瞬くたびに

咲川 音

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クリスマス

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複雑に編み込んだ髪に、さっとヘアスプレーを吹きつける。

艶やかな色合いの口紅を薄く塗って新しい洋服を着れば、目の前の姿見にはいつもより着飾った自分が映っていた。

プラネタリウムへ行ってから一週間、結々はクリスマスへ向けて忙しい日々を送っていた。

差し当たって、心配をかけていたであろう絵美のもとへ行き、これまでの経緯を説明した。

葵の詳しい事情を話すわけにはいかないから、差し障りのないところを選び選び報告したのであるが、今まで気を使って聞くに聞けなかったという彼女はひとまず安心したようだ。

クリスマスのデートのことも喜んでくれ、今着ているこの洋服も絵美が見立ててくれたものだった。

普段着ているものよりも可愛らしいデザインに、いざ買うとなると迷いはしたものの、一緒に過ごそうと言ってくれた葵の言葉がためらう結々の背中を押した。


結々はスカートの端をつまんで広げると、おかしなところがないかもう一度入念に確認した。

水族館やプラネタリウムに行った時、そしてもちろん葵が記憶をなくす前だって、二人で出かけたことは何度かあった。

けれど今日は今までとは少し違う。

葵のあの言葉は過去を踏まえた上で今に目を向けてみようと言っているように聞こえて、結々には特別に感じるのだ。

時計に目をやると、約束の時間が近づいていた。

足元の鞄を手に取って、華やかな柄の紙袋を抱えると、結々は慌てて家をあとにした。
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