巫女様と私

藤ノ千里

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1章 導入

2話 儀式の始まり

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「Tani-sa.」
「ソッチ、タッテネ」
 どこからか聞こえた声。そしてタナイさんの通訳によると、美子は布の目前にまで行かないと行けないらしい。
 ハッカのような清涼感のある、けれども重たい香に、鳥の声のような笛の音。
 太鼓の音は聞き慣れないくぐもった音で、心音のように低くしかし不規則に鳴っていた。
 いつの間にか移動した美子の目の前、布の向こう側に誰かの影が見える。
 お香を焚く火が、一人分の人影を映し出していたから。
「Ura yan-rati. Ni-ri Shia-o Raama yan-rati. Muru-o Ni-ri Nia-o rakia-ma.」
 祓いの儀を行うというシャーマンは、やはり珍しく女性と言うことらしい。
 妙齢の女性という事だけど、少し声は低く聞こえた。
「ナマエ、イッテ」
「えっと、山中ヤマナカ 美子ミイコです」
「Miiko.」
「Miiko. Sia-te, Ni-ri Nia-o rakia-ma.」
 低いけど、透き通ったような声だ。
 笛の音と合わさって、楽器のようにも聞こえてくる。
「ナヤミ、イッテ」
「私、欲しいものが我慢出来なくて、つい散財しちゃって、それをどうにかしたいなぁって思ってます」
 こういう対話型の儀式も珍しい。
 言葉の壁があるにも関わらず、通訳を介してでも余所者に儀式を行ってくれるのは、数える程度にしかないだろう。
「Miiko-ri, Ura Yana-o, warina Tani-o.」
「Yan-rati.」
 タナイさんの通訳越しで、本当に伝わっているかどうかも分からない。
 けど、予想するに、そこまで細かい意思疎通は不要という事なんだろう。
「Miiko. Ni-ri Nia-o, Ura yan-rati-a, na-wali Wa-a luan-ma-ra?」
「ナヤミナクナッタラ、ドウナリタイ?」
「我慢できる大人な女性になりたいです」
「Miiko-a Sie Lun-a luan-ma.」
「Yan-rati.」
 低くて澄んだ、優しい声。
 聞いているだけでほっとするのは、この場の雰囲気もあるんだろう。
 スッと布の端から、若い男性が現れた。それにも驚かないほど、心は落ち着いていて、男性が掲げる変わった形の壺にも、懐かしささえ感じてしまっていた。
「Ano Tani-o Muru-a Tani-rati-de. Ni-ri Nia-o, ano Tani-o Sie Rakia-a shi.」
「アレ、セイレイノツボ、ナヤミイレル」
 事前に調べていた通りの手順ではあったけど、壺の形は思ったより複雑で。
 あのレベルの壺を生産できるのって、結構凄い。他の地域の陶器との違いを見たいんだけど、後で写真撮らせてくれるかな?
「Ni-ri Nia-a Ura yan-rati-reba, Miiko-a Warina Tani-a luan. Ni-ri Wa-a yuman-wali-a luan.」
「ナヤミキエル、ミイコヨクナル」
 笛の形も見たいし、太鼓も見せて欲しい。
 そういうお願いって、失礼だったりしないかな?
 タナイさんに聞けば分かるんだっけ?
「Nia-o Tani-o, Lun Noa-o rakia-sanai. Muru-ri laka-o Lun Noa-o Run Uya-de.」
「ナヤミハツボニ、ゼンブイレル」
 そう言えば、対話型に見えたのに途中から美子が喋ってない。
 ふらついたりはしてないけど・・・空気に飲まれてる・・・?
 徒歩の疲れの後の休息に、異質な雰囲気への緊張からのリラックス効果のある導入。
 緩急つけて自律神経を刺激して、マインドフルネスを行っている感じか。
 シャーマンの姿を隠しているのも、影に自己投影させるつもりだろうか?
「Miiko. Ni-a Warina Tani-a luan. Warina Tani-a luan-ma-a yuman Ni-ri yuma-a Miiko-o Warina Tani-a shi.」
「ミイコヨクナル、ヨクナリタイカラヨクナル」
 名前を呼びつつ肯定的な言葉をかけ続けるのも理に叶っている。
 あれ、そう言えば、太鼓の音、早くなっていってない?
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