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第四章 京の都
第三十六話 最初の聖女②
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殿下と婚儀を行い、皇后となってからも、私の心の片隅にはほんの少しの蟠りがありました。
この身には重い日常の中では忘れてしまうほどの小さな蟠りが。
こちらの世界での歳が、あちらの世界での歳を上回り、そんな蟠りも忘れていたころに「見通す力」は、とある少女を映しました。
私と同じ世界からの転生者でした。
こちらの世界で私が受けた悲しみをこの少女に与えてはいけないと、少女を保護することを考えました。
しかし、「見通す力」がたびたび見せる彼女は泣きながらも立ち上がり、絶望しながらもぶつかっていく、そんな不器用だけれど力強い生き方をしていたのです。
それに、彼女は恋をしていました。結ばれるのが難しい方との恋を。
茨の道を選んで進む彼女をしばらくは見守ろうと、そう決めたのです。
その機会は思っていたより早く訪れました。詳細は分かりませんでしたが、彼女の身に危機が迫り保護を求めて京へ訪れる姿が見えたのです。
彼女の想い人から天子様へ届いた文には、彼女が奇跡の力を使う聖女であることと、天子様の庇護下へ置いていただきたいという懇願がつづられていました。
もちろん喜んで受け入れようと、そう思っていたのに。
向かい合って話をした彼女からは「見通す力」でも見えなかった強い意志を感じました。
この世界で、聖女としての宿命を背負っていく強い意志。
彼女の言葉に、忘れていたはずの蟠りが声を上げました。神という存在から力を与えられた時に言われた言葉。「見通す力を使って多くの人を救ってほしい」と言う私の使命だったはずのもの。
身の安全を選ばず、傷つくことを承知で歩む彼女。
そんな彼女を支えてあげたい、いや、支えなければと、その瞬間に決意したのです。
私は皇后の身とはいえ、天子様の子を身籠るという一番のお役目を果たすことができませんでした。
そのことから、私の御所での立場は決していいものとはいえませんでした。
私のお願いを、お心の優しい天子様は聞いてくださるでしょう。ですが、そのせいで私が責めを負うことを一番に心配してくださるのが、愛しいこの方でもありました。
「試練を与えてみるのはどうであるか?」
少しお悩みになられた後、そうご提案を受けました。
御所でもたびたび報告されていた、かの地での不穏な動き。
平定の世を乱そうとする気運。
それを治めさせることで力量を示させ、手柄としての身分を与えてみてはどうかと。
長らくこの世界で生きてきて、この世界がかつていた世界の過去ではないということには気づいていました。
まるでパラレルワールドのように似通っていて、それでも確実に異なるこの世界。
戦国の世を将軍と呼ばれる武将が平定し、今は大きな戦のない世が続いてはいます。しかし、この世界では平定の世がいつまで続くか分からないのです。
試練を与えることで、彼女を戦の最前線へ送り出してしまうかもしれないのです。
力を与えるだけの存在の神が、与えた後に庇護してくださらないことは分かっていました。
彼女と彼女の想い人の姿を思い出します。
相容れぬ立場と分かっていながらも、互いを想い、信じ、あのような逃避劇まで叶えてしまったあの二人を。
そして、賭けてみようと思ったのです。
運命にではなく、あの二人がこれから掴み取るであろう未来に。
この身には重い日常の中では忘れてしまうほどの小さな蟠りが。
こちらの世界での歳が、あちらの世界での歳を上回り、そんな蟠りも忘れていたころに「見通す力」は、とある少女を映しました。
私と同じ世界からの転生者でした。
こちらの世界で私が受けた悲しみをこの少女に与えてはいけないと、少女を保護することを考えました。
しかし、「見通す力」がたびたび見せる彼女は泣きながらも立ち上がり、絶望しながらもぶつかっていく、そんな不器用だけれど力強い生き方をしていたのです。
それに、彼女は恋をしていました。結ばれるのが難しい方との恋を。
茨の道を選んで進む彼女をしばらくは見守ろうと、そう決めたのです。
その機会は思っていたより早く訪れました。詳細は分かりませんでしたが、彼女の身に危機が迫り保護を求めて京へ訪れる姿が見えたのです。
彼女の想い人から天子様へ届いた文には、彼女が奇跡の力を使う聖女であることと、天子様の庇護下へ置いていただきたいという懇願がつづられていました。
もちろん喜んで受け入れようと、そう思っていたのに。
向かい合って話をした彼女からは「見通す力」でも見えなかった強い意志を感じました。
この世界で、聖女としての宿命を背負っていく強い意志。
彼女の言葉に、忘れていたはずの蟠りが声を上げました。神という存在から力を与えられた時に言われた言葉。「見通す力を使って多くの人を救ってほしい」と言う私の使命だったはずのもの。
身の安全を選ばず、傷つくことを承知で歩む彼女。
そんな彼女を支えてあげたい、いや、支えなければと、その瞬間に決意したのです。
私は皇后の身とはいえ、天子様の子を身籠るという一番のお役目を果たすことができませんでした。
そのことから、私の御所での立場は決していいものとはいえませんでした。
私のお願いを、お心の優しい天子様は聞いてくださるでしょう。ですが、そのせいで私が責めを負うことを一番に心配してくださるのが、愛しいこの方でもありました。
「試練を与えてみるのはどうであるか?」
少しお悩みになられた後、そうご提案を受けました。
御所でもたびたび報告されていた、かの地での不穏な動き。
平定の世を乱そうとする気運。
それを治めさせることで力量を示させ、手柄としての身分を与えてみてはどうかと。
長らくこの世界で生きてきて、この世界がかつていた世界の過去ではないということには気づいていました。
まるでパラレルワールドのように似通っていて、それでも確実に異なるこの世界。
戦国の世を将軍と呼ばれる武将が平定し、今は大きな戦のない世が続いてはいます。しかし、この世界では平定の世がいつまで続くか分からないのです。
試練を与えることで、彼女を戦の最前線へ送り出してしまうかもしれないのです。
力を与えるだけの存在の神が、与えた後に庇護してくださらないことは分かっていました。
彼女と彼女の想い人の姿を思い出します。
相容れぬ立場と分かっていながらも、互いを想い、信じ、あのような逃避劇まで叶えてしまったあの二人を。
そして、賭けてみようと思ったのです。
運命にではなく、あの二人がこれから掴み取るであろう未来に。
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