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~かりそめ夫婦も喧嘩する(二)~
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女は恐ろしく賎しい生き物だ……と京介は思っている。
そんな京介がある事情から“契約結婚”をした(もちろん秘密裏に)。その相手は悠木理名(今は森園理名)という職場の元部下で、どこにでもいるごく普通の女性だった。
職場では上司と部下ということで関わりはあったが、プライベートな話しはしたことがなく、(契約)結婚の相手として考えたこともなかった。
だが偶然お互いの“状況”を知ることとなり、利害が一致したこともあって“契約”結婚をすることになった。
“契約結婚”をしてもらうのだから、それ相応の対価を払うべきと京介は考え、高級マンション、高価な結婚指輪、不自由ない生活を用意して彼女を迎えた……はずが、何が気に入らないのか数百万はする指輪は返され、不自由ない生活のはずが働きたいと言ってくる。せっかく用意したマンションも広すぎると言われ……しまいに部屋に閉じ籠もって出てこなくなった。
しかも『契約結婚は反故にする』とまで言われてしまう始末だ。
そもそも女に対して並々ならぬ嫌悪感を持っている京介は部下として理名を評価していても、女として見たことはなかった。これまで金や贅沢を好み自分に群がってきた女たちとそう変わらないと思っていた。
だから生活費にとカードを渡し理名がどう使うか様子を見ることにした。
もし理名がこれまでの女たちと同じような人間なら、カードを生活費にではなく、自分の欲しい物に使うはずだと……。
しかし実際に使用したのは食料品を購入するときの数回だけ。しかも一ヶ月で一万と少し……。
京介は悠木理名という女性が贅沢や無駄使いをしない(二人で五万円の指輪も高いという)質素倹約で働き者の女性だと改めて知ったのだ。
だからこそ戸惑いも多く、今までのやり方(金や物でいうことをきかせる)では通用しないと気づいた。
心のどこかで面倒くさいと思いつつ、後には引けない京介は素朴でフツーの理名の接し方に頭を悩ませることになった。
「……理名さん」
「……ですか」
素っ気ない声が扉越しに聞こえてくる。
「理名さん……そのまま聞いてほしい。俺は君を縛り付けたいわけじゃないんだ。ただ働きに出るということは出会いがあって……もしかすると本当に好きな人が出来るかもしれない。そうなったら辛い思いをするのは君だと……いや、正直に言いうと本当は恐いんだ。形だけの夫婦であっても、裏切られるのが……情けないけど……」
「……」
「君のいう通り妻としての役目をきちんとやってくれさえいれば、 外で何をしようが君の自由だ」
京介は初めてほんの少し心の内を明かした。
女性に対しての嫌悪感や不信感は早々拭えるものではないが、多少なりとも信頼して契約結婚した相手にまで裏切られたら、それこそ立ち直れない。
だからこそ、その可能性があるリスクは避けたかったのだ。自分のエゴだとわかっていても……。
それに高級マンションに贅沢な暮らし、ダイヤの指輪を与えていれば大抵の女は満足するだろうと本気で思っていたのもある。
今回、理名がそういった類いの女性ではなかった為に少しややこしいことになってしまった。
京介が部屋の前を離れようとしたとき、ガチャと扉が開いた。
「理名さん……」
ちょっと拗ねたような……でも反省しましたよ!的な顔で理名が部屋から出てきた。
「あの……私も言い過ぎました。ごめんなさい……」
「いや、俺の方こそすまない。頭ごなしに反対して……理名さんを信用してるから!」
「最初はアレでしたけど……今はちゃんと覚悟を決めて、結婚生活してますから!」
「そうだね、君はそうゆう人間(ひと)だ」
そういった京介の顔が微かに微笑んでいた 。
笑うところを見たことがない!と社内でも有名だっただけに、理名は自分だけ秘密を手にした気分になった。
「……どうした?」
「あ、いえ……京介さんも笑うんだ……と思って」
「……俺のことロボットか何かと思ってるのか?」
「いえいえ、ははっ……コーヒー淹れましょうか!」
なんだかんだと、初めての夫婦喧嘩は二人の距離を少しだけ縮めるものになった。
“かりそめ”だからこそ何かと面倒なリスクがあり、割り切らないといけない部分も出てくる……だろう。
とりあえず今は珈琲を飲みながら、ほっとひと息つくことができた二人だったーー
そんな京介がある事情から“契約結婚”をした(もちろん秘密裏に)。その相手は悠木理名(今は森園理名)という職場の元部下で、どこにでもいるごく普通の女性だった。
職場では上司と部下ということで関わりはあったが、プライベートな話しはしたことがなく、(契約)結婚の相手として考えたこともなかった。
だが偶然お互いの“状況”を知ることとなり、利害が一致したこともあって“契約”結婚をすることになった。
“契約結婚”をしてもらうのだから、それ相応の対価を払うべきと京介は考え、高級マンション、高価な結婚指輪、不自由ない生活を用意して彼女を迎えた……はずが、何が気に入らないのか数百万はする指輪は返され、不自由ない生活のはずが働きたいと言ってくる。せっかく用意したマンションも広すぎると言われ……しまいに部屋に閉じ籠もって出てこなくなった。
しかも『契約結婚は反故にする』とまで言われてしまう始末だ。
そもそも女に対して並々ならぬ嫌悪感を持っている京介は部下として理名を評価していても、女として見たことはなかった。これまで金や贅沢を好み自分に群がってきた女たちとそう変わらないと思っていた。
だから生活費にとカードを渡し理名がどう使うか様子を見ることにした。
もし理名がこれまでの女たちと同じような人間なら、カードを生活費にではなく、自分の欲しい物に使うはずだと……。
しかし実際に使用したのは食料品を購入するときの数回だけ。しかも一ヶ月で一万と少し……。
京介は悠木理名という女性が贅沢や無駄使いをしない(二人で五万円の指輪も高いという)質素倹約で働き者の女性だと改めて知ったのだ。
だからこそ戸惑いも多く、今までのやり方(金や物でいうことをきかせる)では通用しないと気づいた。
心のどこかで面倒くさいと思いつつ、後には引けない京介は素朴でフツーの理名の接し方に頭を悩ませることになった。
「……理名さん」
「……ですか」
素っ気ない声が扉越しに聞こえてくる。
「理名さん……そのまま聞いてほしい。俺は君を縛り付けたいわけじゃないんだ。ただ働きに出るということは出会いがあって……もしかすると本当に好きな人が出来るかもしれない。そうなったら辛い思いをするのは君だと……いや、正直に言いうと本当は恐いんだ。形だけの夫婦であっても、裏切られるのが……情けないけど……」
「……」
「君のいう通り妻としての役目をきちんとやってくれさえいれば、 外で何をしようが君の自由だ」
京介は初めてほんの少し心の内を明かした。
女性に対しての嫌悪感や不信感は早々拭えるものではないが、多少なりとも信頼して契約結婚した相手にまで裏切られたら、それこそ立ち直れない。
だからこそ、その可能性があるリスクは避けたかったのだ。自分のエゴだとわかっていても……。
それに高級マンションに贅沢な暮らし、ダイヤの指輪を与えていれば大抵の女は満足するだろうと本気で思っていたのもある。
今回、理名がそういった類いの女性ではなかった為に少しややこしいことになってしまった。
京介が部屋の前を離れようとしたとき、ガチャと扉が開いた。
「理名さん……」
ちょっと拗ねたような……でも反省しましたよ!的な顔で理名が部屋から出てきた。
「あの……私も言い過ぎました。ごめんなさい……」
「いや、俺の方こそすまない。頭ごなしに反対して……理名さんを信用してるから!」
「最初はアレでしたけど……今はちゃんと覚悟を決めて、結婚生活してますから!」
「そうだね、君はそうゆう人間(ひと)だ」
そういった京介の顔が微かに微笑んでいた 。
笑うところを見たことがない!と社内でも有名だっただけに、理名は自分だけ秘密を手にした気分になった。
「……どうした?」
「あ、いえ……京介さんも笑うんだ……と思って」
「……俺のことロボットか何かと思ってるのか?」
「いえいえ、ははっ……コーヒー淹れましょうか!」
なんだかんだと、初めての夫婦喧嘩は二人の距離を少しだけ縮めるものになった。
“かりそめ”だからこそ何かと面倒なリスクがあり、割り切らないといけない部分も出てくる……だろう。
とりあえず今は珈琲を飲みながら、ほっとひと息つくことができた二人だったーー
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