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第二話

志半ばで夢を断たれた魂 -5-

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 そんなサアヤの目の前に、黒い炭酸飲料を持ったヴィニエーラが厨房から現れてグラスを差し出してきた。

 「あなたの飲みたいものってこれの事?」

 〈ウヒャッ、“コーラ”ジャン!〉

 サアヤはそれを嬉しそうに受け取り♪無警戒にグビッと飲んだ。

 〈ウヘェッ!〉「ちょっと苦くないっ!?」

 「そりゃあそれ元は薬だもの」

 「んな訳無いでしょっ!?……あれ、言葉が解る……」

 サアヤは“コーラ”を持ってきた女性をまじまじと見つめてしまう。

 「……」

 「あぁ、それにメルクリウスの水を入れたのよ。脳内翻訳がどれだけ面倒臭いか……“アース星”の物は誰でも飲めるように改良されてるらしいけど、食中毒時の水分・糖分補給とか消化器不調時に飲むとかって聞いてるわよ」

 「知らないわよそんな事、“ニッポン”では嗜好品だったもん」

 「そう、それは“クルック”って名前で“ナオス系”の惑星“パックボ星”の飲み薬よ。数種類の薬草と黒い甘味料を煮詰めたシロップを炭酸水で割ってるの」

 「そうなんだ……でもビールよりはこれの方が良い」
 
 「それじゃあ料理はこれでどう?」

 ヴィニエーラは“アース星”では世界的に有名な“ファーストフード”メニューを出してきた。サアヤは嬉しそうに目を輝かせていたが、なかなか食べようとしない。

 「“アース星”では国によって成長期真っ只中から痩せる事への執着が凄いとは聞いてたけど……もう肉体と離れてるんだから太ったり病気になったりとかしないわよ、味覚を思いっきり楽しんで」

 「そうなのね、じゃあ遠慮なくいただきますっ!」

 サアヤは顔の前で手を合わせ、目の前にある料理に一礼をしてから“ハンバーガー”を頬張った。美味し〜い!彼女はモグモグと口を動かして幸せ一杯の表情をしていたが、ある違いに気付いて“ハンバーガー”を見つめている。

 「あれ?こんなお肉食べた事無い……」

 「でしょうね。“アース星”だと“ビーフ”って肉を使ってると思うんだけど、ここでは“エニフ系”の惑星“アドーゴラ星”に生息している“ポッキー”って名前の肉を使ってるわ」

 ヴィニエーラはプルートーと同じように手をサッと動かして馬の様な生き物の画像を出してきた。
 
 「ホースミート馬肉なの?しかも六本足って……ジューシーなのに“ビーフ”牛肉ほどくどくないし、見た感じハーブ入ってないのにハーブ感半端無いよ」

 「“ポッキー”は薬草しか食べない草食動物だからね。挽肉にするとハーブの香りは飛んでしまうからほぼ“ビーフハンバーグ”と変わらなくなるんだけど、一口だけで違いが分かるってあなた相当味覚と嗅覚が優れてるのね。因みに“ポッキー”の血液は美容の薬として重宝されているし、骨は装飾品の原料として高値で取引されているわ。因みに革も宇宙服の原料になって、正に”生ける資源”。捨てるところが無いのよ」

 “ポッキー”すげぇ……サアヤはそこかしこを動き回る六本足の馬の画像を面白そうに眺めていた。
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