるとこれまでの病弱ぶりが嘘みたいに元気になったんだと。健康な猫が如く縦横無尽に駆け回り、再検査してみたらこれまであった異常がきれいさっぱり無くなっちまったと言った。
『食事の好みも変わっちゃって、まるで違う子にすり替わったみたくなってるんだ。あれだけ懐いてた母にもどこかよそよそしくて……』
んで、今日俺ん家に行くってお母さんに告げた途端ハナちゃんが暴れ出し、それがまるで『連れてけ』とでも言ってるかのように感じたらしい。その手の勘が働くこの男は、その直感を信じてハナちゃん共々家を訪ねた、という訳だ。
『……おいさっぱり訳分かんねぇぞ』
『僕だってそうだよ。たださ、この家に入ったら何か落ち着いちゃってるんだよね』
とボックスに入ってるハナちゃんを覗く田丸、俺も便乗して覗いてみたけど暴れてたのか?ってくらいの寛ぎ方してる。
『そう言われても分かんねぇわ、体弱いから基本じっとしてたし』
『うん確かに。開けてもいい?』
おぅ。俺が了承すると田丸はボックスの入り口を開けた。家にはミソラという名の大型犬がいるのだが、この二匹面識もあるし相性も悪くないからまぁ大丈夫だろ。
『そう言えばミソラちゃんは?』
『兄と散歩中、もうじき帰ってくるよ』
『そう、実はコレ買ってきたから後で一緒に食べよう』
そう言ってさっきからずっと脇に置いてある白い紙袋を指差した、見たところスイーツっぽいけど。
『冷蔵庫とかに入れなくて平気か?』
あっ……と田丸が忘れてました的なリアクションを見せたところで、兄さんが散歩から帰ってきた。
『ただいま』
とミソラと共に家に入る兄さんに田丸が挨拶する。
『こんにちは、猫共々お邪魔してます』
『いらっしゃい、大したもてなしはできないけどゆっくりしてきなよ』
『ありがとうございます。そう言えば星哉さんコレ好きでしたよね?』
田丸は忙しなく紙袋から白い箱を取り出して兄さんに中身を見せてる。何買ったんだ?俺も便乗して中を覗くと、ランドマークホテル一階にあるケーキ屋のコーヒーゼリーだった。
『おいそれ結構高かったろ?』
あそこのスイーツは県内一を誇る美味さと値段の高さで評判で、コーヒーゼリーはその中でいえば安めだけど一個五百円くらいはする代物だ。いくらコイツん家が金持ちでも六個は買い過ぎだと思うぞ。
『ありがとう、遠慮なく頂くよ』
兄さんは箱の中に手を入れて一個だけ取り出した。
『これだけ備えてもいいか?』
『えぇもちろん、波那さんもお好きだったんですか?』
あぁ。兄さんはそれを波那ちゃんの仏壇にそっと置いた。あれ?波那ちゃん確かコーヒーはおろかカフェイン自体ダメだったはずだけど……そう思った俺の疑問に答えるかのように、兄さんは仏前に座ってこれだけは食えたんだよと言った。
『これな、俺たちを繋げてくれた思い出の品ってやつなんだ』
兄さんは波那ちゃんを慈しむように、十年以上昔の思い出話を聞かせてくれた。
波那ちゃんが亡くなった。
以前、俺が中学に入学した時期に倒れて以来『次があったら覚悟しておいてください』って状態がずっと続いていたらしい。それを知ってたのは兄さんと実母早苗さんだけだったそうだ。
けど彼はいつも笑顔でむしろ元気そうに振る舞ってた、少なくとも俺にはそう見えてた。波那ちゃんと一緒にいた時期はそう長くなかったけど、俺にとってはお母さん的存在だっただけにしばらくは立ち直れなかった。
兄さんにしたら俺どころじゃなかったと思う、人生の伴侶として共に添い遂げると約束した人がいなくなったんだから。それでも案外平静を装ってたように思う、かなり後になって知ったけどそれが波那ちゃんの遺言だったらしいんだ。
それから程なくして田丸が家を訪ねてきた、何故かハナちゃんを連れて。当時大学進学で既に北海道暮らしをしてて、学業が一段落着いて帰省の際に立ち寄ってくれた。
『この度はご愁傷様です。猫を連れるのもどうかと思ったんだけど……』
挨拶もそこそこにハナちゃんを連れてきた事情を話し出す田丸。概要だけ説明すると、波那ちゃんが亡くなった時期辺りに一旦急激に元気が無くなったから病院に連れて行くと、容態が急変して吐血し生死を彷徨ったらしい。
ところが翌朝になるとこれまでの病弱ぶりが嘘みたいに元気になったんだと。健康な猫が如く縦横無尽に駆け回り、再検査してみたらこれまであった異常がきれいさっぱり無くなっちまったと言った。
『食事の好みも変わっちゃって、まるで違う子にすり替わったみたくなってるんだ。あれだけ懐いてた母にもどこかよそよそしくて……』
んで、今日俺ん家に行くってお母さんに告げた途端ハナちゃんが暴れ出し、それがまるで『連れてけ』とでも言ってるかのように感じたらしい。その手の勘が働くこの男は、その直感を信じてハナちゃん共々家を訪ねた、という訳だ。
『……おいさっぱり訳分かんねぇぞ』
『僕だってそうだよ。たださ、この家に入ったら何か落ち着いちゃってるんだよね』
とボックスに入ってるハナちゃんを覗く田丸、俺も便乗して覗いてみたけど暴れてたのか?ってくらいの寛ぎ方してる。
『そう言われても分かんねぇわ、体弱いから基本じっとしてたし』
『うん確かに。開けてもいい?』
おぅ。俺が了承すると田丸はボックスの入り口を開けた。家にはミソラという名の大型犬がいるのだが、この二匹面識もあるし相性も悪くないからまぁ大丈夫だろ。
『そう言えばミソラちゃんは?』
『兄と散歩中、もうじき帰ってくるよ』
『そう、実はコレ買ってきたから後で一緒に食べよう』
そう言ってさっきからずっと脇に置いてある白い紙袋を指差した、見たところスイーツっぽいけど。
『冷蔵庫とかに入れなくて平気か?』
あっ……と田丸が忘れてました的なリアクションを見せたところで、兄さんが散歩から帰ってきた。
『ただいま』
とミソラと共に家に入る兄さんに田丸が挨拶する。
『こんにちは、猫共々お邪魔してます』
『いらっしゃい、大したもてなしはできないけどゆっくりしてきなよ』
『ありがとうございます。そう言えば星哉さんコレ好きでしたよね?』
田丸は忙しなく紙袋から白い箱を取り出して兄さんに中身を見せてる。何買ったんだ?俺も便乗して中を覗くと、ランドマークホテル一階にあるケーキ屋のコーヒーゼリーだった。
『おいそれ結構高かったろ?』
あそこのスイーツは県内一を誇る美味さと値段の高さで評判で、コーヒーゼリーはその中でいえば安めだけど一個五百円くらいはする代物だ。いくらコイツん家が金持ちでも六個は買い過ぎだと思うぞ。
『ありがとう、遠慮なく頂くよ』
兄さんは箱の中に手を入れて一個だけ取り出した。
『これだけ備えてもいいか?』
『えぇもちろん、波那さんもお好きだったんですか?』
あぁ。兄さんはそれを波那ちゃんの仏壇にそっと置いた。あれ?波那ちゃん確かコーヒーはおろかカフェイン自体ダメだったはずだけど……そう思った俺の疑問に答えるかのように、兄さんは仏前に座ってこれだけは食えたんだよと言った。
『これな、俺たちを繋げてくれた思い出の品ってやつなんだ』
兄さんは波那ちゃんを慈しむように、十年以上昔の思い出話を聞かせてくれた。
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