冥土の土産に一杯どうだい?

谷内 朋

文字の大きさ
28 / 39
第三話

【デスタウン】のお巡りさん -4-

しおりを挟む
 その頃修行魂が暮らしている居住エリアではちょっとした異変が起きていた。様々な惑星で肉体から離れたばかりの魂が多数迷い込むという事態になっており、その殆どがチラシを持って彷徨っていた。

 『住民の皆様、速やかに屋内避難をお願い致します!』

 “死神部隊”下層部職員による街頭アナウンスにより、外に出ている住民たちは仕事や用事を中断して近くの建物に緊急避難する。
 その中にはこの度新米修行魂となったサアヤもおり、相棒として“ポッキー”も一緒にこの街で暮らしている。この時彼女は飲食店を巡って他の惑星の料理を見聞し、市場に通って情報収集をしているところだった。ここは冥土の世界、通貨というものが存在しないので全ての事が無償で体験できるのだ。
 ……話を元に戻して、サアヤを始めとした街の修行魂たちの緊急避難が完了した頃、何処からともなくチラシを持った迷い人がうようよと街中を埋め尽くした。

 「な、何だアレ……?」

 「サアヤは初めてだよね?この状況を体験するの」

 サアヤの傍らにはかつて通信経由で串刺団子を差し入れていた原型犬人類のポロスが立っていた。彼はサアヤよりもかなり小柄で、仕事の時は四足歩行で活動するので姿形はほぼ“犬”だ。

 「はい、これって何なんですか?」

 世話好きのポロスは仕事と称して新米のサアヤにあれこれ手助けをしていたので、サアヤも分からない事があればポロスに頼っている状態だった。

 「これは然るべき経路で【関所】に行けなかった魂がここに迷い込んできたんだ、殆どは“死神部隊”で処理するんだけど、たまに突発的な戦争とかテロといった大量殺戮によってあぶれてしまう魂があってね」
 
 「【関所】って?」

 「【境界線】みたいな所の事だよ。他にも似たような所は沢山あって、普段は“死神部隊”が正しく魂をそこに送り届けるんだ……ちょっと待ってて」

 ポロスは顔の前でサッと右手を動かして通信を始める。

 『やぁポロス、そっちは今大変そうだね』

 「うん、“迷い魂”がうようよしてるよ」

 ポロスは浮遊した画面に写っている見た事の無い相手と話していた。

 「何処かの惑星で何かあったのか?」

 『まぁそんなところだな、“シャウラ”系の“レリヒー星”で大量自殺があったんだ』

 「“また”あそこか、信仰するのは自由だけどいい加減ああいうのは止めてほしいよ」

 『こっちもある程度は何とかできても、あの星万単位でそれするだろ?さすがに手が回らなくて』

 「一度支配神様にご降臨願った方が良いんじゃないか?定期的にそれされるとこっちの生活にも支障をきたすよ」

 『今その方向で話が進んでるよ、最近間隔が詰まりすぎだからね。ウチの部下たちもさすがに怒ってる』

 通信相手の男性はそう言って肩をすくめている。ローブで顔が隠れているため表情までは分からないがどうやら呆れているようだ。

 『こうなった時【ガーフ】の連中が動き出すからね、そろそろ上層部に動いて頂かないと……今頃行きつけのカフェで遊んでんじゃないかな?』

 「多分ね、さっき上機嫌のディオスとムエルテを見掛けたから」

 『はぁ……あンの鳩ども最近暇だったとは言え、遊んでばっかで全ッ然仕事しないから一遍食われればいいんだ、ヴィニエーラさんに捌いて頂こうかな?』

 「おいおい、勤続二万五千年のレジェンドにそれは無いだろう。あの双子が抜けたら結構な痛手だぞ」

 そうなんだよなぁ……男性はがっくりと肩を落として項垂れていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...