7 / 34
告白編
ー7ー
しおりを挟む
週末、波那は運動が出来ない代わりに一人で散歩に出掛け、休憩で立ち寄った公園のベンチに腰掛けて本を読み始める。
「こんにちは」
突然知らない声に話し掛けられた波那は、困惑しながらも、こんにちは。と挨拶を返す。しかし思い出すのに時間を要しただけで、先日ママ友の子供に手当てをしてくれた美青年と分かったのでホッとした笑顔を見せた。
「あっ、あの時の……」
「うん。僕毛利翼って言います、隣良いですか?」
美青年こと毛利翼は綺麗な顔でにこやかな表情を見せ、波那は少し端に寄って場所を空けて、どうぞ。と勧めた。
「ありがとう、今日は一人なの?」
毛利は静かに波那の隣に腰掛けた。
「えぇ、子供の面倒を看るのはごくたまになんです」
波那は彼が畠中の知り合いであるためか少しばかり緊張していた。しかし実際に話をしてみるととても人懐こい男性で、気付けば二人はすっかり仲良くなっていた。
それから何日かが経った仕事帰りに偶然電車の中で毛利と鉢合わせた波那は、途中下車して彼の行きつけだと言うゲイの社交場に誘われた。誘われるままその店に入ってしばらくすると、毛利のケータイが鳴って部屋から出て行ってしまう。波那はそのまま待っていたのだが、入れ替わる様に知らない男三人が入ってきていきなり押し倒されてしまった。……までははっきり覚えているのだが、次に意識を取り戻した時は既に病院のベッドの上だった。
「……」
波那が目を覚ますと、早苗と麗未が心配そうに見つめている。どうやら思わぬ事態を招いてしまった様で、見舞ってくれている二人に申し訳無い気持ちで一杯になって、ごめんなさい……。とかすれた声で謝った。
「どうして謝るの?無事で何よりじゃない」
母と姉は波那を安心させるかの様にそっと手を握ってくれる。
「気分はどう?苦しくない?」
「……大丈夫。それより毛利君は?」
「彼ならさっき帰ったわ、応急処置がとても良かったそうよ」
「そっか……。後でちゃんとお礼、言わないと……」
彼に迷惑掛けちゃったんだ……。事の経緯を覚えていないただただ毛利に感謝していた。
「そうだね、ただあの子ずっと謝ってたよ?」
麗未の言葉に波那も、どうしてだろう?と考えていたのだが、今はとにかく休みなさい。と早苗にたしなめられた彼は、そのまま朝までぐっすりと眠ったのだった。
翌朝目を覚ますと早苗も麗未も病室残ってくれていた。昨夜は気付かなかったのだが、普段からお世話になっているおじいちゃん医師が回診に来てくれた事でようやく通い慣れている病院であることに気付く。
「おはよう波那ちゃん、気分はどう?」
先生はいつも通り優しく話し掛けてくれる。
「おはようございます……」
波那は体を起こそうとしたのだが、まだ動かない方が良いよ。と止められる。先生は母と姉とも挨拶を交わし、再度波那の顔を見た。
「波那ちゃん、発作を起こした以上検査入院をしてもらうよ、今日から三日間ね。でも最長記録じゃない、七年発作起こしてなかったんだよ」
「そうですか、随分と久し振りな事で私の方が慌ててしまいました」
「それだけ開けば無理も無いよ、早苗ちゃん。それだけ波那ちゃんが病気と上手く付き合える様になってきている証拠だから。これも一つの成長ですよ」
先生はそう言って別の回診もあるために病室をあとにした。それに付いていた看護師の一人がそのまま残り、早苗に入院の手続きの書類を手渡した。彼女はすっかり慣れた様子でそれを書き上げると、着替えを持ってくる。と麗未と共に一旦自宅に戻っていった。
精密検査する翌日の午前中に行われた。結果は特に異常は見られなかったのだが、大事を取ってしばらくは療養が必要と診断された。
退院した直後、小田原が見舞いのため自宅を訪ねに来てくれたので、病院から出されていた診断書を託し、小田原経由で会社に提出されたのだった。
早速それを聞き付けた沼口と沙耶果のカップルが波那を見舞いにやって来ている。
「まさか発作起こすような病気だと思ってなかったからさぁ」
「ごめんね、迷惑掛けちゃって……」
「んなの気にしなくて良いよ、とにかく今はゆっくり休めって」
「そうよ、無理するとかえって長引いちゃうから」
ありがとう。波那は病状を気遣ってくれる二人に笑顔を見せる。二人はあまり疲れさせない様にと長居せずに少しして帰っていった。
それから少しして、小田原が二十歳の長女綾を連れて小泉家を訪ねに来る。
「顔色は思ったほど悪くないみたいだね、三人息子を連れるとどうしても騒がしくなるから今日はお留守番」
「それで言伝て預かってるの」
彼女は大きめのバッグの中から大きめの封筒を手渡してきた。
「開けていい?」
「うん、是非見てやって」
波那は早速封筒を開けると、大きめの御守りが入っている。着物の端切れを使っていて、中央に『健康祈願』と刺繍文字も施されているなかなかの力作である。恐らく家事仕事の得意な長男誠の手作りであろう。
「凄いね、上手に出来てる」
「『その御守りは中を見た方がご利益がある』らしいよ」
その言葉に従って中を取り出すと、紙粘土で作られた勾玉と幼児の文字で書かれた短いメッセージが入っていた。
「三人に『ありがとう』って伝えてくれる?回復したらお礼させて欲しいなぁ」
「そんなの良いよ、これまであの子たちの事良くしてくれてるんだから」
小田原は三人息子の言伝てに感激している波那を見て笑う。
「それならそれ持ってる写真撮らせてよ、帰ってあの子たちに見せるから」
綾の言葉に波那は頷き、写真を撮ってから三人息子の話題に花を咲かせて以来想定以上の回復を見せるようになる。
それから一週間ほど経ってから毛利が波那を見舞いに小泉家を訪ねに来る。先に病院へ行ったそうなのだが、既に退院した。と教えられてケータイで連絡を取った際、代わりに出た母が自宅の住所を教えたそうだ。
「具合どう?波那ちゃん」
「もう平気だよ、しばらく仕事は休まなきゃいけないけど。……ありがとう、あの時助けてくれたんだってね」
波那はそう言って微笑んだが、毛利の表情は冴えず、自業自得だから。と言った。
「元はと言えば僕のせいだからお礼なんて良いよ。あの男たちを引き入れたの僕だから……」
え……?その言葉に絶句した波那は、毛利の綺麗な顔を見る。
「僕嫉妬してたんだよ、波那ちゃんに。畠中が心変わりしたのを君のせいにしちゃったんだよね。今思えば単なる八つ当たりなんだけど、彼とは知り合ってそこそこ長いから行動とか癖である程度考えてる事が分かる、と言うか。
それであいつらそそのかしてイタズラさせちゃったがばっかりにこんな事になって、正直パニックになりそうだったんだ」
「それなら普通何も出来なくない?それか逃げちゃうと思うんだけど……」
「多分職業病だよ、僕昔看護師だったから。ああ言った状況の免疫は変に付いてて逃げ出す方が勇気要るよ。身分証明するものを探すのに鞄漁って薬見た時はホント焦った、あんな事するんじゃなかった。って……」
ゴメンね波那ちゃん。申し訳なさそうに謝ってくる毛利を波那はじっと見つめていた。あの男たちが彼の差し金だったのはショックだったが、今こうして無事でいられる事を考えると感謝の気持ちの方が勝っていた。
「ちょっとショックなのはあるけど、それでも翼君が居なかったら助からなかった可能性もあったから……。ありがとう、感謝してる」
「あんなの体が勝手に動いたようなもんだから。悪い事したと思ってる」
毛利は笑顔を見せてくる波那の顔をまともに見る事が出来ず下を向いてしまう。少しして彼は帰っていったのだが、この事がきっかけで二人は本当の意味で親しい友人同士となったのだった。
実はその頃、畠中も見舞いのつもりで小泉家の前までやって来ていた。手土産まで持参しているのにインターフォンが押せず、一人外で右往左往していた。そこへ仕事を終えて帰宅してきた麗未にその様子を見られてしまい、訪ね先を間違えた振りをしてその場から逃げ出してしまう。
「何だあれ?」
そこそこのイケメンの奇行に変な顔をしたが、今度見掛けたらシバけば良い。と深追いはせずに家の中に入った。
「こんにちは」
突然知らない声に話し掛けられた波那は、困惑しながらも、こんにちは。と挨拶を返す。しかし思い出すのに時間を要しただけで、先日ママ友の子供に手当てをしてくれた美青年と分かったのでホッとした笑顔を見せた。
「あっ、あの時の……」
「うん。僕毛利翼って言います、隣良いですか?」
美青年こと毛利翼は綺麗な顔でにこやかな表情を見せ、波那は少し端に寄って場所を空けて、どうぞ。と勧めた。
「ありがとう、今日は一人なの?」
毛利は静かに波那の隣に腰掛けた。
「えぇ、子供の面倒を看るのはごくたまになんです」
波那は彼が畠中の知り合いであるためか少しばかり緊張していた。しかし実際に話をしてみるととても人懐こい男性で、気付けば二人はすっかり仲良くなっていた。
それから何日かが経った仕事帰りに偶然電車の中で毛利と鉢合わせた波那は、途中下車して彼の行きつけだと言うゲイの社交場に誘われた。誘われるままその店に入ってしばらくすると、毛利のケータイが鳴って部屋から出て行ってしまう。波那はそのまま待っていたのだが、入れ替わる様に知らない男三人が入ってきていきなり押し倒されてしまった。……までははっきり覚えているのだが、次に意識を取り戻した時は既に病院のベッドの上だった。
「……」
波那が目を覚ますと、早苗と麗未が心配そうに見つめている。どうやら思わぬ事態を招いてしまった様で、見舞ってくれている二人に申し訳無い気持ちで一杯になって、ごめんなさい……。とかすれた声で謝った。
「どうして謝るの?無事で何よりじゃない」
母と姉は波那を安心させるかの様にそっと手を握ってくれる。
「気分はどう?苦しくない?」
「……大丈夫。それより毛利君は?」
「彼ならさっき帰ったわ、応急処置がとても良かったそうよ」
「そっか……。後でちゃんとお礼、言わないと……」
彼に迷惑掛けちゃったんだ……。事の経緯を覚えていないただただ毛利に感謝していた。
「そうだね、ただあの子ずっと謝ってたよ?」
麗未の言葉に波那も、どうしてだろう?と考えていたのだが、今はとにかく休みなさい。と早苗にたしなめられた彼は、そのまま朝までぐっすりと眠ったのだった。
翌朝目を覚ますと早苗も麗未も病室残ってくれていた。昨夜は気付かなかったのだが、普段からお世話になっているおじいちゃん医師が回診に来てくれた事でようやく通い慣れている病院であることに気付く。
「おはよう波那ちゃん、気分はどう?」
先生はいつも通り優しく話し掛けてくれる。
「おはようございます……」
波那は体を起こそうとしたのだが、まだ動かない方が良いよ。と止められる。先生は母と姉とも挨拶を交わし、再度波那の顔を見た。
「波那ちゃん、発作を起こした以上検査入院をしてもらうよ、今日から三日間ね。でも最長記録じゃない、七年発作起こしてなかったんだよ」
「そうですか、随分と久し振りな事で私の方が慌ててしまいました」
「それだけ開けば無理も無いよ、早苗ちゃん。それだけ波那ちゃんが病気と上手く付き合える様になってきている証拠だから。これも一つの成長ですよ」
先生はそう言って別の回診もあるために病室をあとにした。それに付いていた看護師の一人がそのまま残り、早苗に入院の手続きの書類を手渡した。彼女はすっかり慣れた様子でそれを書き上げると、着替えを持ってくる。と麗未と共に一旦自宅に戻っていった。
精密検査する翌日の午前中に行われた。結果は特に異常は見られなかったのだが、大事を取ってしばらくは療養が必要と診断された。
退院した直後、小田原が見舞いのため自宅を訪ねに来てくれたので、病院から出されていた診断書を託し、小田原経由で会社に提出されたのだった。
早速それを聞き付けた沼口と沙耶果のカップルが波那を見舞いにやって来ている。
「まさか発作起こすような病気だと思ってなかったからさぁ」
「ごめんね、迷惑掛けちゃって……」
「んなの気にしなくて良いよ、とにかく今はゆっくり休めって」
「そうよ、無理するとかえって長引いちゃうから」
ありがとう。波那は病状を気遣ってくれる二人に笑顔を見せる。二人はあまり疲れさせない様にと長居せずに少しして帰っていった。
それから少しして、小田原が二十歳の長女綾を連れて小泉家を訪ねに来る。
「顔色は思ったほど悪くないみたいだね、三人息子を連れるとどうしても騒がしくなるから今日はお留守番」
「それで言伝て預かってるの」
彼女は大きめのバッグの中から大きめの封筒を手渡してきた。
「開けていい?」
「うん、是非見てやって」
波那は早速封筒を開けると、大きめの御守りが入っている。着物の端切れを使っていて、中央に『健康祈願』と刺繍文字も施されているなかなかの力作である。恐らく家事仕事の得意な長男誠の手作りであろう。
「凄いね、上手に出来てる」
「『その御守りは中を見た方がご利益がある』らしいよ」
その言葉に従って中を取り出すと、紙粘土で作られた勾玉と幼児の文字で書かれた短いメッセージが入っていた。
「三人に『ありがとう』って伝えてくれる?回復したらお礼させて欲しいなぁ」
「そんなの良いよ、これまであの子たちの事良くしてくれてるんだから」
小田原は三人息子の言伝てに感激している波那を見て笑う。
「それならそれ持ってる写真撮らせてよ、帰ってあの子たちに見せるから」
綾の言葉に波那は頷き、写真を撮ってから三人息子の話題に花を咲かせて以来想定以上の回復を見せるようになる。
それから一週間ほど経ってから毛利が波那を見舞いに小泉家を訪ねに来る。先に病院へ行ったそうなのだが、既に退院した。と教えられてケータイで連絡を取った際、代わりに出た母が自宅の住所を教えたそうだ。
「具合どう?波那ちゃん」
「もう平気だよ、しばらく仕事は休まなきゃいけないけど。……ありがとう、あの時助けてくれたんだってね」
波那はそう言って微笑んだが、毛利の表情は冴えず、自業自得だから。と言った。
「元はと言えば僕のせいだからお礼なんて良いよ。あの男たちを引き入れたの僕だから……」
え……?その言葉に絶句した波那は、毛利の綺麗な顔を見る。
「僕嫉妬してたんだよ、波那ちゃんに。畠中が心変わりしたのを君のせいにしちゃったんだよね。今思えば単なる八つ当たりなんだけど、彼とは知り合ってそこそこ長いから行動とか癖である程度考えてる事が分かる、と言うか。
それであいつらそそのかしてイタズラさせちゃったがばっかりにこんな事になって、正直パニックになりそうだったんだ」
「それなら普通何も出来なくない?それか逃げちゃうと思うんだけど……」
「多分職業病だよ、僕昔看護師だったから。ああ言った状況の免疫は変に付いてて逃げ出す方が勇気要るよ。身分証明するものを探すのに鞄漁って薬見た時はホント焦った、あんな事するんじゃなかった。って……」
ゴメンね波那ちゃん。申し訳なさそうに謝ってくる毛利を波那はじっと見つめていた。あの男たちが彼の差し金だったのはショックだったが、今こうして無事でいられる事を考えると感謝の気持ちの方が勝っていた。
「ちょっとショックなのはあるけど、それでも翼君が居なかったら助からなかった可能性もあったから……。ありがとう、感謝してる」
「あんなの体が勝手に動いたようなもんだから。悪い事したと思ってる」
毛利は笑顔を見せてくる波那の顔をまともに見る事が出来ず下を向いてしまう。少しして彼は帰っていったのだが、この事がきっかけで二人は本当の意味で親しい友人同士となったのだった。
実はその頃、畠中も見舞いのつもりで小泉家の前までやって来ていた。手土産まで持参しているのにインターフォンが押せず、一人外で右往左往していた。そこへ仕事を終えて帰宅してきた麗未にその様子を見られてしまい、訪ね先を間違えた振りをしてその場から逃げ出してしまう。
「何だあれ?」
そこそこのイケメンの奇行に変な顔をしたが、今度見掛けたらシバけば良い。と深追いはせずに家の中に入った。
0
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
あなたの隣で初めての恋を知る
彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜
紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。
ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。
そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる