黒猫ダナのさがしもの −想いでのかけら−

小牧タミ

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休業日

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とある小さな町に黒猫のお眼鏡にかなった者だけが訪れることのできるーー不思議な店がある。

 
店の名は『喫茶 黒猫』ーー本日 休業日













「では、ダナ様。私は一日店を空けますが……留守番お願いしますね」
『おお、ゆっくり羽根を伸ばして来い!』

まるで会社の上司かのような口ぶりで、黒猫は艷やかな尻尾を振ってアリスを送り出す。

「本当に大丈夫ですか?留守番できます?」
『バカにするな、俺を誰だと思っている!』

ーーただの黒猫ですが。

主の誇り高きプライドはいくら永い時間(とき)が経とうと、光の神々が座する山々より高い。

「なるべく早く帰って来ますから」
『俺のことなら心配するな』

ーーあなただから心配なんです!

黒猫の気まぐれで稀に休業日が発生する。
アリスもその日だけは自分の好きなように過ごせた。
前の休業日は……百年前くらいだったかな?と、おぼろげに前回の休業日はどんな風に過ごしたか……を思い返そうとしたが思い出せなかった。たぶん適当に過ごしていたのだろう……。
たった百年前のことが思い出せないなんて、自分も耄碌した……とアリスは少し寂しい気持ちになった。

「じゃあ、行ってきますよ、ちゃんと“お留守番”しといてくださいね!」
『わかった、わかったから、早く行け!』

チリンとドアベルが鳴り黒猫は少しだけ首を扉の方に向けアリスがいないことを確認する。

『やっと行ったか……』

言葉とは裏腹に黒猫の声色がどことなく寂しげである。
たった一日、留守番ぐらい自分にも出来る。薄暗い店内のカウンターの上、黒猫は扉側に頭を向けて躰を丸くした。
アリスがいないだけでやたらと店内が広い……。
そして、とても静かだ……物悲しいほどに。


“たった一日のことだ”



ーー……チリン

ドアベルが鳴った……。

『まだ十分と経ってないぞ』

黒猫は素っ気なく呟いた。

「よく考えると……やりたいことがないですね」
『百年前も同じことを言っていたな』
「そう……でしたか?」
『ああ』

素っ気なくはあるが黒猫の声はどこか嬉々としていた。

「今日はのんびり過ごしましょうか」
『そうだな』

アリスはスツールに座ると黒猫の丸まった躰をそっと撫でる。互いに何を言うわけでもない。ただ優しい沈黙が二人を包み込む。ピリピリと重苦しい日常がこの時だけは和らぎ心を癒してくれる。そして互いの存在の有難さを痛感するのだ。

誰よりも主の幸福(しあわせ)を願い、幸せになって欲しいと思っているーーそんな日が永遠に来なくても。


*休業日* 主の気まぐれで発生する日。なぜかこの日だけはお触り(撫でる)OK。

主と触れ合うことができるこの日、この一瞬がアリスにとって特別かつ至福のとき。
そういえば百年前もこんな風に躰を撫でてたな……と思い出す。百年経っても何も変わってないことが、なんだかおかしくて、なんだか愛おしい……。


次の休業日はいつになるのかーーそれは黒猫の気分次第。
 


気まぐれに尻尾を揺らしながら……今日も街に現れる。 

次の“客”を物色するためにーー
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