コーヒーゼリー

谷内 朋

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告白編

ー7ー

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 週末、波那は運動が出来ない代わりに一人で散歩に出掛け、休憩で立ち寄った公園のベンチに腰掛けて本を読み始める。
 「こんにちは」
 突然知らない声に話し掛けられた波那は、困惑しながらも、こんにちは。と挨拶を返す。しかし思い出すのに時間を要しただけで、先日ママ友の子供に手当てをしてくれた美青年と分かったのでホッとした笑顔を見せた。
 「あっ、あの時の……」
 「うん。僕毛利翼モウリツバサって言います、隣良いですか?」
 美青年こと毛利翼は綺麗な顔でにこやかな表情を見せ、波那は少し端に寄って場所を空けて、どうぞ。と勧めた。
 「ありがとう、今日は一人なの?」
 毛利は静かに波那の隣に腰掛けた。
 「えぇ、子供の面倒を看るのはごくたまになんです」
 波那は彼が畠中の知り合いであるためか少しばかり緊張していた。しかし実際に話をしてみるととても人懐こい男性で、気付けば二人はすっかり仲良くなっていた。

 それから何日かが経った仕事帰りに偶然電車の中で毛利と鉢合わせた波那は、途中下車して彼の行きつけだと言うゲイの社交場に誘われた。誘われるままその店に入ってしばらくすると、毛利のケータイが鳴って部屋から出て行ってしまう。波那はそのまま待っていたのだが、入れ替わる様に知らない男三人が入ってきていきなり押し倒されてしまった。……までははっきり覚えているのだが、次に意識を取り戻した時は既に病院のベッドの上だった。
 「……」
 波那が目を覚ますと、早苗と麗未が心配そうに見つめている。どうやら思わぬ事態を招いてしまった様で、見舞ってくれている二人に申し訳無い気持ちで一杯になって、ごめんなさい……。とかすれた声で謝った。
 「どうして謝るの?無事で何よりじゃない」
 母と姉は波那を安心させるかの様にそっと手を握ってくれる。
 「気分はどう?苦しくない?」
 「……大丈夫。それより毛利君は?」
 「彼ならさっき帰ったわ、応急処置がとても良かったそうよ」
 「そっか……。後でちゃんとお礼、言わないと……」
 彼に迷惑掛けちゃったんだ……。事の経緯を覚えていないただただ毛利に感謝していた。
 「そうだね、ただあの子ずっと謝ってたよ?」
 麗未の言葉に波那も、どうしてだろう?と考えていたのだが、今はとにかく休みなさい。と早苗にたしなめられた彼は、そのまま朝までぐっすりと眠ったのだった。

 翌朝目を覚ますと早苗も麗未も病室残ってくれていた。昨夜は気付かなかったのだが、普段からお世話になっているおじいちゃん医師が回診に来てくれた事でようやく通い慣れている病院であることに気付く。
 「おはよう波那ちゃん、気分はどう?」
 先生はいつも通り優しく話し掛けてくれる。
 「おはようございます……」
 波那は体を起こそうとしたのだが、まだ動かない方が良いよ。と止められる。先生は母と姉とも挨拶を交わし、再度波那の顔を見た。
 「波那ちゃん、発作を起こした以上検査入院をしてもらうよ、今日から三日間ね。でも最長記録じゃない、七年発作起こしてなかったんだよ」
 「そうですか、随分と久し振りな事で私の方が慌ててしまいました」
 「それだけ開けば無理も無いよ、早苗ちゃん。それだけ波那ちゃんが病気と上手く付き合える様になってきている証拠だから。これも一つの成長ですよ」
 先生はそう言って別の回診もあるために病室をあとにした。それに付いていた看護師の一人がそのまま残り、早苗に入院の手続きの書類を手渡した。彼女はすっかり慣れた様子でそれを書き上げると、着替えを持ってくる。と麗未と共に一旦自宅に戻っていった。

 精密検査する翌日の午前中に行われた。結果は特に異常は見られなかったのだが、大事を取ってしばらくは療養が必要と診断された。
 退院した直後、小田原が見舞いのため自宅を訪ねに来てくれたので、病院から出されていた診断書を託し、小田原経由で会社に提出されたのだった。

 早速それを聞き付けた沼口と沙耶果のカップルが波那を見舞いにやって来ている。
 「まさか発作起こすような病気だと思ってなかったからさぁ」
 「ごめんね、迷惑掛けちゃって……」
 「んなの気にしなくて良いよ、とにかく今はゆっくり休めって」
 「そうよ、無理するとかえって長引いちゃうから」
 ありがとう。波那は病状を気遣ってくれる二人に笑顔を見せる。二人はあまり疲れさせない様にと長居せずに少しして帰っていった。
 それから少しして、小田原が二十歳の長女アヤを連れて小泉家を訪ねに来る。
 「顔色は思ったほど悪くないみたいだね、三人息子を連れるとどうしても騒がしくなるから今日はお留守番」
 「それで言伝て預かってるの」
 彼女は大きめのバッグの中から大きめの封筒を手渡してきた。
 「開けていい?」
 「うん、是非見てやって」
 波那は早速封筒を開けると、大きめの御守りが入っている。着物の端切れを使っていて、中央に『健康祈願』と刺繍文字も施されているなかなかの力作である。恐らく家事仕事の得意な長男マコトの手作りであろう。
 「凄いね、上手に出来てる」
 「『その御守りは中を見た方がご利益がある』らしいよ」
 その言葉に従って中を取り出すと、紙粘土で作られた勾玉と幼児の文字で書かれた短いメッセージが入っていた。
 「三人に『ありがとう』って伝えてくれる?回復したらお礼させて欲しいなぁ」
 「そんなの良いよ、これまであの子たちの事良くしてくれてるんだから」
 小田原は三人息子の言伝てに感激している波那を見て笑う。
 「それならそれ持ってる写真撮らせてよ、帰ってあの子たちに見せるから」
 綾の言葉に波那は頷き、写真を撮ってから三人息子の話題に花を咲かせて以来想定以上の回復を見せるようになる。

 それから一週間ほど経ってから毛利が波那を見舞いに小泉家を訪ねに来る。先に病院へ行ったそうなのだが、既に退院した。と教えられてケータイで連絡を取った際、代わりに出た母が自宅の住所を教えたそうだ。
 「具合どう?波那ちゃん」
 「もう平気だよ、しばらく仕事は休まなきゃいけないけど。……ありがとう、あの時助けてくれたんだってね」
 波那はそう言って微笑んだが、毛利の表情は冴えず、自業自得だから。と言った。
 「元はと言えば僕のせいだからお礼なんて良いよ。あの男たちを引き入れたの僕だから……」
 え……?その言葉に絶句した波那は、毛利の綺麗な顔を見る。
 「僕嫉妬してたんだよ、波那ちゃんに。畠中が心変わりしたのを君のせいにしちゃったんだよね。今思えば単なる八つ当たりなんだけど、彼とは知り合ってそこそこ長いから行動とか癖である程度考えてる事が分かる、と言うか。
 それであいつらそそのかしてイタズラさせちゃったがばっかりにこんな事になって、正直パニックになりそうだったんだ」
 「それなら普通何も出来なくない?それか逃げちゃうと思うんだけど……」
 「多分職業病だよ、僕昔看護師だったから。ああ言った状況の免疫は変に付いてて逃げ出す方が勇気要るよ。身分証明するものを探すのに鞄漁って薬見た時はホント焦った、あんな事するんじゃなかった。って……」
 ゴメンね波那ちゃん。申し訳なさそうに謝ってくる毛利を波那はじっと見つめていた。あの男たちが彼の差し金だったのはショックだったが、今こうして無事でいられる事を考えると感謝の気持ちの方が勝っていた。
 「ちょっとショックなのはあるけど、それでも翼君が居なかったら助からなかった可能性もあったから……。ありがとう、感謝してる」
 「あんなの体が勝手に動いたようなもんだから。悪い事したと思ってる」
 毛利は笑顔を見せてくる波那の顔をまともに見る事が出来ず下を向いてしまう。少しして彼は帰っていったのだが、この事がきっかけで二人は本当の意味で親しい友人同士となったのだった。

 実はその頃、畠中も見舞いのつもりで小泉家の前までやって来ていた。手土産まで持参しているのにインターフォンが押せず、一人外で右往左往していた。そこへ仕事を終えて帰宅してきた麗未にその様子を見られてしまい、訪ね先を間違えた振りをしてその場から逃げ出してしまう。
 「何だあれ?」
 そこそこのイケメンの奇行に変な顔をしたが、今度見掛けたらシバけば良い。と深追いはせずに家の中に入った。
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