50 / 82
面影
50
しおりを挟む
「瞬くたびに移り変わるから……」
「え?」
葵が不思議そうな顔をする。
「先輩が前に言った言葉です。だから今の景色を写真に残すんだ、って」
それを聞いて、葵は目線を落として唇を結ぶ。
「今の俺がそうだな。記憶がなくて四年前のまま足踏みしてるけど、時間は確実に流れてる」
ひとり言のようにそう言うと、帰ろうか、と静かな声で言った。
二人並んで歩く道に、街灯の明かりが落ちている。
歩みを進めるにつれ深くなっていく闇に、その白い輝きが際立つ。
言葉を交わさないままいくつかの角を曲がり小道を抜け、広い道に出た時、その先に見える駅の方から暖かな光があふれているのに気が付いた。
帰路を急ぐ雑踏の中で輝くそれは、建ち並ぶ店の先に吊るされたオーナメントだった。
「そうか、もうすぐクリスマスか……」
「はい。そういえばもう来週ですね」
「クリスマス、会おうか。二人で」
歩みを止めて結々の方を見る。
軽く微笑む葵の姿が、結々の瞳の中で、背景の光に溶け込んで儚く揺れた。
「クリスマス、一緒に過ごそう。鈴本さんの行きたい所どこでも、今度は俺が付き合うよ」
「え?」
葵が不思議そうな顔をする。
「先輩が前に言った言葉です。だから今の景色を写真に残すんだ、って」
それを聞いて、葵は目線を落として唇を結ぶ。
「今の俺がそうだな。記憶がなくて四年前のまま足踏みしてるけど、時間は確実に流れてる」
ひとり言のようにそう言うと、帰ろうか、と静かな声で言った。
二人並んで歩く道に、街灯の明かりが落ちている。
歩みを進めるにつれ深くなっていく闇に、その白い輝きが際立つ。
言葉を交わさないままいくつかの角を曲がり小道を抜け、広い道に出た時、その先に見える駅の方から暖かな光があふれているのに気が付いた。
帰路を急ぐ雑踏の中で輝くそれは、建ち並ぶ店の先に吊るされたオーナメントだった。
「そうか、もうすぐクリスマスか……」
「はい。そういえばもう来週ですね」
「クリスマス、会おうか。二人で」
歩みを止めて結々の方を見る。
軽く微笑む葵の姿が、結々の瞳の中で、背景の光に溶け込んで儚く揺れた。
「クリスマス、一緒に過ごそう。鈴本さんの行きたい所どこでも、今度は俺が付き合うよ」
0
あなたにおすすめの小説
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
隣人はクールな同期でした。
氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。
30歳を前にして
未婚で恋人もいないけれど。
マンションの隣に住む同期の男と
酒を酌み交わす日々。
心許すアイツとは
”同期以上、恋人未満―――”
1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され
恋敵の幼馴染には刃を向けられる。
広報部所属
●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳)
編集部所属 副編集長
●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳)
本当に好きな人は…誰?
己の気持ちに向き合う最後の恋。
“ただの恋愛物語”ってだけじゃない
命と、人との
向き合うという事。
現実に、なさそうな
だけどちょっとあり得るかもしれない
複雑に絡み合う人間模様を描いた
等身大のラブストーリー。
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる