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初恋は箪笥の肥やし
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すっかり平穏となった周囲は、これまでの喧騒もまるで無かったかのように淡々と時を刻む。詐欺罪で逮捕された萩君は当然のように退学処分と内定取り消しを食らったそうで、実家となる長洲物流も破産宣告を出して倒産秒読み状態であるらしい。
それもあって一時期『長洲物流を救ってくれ』と養子縁組の話が出たが、正直冗談じゃないってことでお断りした。萩君は保釈されて刑務所行きにはなっておらず、一度【兄として慕ってほしい】というこれまた厚かましい手紙を寄越してきて即刻棄ててやった。
そう思えば私の初恋って一体何だったんだろう? あっても無いような“ナイショ”の恋だったから打ち消してしまえば何も残らない。ただあの時の純粋な気持ちまで抹殺してしまうのかと思うとちょっとだけ胸が痛い。お金狙いだったんだろうけど、彼の優しさは私にとって救いだった。
何もくれなかった訳じゃない……私は彼から貰ったプレゼントを机の上に並べてみる。耳に穴を開けるきっかけとなったピアス、髪を伸ばすきっかけとなったバレッタ、お洒落に気を遣うきっかけとなったワンピース……お金で買えるものではあるけど、彼を愛する気持ちを持てたお陰で自分をもっと磨きたいと思えるようになった。
モノだけじゃない、恋は心を豊かにしてくれる。つまらなかった日々の生活が一気に色鮮やかになって、生きていることが楽しくなる。ほんのささやかな幸せがこんなにも心と体を温めてくれるなんて、彼と出逢って愛し合うまで全然知らない感覚だった。いくらあっても無いようなものでも私の中には確実に存在していた“ナイショ”の恋、ボロ雑巾のようにポイッと簡単に捨てるのは今の時点でまだ無理だと思う。
ここにあるピアスも、バレッタも、ワンピースももう使うことは無いだろう。取り敢えず視界に入れないでおこうと買った時に残していた箱に詰め直して、クローゼットの奥の奥に仕舞い込んだ。もうあの時のまま時を止めておくつもりは無い。私は約一年振りに美容室へ行き、伸ばしていた分の髪を全て切り落とした。
それから程なくリョウはここを出て行った、大きい荷物は全て置いたまま。奴は『捨ててくれて構いません』と叔母に言い残していたが、きっと戻ってくる気でいるのだろうとそのままにして時々掃除に入っている。リョウを送り出した後千葉さんとさくらも自宅へ戻っていった。
「ちょっと静かになったね」
叔母は寂しそうに言った。私はこれまでが煩すぎだったと思うのだが、慣れとは恐ろしいものでいなくなった三人の残像を懐かしく思う。
代わりに神戸さんの荷物はどんどん増えていき、叔母との生活を完全に満喫している。最近は喫茶店の厨房に入り、その傍らでギターを爪弾いて歌を歌っている。
「彼、ボーカリストじゃないけど何気に歌上手いよね」
変わらず居座る長野さんはもうじき北の大地に数カ月滞在することになっている。何でも冬のイベントの企画運営を任されたそうで、最近は部屋にこもってプランを練り上げる日々のようだ。
「お前もどっか行けよ」
神戸さんは叔母と二人きりになりたいからと私を追い出そうとする。
「そっちが出てけばいいじゃないですか」
別邸だって持ってるくせに。この人地位と財という点では結構な上流階級なのに案外庶民的なんだよな、家事全般一人でこなせるレベルだし。
「半年前とは随分態度が違うじゃねぇか」
「あんたに留守は任せらんないわ」
二人は私を邪険に扱ってくるが、それでも家に帰れば誰かがいるというのは何ものにも変えがたい“ささやかな幸せ”の一つなのかも知れない。
それもあって一時期『長洲物流を救ってくれ』と養子縁組の話が出たが、正直冗談じゃないってことでお断りした。萩君は保釈されて刑務所行きにはなっておらず、一度【兄として慕ってほしい】というこれまた厚かましい手紙を寄越してきて即刻棄ててやった。
そう思えば私の初恋って一体何だったんだろう? あっても無いような“ナイショ”の恋だったから打ち消してしまえば何も残らない。ただあの時の純粋な気持ちまで抹殺してしまうのかと思うとちょっとだけ胸が痛い。お金狙いだったんだろうけど、彼の優しさは私にとって救いだった。
何もくれなかった訳じゃない……私は彼から貰ったプレゼントを机の上に並べてみる。耳に穴を開けるきっかけとなったピアス、髪を伸ばすきっかけとなったバレッタ、お洒落に気を遣うきっかけとなったワンピース……お金で買えるものではあるけど、彼を愛する気持ちを持てたお陰で自分をもっと磨きたいと思えるようになった。
モノだけじゃない、恋は心を豊かにしてくれる。つまらなかった日々の生活が一気に色鮮やかになって、生きていることが楽しくなる。ほんのささやかな幸せがこんなにも心と体を温めてくれるなんて、彼と出逢って愛し合うまで全然知らない感覚だった。いくらあっても無いようなものでも私の中には確実に存在していた“ナイショ”の恋、ボロ雑巾のようにポイッと簡単に捨てるのは今の時点でまだ無理だと思う。
ここにあるピアスも、バレッタも、ワンピースももう使うことは無いだろう。取り敢えず視界に入れないでおこうと買った時に残していた箱に詰め直して、クローゼットの奥の奥に仕舞い込んだ。もうあの時のまま時を止めておくつもりは無い。私は約一年振りに美容室へ行き、伸ばしていた分の髪を全て切り落とした。
それから程なくリョウはここを出て行った、大きい荷物は全て置いたまま。奴は『捨ててくれて構いません』と叔母に言い残していたが、きっと戻ってくる気でいるのだろうとそのままにして時々掃除に入っている。リョウを送り出した後千葉さんとさくらも自宅へ戻っていった。
「ちょっと静かになったね」
叔母は寂しそうに言った。私はこれまでが煩すぎだったと思うのだが、慣れとは恐ろしいものでいなくなった三人の残像を懐かしく思う。
代わりに神戸さんの荷物はどんどん増えていき、叔母との生活を完全に満喫している。最近は喫茶店の厨房に入り、その傍らでギターを爪弾いて歌を歌っている。
「彼、ボーカリストじゃないけど何気に歌上手いよね」
変わらず居座る長野さんはもうじき北の大地に数カ月滞在することになっている。何でも冬のイベントの企画運営を任されたそうで、最近は部屋にこもってプランを練り上げる日々のようだ。
「お前もどっか行けよ」
神戸さんは叔母と二人きりになりたいからと私を追い出そうとする。
「そっちが出てけばいいじゃないですか」
別邸だって持ってるくせに。この人地位と財という点では結構な上流階級なのに案外庶民的なんだよな、家事全般一人でこなせるレベルだし。
「半年前とは随分態度が違うじゃねぇか」
「あんたに留守は任せらんないわ」
二人は私を邪険に扱ってくるが、それでも家に帰れば誰かがいるというのは何ものにも変えがたい“ささやかな幸せ”の一つなのかも知れない。
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