52 / 82
クリスマス
52
しおりを挟む
待ち合わせは、駅前の広場にある、巨大なクリスマスツリーの下だった。
街路樹に光るイルミネーションの間を抜けて、人の波に逆らって歩く。
はやる気持ちのまま足早に歩いては、髪型が崩れていないかと歩調を遅くして確かめる。
そうしてたどり着いたツリーの下は一際多くの人でにぎわっていて、降り注ぐ様々な色の光が木漏れ日のように足元に広がっていた。
息を整えてあたりを見回すが葵はまだ来ていない。
まわりに立つ人たちは皆、待ち合わせをしているのか電話をかけたり駅の改札がある方を向いたりと落ち着かない。
やがてやってきた恋人や友達と合流した彼らが一人、また一人とその場を離れてゆく中で、結々は一人、心細さを抱えながらその場に立ち尽くしていた。
腕時計を見ると、約束の時間を少し過ぎている。
手袋をした手をすりあわせて、寒さに肩をすぼめる結々の吐息は、空気に白く曇って消えていった。
と、遠くに一つの影が見えた。
薄暗さの中へ目を凝らすと、息を切らした葵がこちらへ駆け寄って来ている。
ツリーの光に照らされた葵の顔は見たこともないくらいに焦っていて、結々はその意外な表情に驚いた。
「ごめん、待たせちゃった?」
「ううん、私もさっき来たところなので」
慌てて首を振る結々に葵はほっと息をつく。
二人は並んで、駅前のアーケードの方へと歩きだした。
どこへ行きたい? と聞かれて、とっさに浮かんだのは駅前のおしゃれな店が建ち並ぶアーケードだった。
いつでも行けるであろうそんな近場へ、わざわざデートとして行くべきではないのであろうが、プラネタリウムの帰りに二人で見たあのまばゆい光が瞼の裏にちらちらと揺れて離れなかったのだ。
隣を歩く葵をそっと横目に見上げると、街の浮足だった雰囲気のせいか、いつもより楽しげに見える。
二人で出かける時に感じる、うきうきとした弾むような気持ちは、葵の寂しげな表情を前にいつも持て余してしまうのだが、今日だけは彼も自分の持つ気持ちに近づいてくれているのかもしれない。
「なんか荷物多いね。買い物して来たの? それ」
葵が笑って右手に持つ紙袋を指さした。
「あ、これは先輩に」
本当は帰り際に渡そうと思っていたのだが、もういいやと葵の方へ差し出す。
「クリスマスプレゼントです。気に入ってもらえたらいいけど」
街路樹に光るイルミネーションの間を抜けて、人の波に逆らって歩く。
はやる気持ちのまま足早に歩いては、髪型が崩れていないかと歩調を遅くして確かめる。
そうしてたどり着いたツリーの下は一際多くの人でにぎわっていて、降り注ぐ様々な色の光が木漏れ日のように足元に広がっていた。
息を整えてあたりを見回すが葵はまだ来ていない。
まわりに立つ人たちは皆、待ち合わせをしているのか電話をかけたり駅の改札がある方を向いたりと落ち着かない。
やがてやってきた恋人や友達と合流した彼らが一人、また一人とその場を離れてゆく中で、結々は一人、心細さを抱えながらその場に立ち尽くしていた。
腕時計を見ると、約束の時間を少し過ぎている。
手袋をした手をすりあわせて、寒さに肩をすぼめる結々の吐息は、空気に白く曇って消えていった。
と、遠くに一つの影が見えた。
薄暗さの中へ目を凝らすと、息を切らした葵がこちらへ駆け寄って来ている。
ツリーの光に照らされた葵の顔は見たこともないくらいに焦っていて、結々はその意外な表情に驚いた。
「ごめん、待たせちゃった?」
「ううん、私もさっき来たところなので」
慌てて首を振る結々に葵はほっと息をつく。
二人は並んで、駅前のアーケードの方へと歩きだした。
どこへ行きたい? と聞かれて、とっさに浮かんだのは駅前のおしゃれな店が建ち並ぶアーケードだった。
いつでも行けるであろうそんな近場へ、わざわざデートとして行くべきではないのであろうが、プラネタリウムの帰りに二人で見たあのまばゆい光が瞼の裏にちらちらと揺れて離れなかったのだ。
隣を歩く葵をそっと横目に見上げると、街の浮足だった雰囲気のせいか、いつもより楽しげに見える。
二人で出かける時に感じる、うきうきとした弾むような気持ちは、葵の寂しげな表情を前にいつも持て余してしまうのだが、今日だけは彼も自分の持つ気持ちに近づいてくれているのかもしれない。
「なんか荷物多いね。買い物して来たの? それ」
葵が笑って右手に持つ紙袋を指さした。
「あ、これは先輩に」
本当は帰り際に渡そうと思っていたのだが、もういいやと葵の方へ差し出す。
「クリスマスプレゼントです。気に入ってもらえたらいいけど」
0
あなたにおすすめの小説
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
隣人はクールな同期でした。
氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。
30歳を前にして
未婚で恋人もいないけれど。
マンションの隣に住む同期の男と
酒を酌み交わす日々。
心許すアイツとは
”同期以上、恋人未満―――”
1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され
恋敵の幼馴染には刃を向けられる。
広報部所属
●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳)
編集部所属 副編集長
●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳)
本当に好きな人は…誰?
己の気持ちに向き合う最後の恋。
“ただの恋愛物語”ってだけじゃない
命と、人との
向き合うという事。
現実に、なさそうな
だけどちょっとあり得るかもしれない
複雑に絡み合う人間模様を描いた
等身大のラブストーリー。
雪の日に
藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。
親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。
大学卒業を控えた冬。
私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ――
※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる