星に名前を

谷内 朋

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 出張からひと月前後の時が流れ、夏休みシーズン直前でにわかに忙しくなっていた。そんな中ここ天文館宛にある配送物が届けられる。差出人は伊勢奈那子、中身は企画していた内容を掲載している新刊の原本であった。

「遂に完成したんですね」

 その場にいた全員がそれを取り囲み、緊張した面持ちで内容を確認する。初めて担当した女性編集者、天体に関しては素人レベルだった伊勢に対してそこまでの期待をしていなかった面々は誌面に釘付けになっていた。

「どうかなさったんですか?」

 別用で席を外していた青葉が事務所に戻ってきた。

「例の新刊の原本が届いたんです」
 
 企画から携わっていた小田が嬉しそうに本を掲げ、青葉にも薦めている。彼はそれを受け取り、真剣な表情で記事をじっくりと読み始める。このメンバー内で最も仕事にシビアな彼の反応は皆が気になるところで、囲み対象が原本から青葉に変わっていた。

「期待以上の出来ですね。素人視点を強みにしていて、子供たちにも理解しやすい仕上がりになっています」

 青葉の感想に周囲から感嘆の声が漏れる。まだ発売前にも関わらず、早くもベストセラー気分で色めき立っている空気を尻目に青葉はただ、と表情を曇らせた。

「あの方なら直接持ち込んで来そうなんですが」

「そうですかね? 交通費より配送料の方が安くつくじゃないですか」

「単純に忙しいんじゃないんですか?」

 と他の職員たちはさして気にも留めていない様子だ。青葉が気になったのは、肝心要の主役とも言える松井本人がいち早く仲間の輪から離れたことだった。
 ‎あの二人の間に何かあったのか? 先月の出張の際も、さほど言葉を交わしていなかったが妙な親密さがあったように見受けられる。付き合いの長さからか今の態度が不自然に感じられ、郵送策を取った伊勢の行動で自身の直感に自信を膨らませていた。
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