聖女の私にできること第二巻

藤ノ千里

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第四章 京の都

第三十五話 最初の聖女①

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 私は、46の歳で一度命を落としました。
 そんな私に二度目の生を与えたのは、神としか思えない初老の男性のような方。
 その方に「見通す力」を与えられ転生した先の世界は、私が生きていた時代よりも400年ほど前と思われる時代でした。
 タイムスリップをしたのだと思いました。
 知識にある江戸の時代と全く同じ景色。身寄りもないというのにこの場所で生きねばならない現実に不安を感じていたのを覚えています。
 身元も分からない私を最初に助けてくれたのは、長屋に住む子だくさんの夫婦でした。
 子守をするのと引き換えに、衣食住を分けていただき、そのうち我が子のように親身になって将来の事を考えてくださいました。
 とても、嬉しかった。
 ですがそんな生活はある日突然終わったのです。
 その日、初めて私の「見通す力」が発現しました。夫婦の旦那さんが、暴漢に襲われて死ぬという未来が見えた時には小さく悲鳴を上げていたと思います。
「今日は外出しないで」と懇願する私に、寂しいから駄々を捏ねていると勘違いしたのでしょうね。夫婦はいつも通りに出かけていき、そして、私の目に見えた通り、旦那さんは帰らぬ人となりました。
 悲しみに暮れながらも、子どもを育てていくために気丈にふるまう奥さんの姿。止められなかったという後悔が私の胸を激しく締め付けました。
 それから少しして、次に「見通す力」が私に見せたのは、山を転がり落ちる末っ子の姿でした。
 今度こそ止めたいと強く思いました。奥さんに未来が見えたのだと正直に話し、山へ末っ子を連れて行かないようにと懇願しました。
 奥さんは半信半疑で聞いていましたが、私が子守をするからと申し出ると頷いてくれました。
 そして、数日たった日の早朝。山のふもとで冷たくなった末っ子が発見されました。前日の夜に勝手に家を抜け出したのだろうという話でした。
 また止められなかったと泣く私を奥さんは攻めませんでした。ただ、彼女の絶望に満ちた目が私を責めているような気がして、気づけばその家を飛び出していました。
 次に私を受け入れてくれたのは、宿場の老夫婦でした。
 子どもがいない夫婦は、私を労働力としてだけでなく、娘のようにかわいがってくれました。
 宿場で働いている間、「見通す力」は何度も私に訴えかけてきました。次の客がいつ来るか、どんな客が来るか、そんな事が分かるのはとても有益で、老夫婦にも喜ばれました。
 私の「見通す力」はほんの少しだけ有名になり、客足が増えてきたころ、その人は現れました。
 とある領地を治めるお殿様だというその人は、私を側室にと誘い、断ると無理やりに連れて行かれてしまうことになったのです。
 人の優しさにばかり触れてきた私に、初めて訪れた人の悪意でした。
 そんな中でも運が良かったのは、連れて行かれる道中、京の都を通ったことです。
 都の賑わいに気を取られている彼らの隙を見て、私は走って逃げました。
 そして彼、親王殿下とお会いすることになるのです。
 たまたま街を歩かれていた殿下の駕籠が、私をお救い下さり、ご厚意で殿下のお住まいにて手当をしていただけることになりました。
 身寄りがないことを話すと殿下の女御様は憐れんで下働きとして働かせていただけることになったのです。
 下働きは大変でしたが、衣食住と身の安全が保障された生活はとても快適で、ずっとそうやって暮らしていけたらとそう思いました。
 転機となったのは、やはり「見通す力」でした。
 都の火事を、見ました。
 一人で抱えきれなくなった私は、女御様に訴えました。ですが、そんな荒唐無稽な話お聞きいただけるわけもなく、また何もできないのかと絶望すら覚えました。
 そんな私にお声をかけてくださったのが殿下だったのです。殿下は私の「見通す力」を信じてくださり、都の警備を動かしてくださいました。
 そして、初めて、「見通す力」で見た景色が現実にならずに済んだのです。
 大きな安堵と殿下への感謝の気持ちで泣いてしまったのを覚えています。
 その後、いくつか「見通す力」で良いものと悪いものを見ましたが、その度に殿下は話を聞いてくださり、動いてくださいました。
「見通す力」を殿下へ初めてお話して半年も経った頃です。
 私に、確かな身元が与えられ、殿下の許嫁となることが決まりました。
 もちろん、私が言い出したわけもなく、ある日突然決まったこととして伝えられたのです。
 当然断るなどという選択肢は与えられませんでした。私の身は私のものではなかったことに、初めて気づきました。
 殿下は私よりも10も下で、お心優しい聡明な方です。嫌だなどと思うことはありませんでしたが、私のあずかり知らぬところで私の話が決められることに恐怖を感じました。
 ですが、そんな私をお慰めくださったのも殿下だったのです。
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