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6章 伝わる想い
35話 伝えてはいけない事
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ちょっと主観が多めの報告書が出来上がっても、スマホは戻って来なかった。
代わりに、会いたくない人が来た。
「梨菜、ちょっといい?」
広木先輩だった。
研究室の入り口に佇む彼は何故かいつもよりシュンとした様子だったけど、研究室には私1人だったから体に力が入った。
こんな場所で変な事は流石にしないと思う。思うけど・・・。
「話をしたい」
「人の多いとこでならいいですよ」
「学食で良い?」
「・・・はい」
いつもより覇気のない広木先輩は、疲れているようにも見えた。
パソコンをロックして、立ち上がると先輩の姿が見えなくて。
廊下に出ると少し先で待っていた。
私が歩き出すと、広木先輩も歩き出す。
そんな感じで、他人の距離を保ったまま学食に移動した。
午後2時前の学食は見事に空いていた。
席で自習している生徒がちらほらいる程度だった。
広木先輩は窓際の、外が良く見える席に、私たちが付き合ってた頃いつも座っていた席に座った。
私もあの頃と同じように座った。
「俺たち、もう本当にやり直せないのか?」
告白してきたのは彼からだった。
断る理由もないからとオッケーしてしまった私は、人とのコミュニケーションと言うものを軽視していたんだと、今では思う。
「前からそう言ってるじゃないですか」
マイペース過ぎる私を、広木先輩は色んな所へ連れ出してくれて、色んな人と引き合わせてくれた。
それが彼の愛だと気付いたから、我慢した。我慢してしまった。
「その態度地味に傷つくんだけど」
「だって」
合わないのに合わせようとしてしまった。会話もせずに。
「だってそうしないと、広木先輩強引にするじゃないですか」
「それは・・・ごめん。本当にごめん」
私の心が離れて行くことに気付いた彼が、悩んだ結果として体だけでも引き留めようとしたんだと、今では分かる。
一方的に別れを切り出した私を、何とか引き留めたかったんだと、分かるんだ。
でも私たちに必要なのは、体の繋がりじゃなくてきっと対話だったんだ。
「言い訳っぽくなるけど、俺本気で梨菜の事好きだし、梨菜も俺の事好きだから受け入れてくれるんだと思ってたんだよ」
哀しい顔をする広木先輩に、彼を好きだった残り香が心をくすぐった。
でも彼と共にいる未来は、今の私にはもう見えなかった。
「最低な事したのは謝る。もう二度と無理矢理とかしない。だからもう一度チャンスをくれないか?」
「私、好きな人ができたんです」
痛そうに目を閉じる先輩は、私の返事が分かっていたかのようにも見えて。
同じくらい胸が痛くなる。彼との幸せな思い出も確かにあったから。
「俺の事は?」
「好きでしたよ、ちゃんと」
「過去形きついって・・・」
目を開けた広木先輩は、大きく息を吐いた。
そして顔を、窓の外に向ける。
外の通りでは、さっきより多くの学生が行き交っていた。
「俺とはもう無理?」
「無理です」
「内定もらった。地元の会社から」
彼の横顔が、好きだった。
視野が広くて、リーダーシップがあって、人に好かれる。そんな私と全く違う彼が、どこかを見ている横顔が好きだった。
「梨菜、俺の地元みたいな田舎に住みたいって言ってたろ?」
あぁ、そうか。
私と同じで、広木先輩もちゃんと私を見ていなかったのかもしれない。
「そいつともし上手くいかなくて、んで俺の事思い出したら来ていいから」
「行かないですよ」
「最後くらい夢見させてくれよ」
そうやって格好つけるところも、好きでしたよ。
もう二度と口に出す事はないけれど、本当に、ちゃんと好きだったんですよ。
研究室に戻ると、タイミング良く尋ねてくる人がいた。
「梧桐さんって君?」
「あ、はい」
教授よりは若いけど、明らかに生徒の年齢ではない、物静かな感じのおじさん。
お兄さん・・・と呼ぶのは厳しいか。
「外国語学部の平井です。このスマホって君のだよね?」
「ありがとうございます・・・!」
手渡されたのは紛れもなく待ち望んでいた私のスマホだった。でも画面のロックは外れて、翻訳アプリが起動されたままだった。
「このアプリ、解析させてもらっていったん情報抜かせてもらった。で、それについて相談があるんだけど」
言いつつ、手近な椅子に腰を下ろす平井さんは、教授か准教授なんだろう。
他人の研究室でここまでくつろげるのって、そこら辺の人だけだから。
「何でしょう?」
「そもそもの翻訳のロジックはオープンソースを基にしているっぽいから著作権とかについては置いといて、このアプリ、ログ取ってるだろ?」
何やら専門的な話?と、思って頷いてたら、急に聞き逃せない情報を突きつけられた。
え?今ログって言った?
「そのログをさ」
「ログ取ってるんですか??」
「取ってるし、見れるけど?」
いつものアプリの画面上には、今会話した内容であろう翻訳結果しか表示されていない。
1度画面をロックするとその結果も消えるから、だからそういうものだと思って使っていたのに・・・。
代わりに、会いたくない人が来た。
「梨菜、ちょっといい?」
広木先輩だった。
研究室の入り口に佇む彼は何故かいつもよりシュンとした様子だったけど、研究室には私1人だったから体に力が入った。
こんな場所で変な事は流石にしないと思う。思うけど・・・。
「話をしたい」
「人の多いとこでならいいですよ」
「学食で良い?」
「・・・はい」
いつもより覇気のない広木先輩は、疲れているようにも見えた。
パソコンをロックして、立ち上がると先輩の姿が見えなくて。
廊下に出ると少し先で待っていた。
私が歩き出すと、広木先輩も歩き出す。
そんな感じで、他人の距離を保ったまま学食に移動した。
午後2時前の学食は見事に空いていた。
席で自習している生徒がちらほらいる程度だった。
広木先輩は窓際の、外が良く見える席に、私たちが付き合ってた頃いつも座っていた席に座った。
私もあの頃と同じように座った。
「俺たち、もう本当にやり直せないのか?」
告白してきたのは彼からだった。
断る理由もないからとオッケーしてしまった私は、人とのコミュニケーションと言うものを軽視していたんだと、今では思う。
「前からそう言ってるじゃないですか」
マイペース過ぎる私を、広木先輩は色んな所へ連れ出してくれて、色んな人と引き合わせてくれた。
それが彼の愛だと気付いたから、我慢した。我慢してしまった。
「その態度地味に傷つくんだけど」
「だって」
合わないのに合わせようとしてしまった。会話もせずに。
「だってそうしないと、広木先輩強引にするじゃないですか」
「それは・・・ごめん。本当にごめん」
私の心が離れて行くことに気付いた彼が、悩んだ結果として体だけでも引き留めようとしたんだと、今では分かる。
一方的に別れを切り出した私を、何とか引き留めたかったんだと、分かるんだ。
でも私たちに必要なのは、体の繋がりじゃなくてきっと対話だったんだ。
「言い訳っぽくなるけど、俺本気で梨菜の事好きだし、梨菜も俺の事好きだから受け入れてくれるんだと思ってたんだよ」
哀しい顔をする広木先輩に、彼を好きだった残り香が心をくすぐった。
でも彼と共にいる未来は、今の私にはもう見えなかった。
「最低な事したのは謝る。もう二度と無理矢理とかしない。だからもう一度チャンスをくれないか?」
「私、好きな人ができたんです」
痛そうに目を閉じる先輩は、私の返事が分かっていたかのようにも見えて。
同じくらい胸が痛くなる。彼との幸せな思い出も確かにあったから。
「俺の事は?」
「好きでしたよ、ちゃんと」
「過去形きついって・・・」
目を開けた広木先輩は、大きく息を吐いた。
そして顔を、窓の外に向ける。
外の通りでは、さっきより多くの学生が行き交っていた。
「俺とはもう無理?」
「無理です」
「内定もらった。地元の会社から」
彼の横顔が、好きだった。
視野が広くて、リーダーシップがあって、人に好かれる。そんな私と全く違う彼が、どこかを見ている横顔が好きだった。
「梨菜、俺の地元みたいな田舎に住みたいって言ってたろ?」
あぁ、そうか。
私と同じで、広木先輩もちゃんと私を見ていなかったのかもしれない。
「そいつともし上手くいかなくて、んで俺の事思い出したら来ていいから」
「行かないですよ」
「最後くらい夢見させてくれよ」
そうやって格好つけるところも、好きでしたよ。
もう二度と口に出す事はないけれど、本当に、ちゃんと好きだったんですよ。
研究室に戻ると、タイミング良く尋ねてくる人がいた。
「梧桐さんって君?」
「あ、はい」
教授よりは若いけど、明らかに生徒の年齢ではない、物静かな感じのおじさん。
お兄さん・・・と呼ぶのは厳しいか。
「外国語学部の平井です。このスマホって君のだよね?」
「ありがとうございます・・・!」
手渡されたのは紛れもなく待ち望んでいた私のスマホだった。でも画面のロックは外れて、翻訳アプリが起動されたままだった。
「このアプリ、解析させてもらっていったん情報抜かせてもらった。で、それについて相談があるんだけど」
言いつつ、手近な椅子に腰を下ろす平井さんは、教授か准教授なんだろう。
他人の研究室でここまでくつろげるのって、そこら辺の人だけだから。
「何でしょう?」
「そもそもの翻訳のロジックはオープンソースを基にしているっぽいから著作権とかについては置いといて、このアプリ、ログ取ってるだろ?」
何やら専門的な話?と、思って頷いてたら、急に聞き逃せない情報を突きつけられた。
え?今ログって言った?
「そのログをさ」
「ログ取ってるんですか??」
「取ってるし、見れるけど?」
いつものアプリの画面上には、今会話した内容であろう翻訳結果しか表示されていない。
1度画面をロックするとその結果も消えるから、だからそういうものだと思って使っていたのに・・・。
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