どら焼は恋をつなぐ

谷内 朋

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懲りずに続編

……波那ちゃんが遺してくれたもの

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 『……ごめん、違うこと考えてた』
 『バイト明けで疲れたんだろ?返事は急がないよ』
 えっ?一体何の話してるの?
 『あぁ全然聞いてねぇわ……あのな、波那ちゃんが使ってた調理器具を貰ってくんねぇか?って話してたんだ』
 ぽ~っとしている僕に伽月が説明してくれました。えっ?畠中家だってお料理するなら調理器具使わないの?
 『でも、伽月料理するんだから無いと困らない?』
 『まぁでも菓子作りはしねぇからさ、泡立て器とかヘラとか使わねぇもん』
 ほっとんどのモン使ってねぇぞ、彼はそう言って笑っています。
 『捨てるには綺麗だからさ、使ってくれそうな人に譲る方が良くね?って話になって』
 『それなら誠にって思ったんだ。波那もきっと喜ぶと思う』
 『僕も良い案だと思うよ、誠君何気に波那さんと雰囲気似てるし』
 いやいや僕あんなに天使じゃないよと思ってたその時、キッチン下の棚からガリガリと不穏な音が聞こえてきました。まさかとは思うけど……田丸君の表情は変わって慌てて席を立ちました。
 『コラッ!ダメじゃないか!』
 彼は棚に駆け寄ってハナちゃんを抱え叱っています。随分わんぱくになってない?なんて見ていると星哉君も席を立ち、ハナちゃんが引っ掻いた棚を開けました。
 『そう言や確か……やっぱりそうか』
 彼はその場でしゃがみ、棚に頭を入れて何かを取り出しました。何だろ?と気にしてみると結構な冊数のノートを抱えていらっしゃいます。
 『多分生前波那が書き溜めてたレシピノートだ、見てみるか?』
 星哉君は一番上の一冊を僕に差し出しました。あっ、見たことあると思ってそれを受け取り、表紙を開けてみると確かに手書きのお料理レシピでした。出来上がり写真も貼ってあり、色鉛筆でちょこちょことデコレイトしてあって可愛らしい仕上がりになっています。
 『……』
 僕は、生前ここで楽しそうにお料理をしていた彼の後ろ姿を思い出して泣きそうになりました。僕に倣うように皆波那ちゃんの直筆ノートを夢中になって読んでいます。
 『ついでにこれも要るか?』 
 星哉君はノートから僕に視線を移しました。えっ?これは波那ちゃんの直筆だからむしろあなたが持ってた方が……。
 『それはさすがに……』
 『俺が持ってても役に立てられそうにないから。お前もそう思うだろ?』
 彼は田丸君の腕の中にいるハナちゃんに優しい視線を向けてそっと頭を撫でました。ハナちゃんは嬉しそうにして大きな手に擦り寄り、ニャ~♪とひと声鳴きました。
 『きっと賛同してるってことでいいんだよね?』
 田丸君はハナちゃんにそう話し掛けると、彼女は僕に顔を向けて小さく頷きました……実際は分かりませんが当時の僕にはそう見えていました。

 波那ちゃんの遺品として調理器具とレシピノートを受け取った僕は、翌日それを持って実家に戻り勇の誕生祝い用の料理を作っています。弟のリクエストでアレを作ることになっていて、レシピは僕の頭にしっかりと叩き込まれています。材料のメーカーもバッチリ、早速彼の調理器具で創作開始です。
 勇は部活推薦で県内屈指の強豪A大学付属高校でバレーボールに明け暮れ、寮生活をしています。主役居ぬ間にと伽月と田丸君も小田原家に乗り込み、お手伝いをしてくれています。
 僕はこれまた波那ちゃんのフライパンで生地を二枚焼きます。調理自体は簡単なのですが、折角ならこれを機に味もきちんと受け継ぎたいと否が応にも気合が入ります。
 キビ砂糖を使ってるからどうしても焼き色が濃くなりますが、それでも普段以上の出来にこの調子と自分で自分を盛り立てます。
 生地の熱を取ってる間にホイップクリームを作ります。こちらもキビ砂糖を入れるのでほんのりと色が付きます。ボウルを氷水に漬けて冷やしながら、空気を入れるよう撹拌します。
 あと生地にこし餡を塗って苺を並べ、ホイップクリームを乗せてもう一枚の生地を乗せたら『波那ちゃんのどら焼き』は無事完成。勇喜んでくれるかな?
 『ただいまぁ』
 あっ、帰ってきた♪僕はいそいそと出迎え、主役をダイニングに迎え入れました。勇を迎えに行ってくれた姉家族も加え、小田原家は久し振りに家族全員が揃いました。
 さすがに晋も中学生になってバースデーソングは歌わなくなりましたが、それでも賑やかな誕生日会になりました。勇は身長こそ百八十センチ近くになりましたが、まだ十七歳なので年齢を重ねるのが嬉しいみたいです。
 『兄ちゃん、どら焼きを一番に食べたい』
 うん。僕は切り分けたどら焼きを勇の前に置きます。早速フォークを持ってひと口分を切り、口に入れるとちょっと表情が変わりました。
 『あれ?何か違う』
 『そう?波那ちゃんのレシピを真似たからかな?』
 『それいつものことじゃない』
 そう言いながらも美味しそうに食べてくれる勇に触発されて、伽月も大きめなひと口でどら焼きを頬張っています。
 『……』
 彼は神妙な表情で一瞬動きが止まり、あとはひたすらモグモグ。どうかしたの?
 『……お、美味しくなかった?』
 な、何か言って。不安になっちゃう。
 『そうじゃねぇ……波那ちゃんの味だ』
 『ホント……?』
 『あぁ、食ってみろ』
 僕もフォークを持ってどら焼きをひと口食べてみると、これまで何度作っても到達できなかったあの味が口の中いっぱいに広がりました。
 やっとできた……僕はあまりの嬉しさに視界が滲んできました。そのせいで家族を慌てさせてしまいましたが、初めて彼に一歩近付けたような気がして、忘れられない一日になりました。
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