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6章 伝わる想い
34話 特別な杯
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と、終わらせようと思ったけど、1個だけ書いておかないといけない話があったんだった。
それは、お土産披露中に、バッグの中からひょっこりと頭を出した。
「これは?」
目ざとく見つけた教授の一言で、手に取る。
アズー君から貰ったあの杯だった。
「これいただいたんです。お土産とは別に」
「見ても?」
「はい」
手渡すと、教授はとても丁寧に受け取って、鑑定するように杯を隅から隅まで見ていた。
匂いを嗅いだり指で弾いて、お土産の皿よりもしっかりと確認しているようだった。
「それ凄いですよね模様が細かくて。窯は既製品みたいだったんですけど、多分材料と製法は伝統的なまま変わってないみたいで、なのにこんなに細かい模様なんですよ」
窯の近くの棚に並んでいた陶器のうち、いちばん綺麗だと思った1品。
専用のケースでも買って飾ろうかとも思っていたくらいで、だから教授が食いついてくれたのも嬉しかった。
「これを、もしかして男性から受け取りませんでしたか?」
「男性・・・からかも」
「キターニ族は日常的にこのような杯を使っていましたか?」
「そう言えば・・・飲み物は器しか使ってなかったかもしれないです・・・」
言われて始めて、他にも杯は置いてあったのに、使うシーンはほとんどなかったことに気づく。
使ってたのって、もしかして結婚式の、新郎新婦の間に置かれていたあの時だけだったかも?
「これは、あくまでも想定でしかないのですが」
言いつつ、教授は杯を返してくれた。
重くて軽いような、冷たいのに暖かいような不思議な手触りのそれは、私の手によく馴染んだ。
「日常的に使わないような食器類は何かしらの儀式に使われる事が多いのは知っていますね?」
「はい」
「これは、食という生きる為に必要な行為に使用する道具を使うことで、それを人間の一生に例えるという考え方に基づきます」
神への捧げ物にしたり、神への儀式へ使ったり、その為だけに使う装飾された食器の存在があるのは常識だ。
この世界では、だけど。
「これがもし、そのような意図で製造されたものなのだとしたら」
それをあえて今口にするという教授の意図が、分からなかった。
次の言葉を聞くまでは。
「一生を捧げる、いわば求愛の意味になるのではないかと」
「え」
「つまりは杯を渡される事でプロポーズを受け、受け取る事でそれを受託したのではないですか?」
「・・・え?」
意味が分かるのに分からなくて、ポカンと開いた口からまた「え?」が飛び出た。
だってこれを貰ったのって、2日目の、当初帰る予定だった日で。
あの時はまだ彼と特別親しかった訳でもなくて。
それに、私があの村に残るのを決めたのだって、杯を貰うより後だったのに。
「え?」
アズー君の行動の意図が分からなすぎて頭の中は混乱状態。
でも教授が「これは?」とノートの内容を聞いてくださったから、その件についてはひとまず後回しにする事にした。
お土産についての解説をする流れで翻訳アプリを教授に見せてしまったのが、運の尽き。
私のスマホ、「しばらくお借りします」と没収されてしまった。
多分、教授の伝手の誰かしらによって解析されて、キターニ族の言語の研究に使われるんだろう。
「しばらく」がどのくらいかかるのかは、分からないけれど。
学食で遅めの朝食を取ってから研究室に戻ってきても、スマホは戻ってきていなくて。
仕方なく、今回のフィールドワークを報告書に仕上げる事にした。
出資して下さるスポンサー様へ向けての報告書。
書き方はいつも日記形式で書き出して、それから情報を分類ごとに切り分けていくやり方だ。
研究室のパソコンでクラウド上の写真を見つつ、日記を書く。
書き始めると、不思議な感じがした。
最初にムワキの儀式を見た時、彼女は完璧に精霊の代弁者で、人間味のない存在だった。
アズー君の姿で初めて村を案内してくれた時、彼は年相応な少年って感じで、不思議と親近感を覚えた。
村に残りたいと思ったのは、キターニ族への好奇心からだった。
でもアズー君が杯をくれて、あの瞬間、びっくりするくらい嬉しくなったんだ。
飾られるように並べられていた杯の中で、一際ピカピカに輝いて見えたあの杯。
他の杯を持って帰るのは駄目なのに、この杯だけは貰えたのは、確かに特別対応に思える。
でも、プロポーズで杯を贈るなら、直接手渡しじゃない?
シアちゃん経由で渡されて「プロポーズです」なんて言われても、流石に喜べない。
・・・アズー君が手渡してくれてたらなら、プロポーズだったとしても凄く嬉しかったのに。
もしプロポーズなんだとしたら、もしかしてこれって彼の手作りなんだろうか?
いくつも作るなんて考えづらいから、多分一つだけ。彼が一つだけ作った、特別な杯なんだろうか?本当に?
あの時から、少しは私に好意を抱いてくれていたって、そういう事なのだろうか?
アズー君に会いたい。
会って、聞きたい。
この杯をくれた意味を。
彼の口から直接、聞かせて欲しいから。
それは、お土産披露中に、バッグの中からひょっこりと頭を出した。
「これは?」
目ざとく見つけた教授の一言で、手に取る。
アズー君から貰ったあの杯だった。
「これいただいたんです。お土産とは別に」
「見ても?」
「はい」
手渡すと、教授はとても丁寧に受け取って、鑑定するように杯を隅から隅まで見ていた。
匂いを嗅いだり指で弾いて、お土産の皿よりもしっかりと確認しているようだった。
「それ凄いですよね模様が細かくて。窯は既製品みたいだったんですけど、多分材料と製法は伝統的なまま変わってないみたいで、なのにこんなに細かい模様なんですよ」
窯の近くの棚に並んでいた陶器のうち、いちばん綺麗だと思った1品。
専用のケースでも買って飾ろうかとも思っていたくらいで、だから教授が食いついてくれたのも嬉しかった。
「これを、もしかして男性から受け取りませんでしたか?」
「男性・・・からかも」
「キターニ族は日常的にこのような杯を使っていましたか?」
「そう言えば・・・飲み物は器しか使ってなかったかもしれないです・・・」
言われて始めて、他にも杯は置いてあったのに、使うシーンはほとんどなかったことに気づく。
使ってたのって、もしかして結婚式の、新郎新婦の間に置かれていたあの時だけだったかも?
「これは、あくまでも想定でしかないのですが」
言いつつ、教授は杯を返してくれた。
重くて軽いような、冷たいのに暖かいような不思議な手触りのそれは、私の手によく馴染んだ。
「日常的に使わないような食器類は何かしらの儀式に使われる事が多いのは知っていますね?」
「はい」
「これは、食という生きる為に必要な行為に使用する道具を使うことで、それを人間の一生に例えるという考え方に基づきます」
神への捧げ物にしたり、神への儀式へ使ったり、その為だけに使う装飾された食器の存在があるのは常識だ。
この世界では、だけど。
「これがもし、そのような意図で製造されたものなのだとしたら」
それをあえて今口にするという教授の意図が、分からなかった。
次の言葉を聞くまでは。
「一生を捧げる、いわば求愛の意味になるのではないかと」
「え」
「つまりは杯を渡される事でプロポーズを受け、受け取る事でそれを受託したのではないですか?」
「・・・え?」
意味が分かるのに分からなくて、ポカンと開いた口からまた「え?」が飛び出た。
だってこれを貰ったのって、2日目の、当初帰る予定だった日で。
あの時はまだ彼と特別親しかった訳でもなくて。
それに、私があの村に残るのを決めたのだって、杯を貰うより後だったのに。
「え?」
アズー君の行動の意図が分からなすぎて頭の中は混乱状態。
でも教授が「これは?」とノートの内容を聞いてくださったから、その件についてはひとまず後回しにする事にした。
お土産についての解説をする流れで翻訳アプリを教授に見せてしまったのが、運の尽き。
私のスマホ、「しばらくお借りします」と没収されてしまった。
多分、教授の伝手の誰かしらによって解析されて、キターニ族の言語の研究に使われるんだろう。
「しばらく」がどのくらいかかるのかは、分からないけれど。
学食で遅めの朝食を取ってから研究室に戻ってきても、スマホは戻ってきていなくて。
仕方なく、今回のフィールドワークを報告書に仕上げる事にした。
出資して下さるスポンサー様へ向けての報告書。
書き方はいつも日記形式で書き出して、それから情報を分類ごとに切り分けていくやり方だ。
研究室のパソコンでクラウド上の写真を見つつ、日記を書く。
書き始めると、不思議な感じがした。
最初にムワキの儀式を見た時、彼女は完璧に精霊の代弁者で、人間味のない存在だった。
アズー君の姿で初めて村を案内してくれた時、彼は年相応な少年って感じで、不思議と親近感を覚えた。
村に残りたいと思ったのは、キターニ族への好奇心からだった。
でもアズー君が杯をくれて、あの瞬間、びっくりするくらい嬉しくなったんだ。
飾られるように並べられていた杯の中で、一際ピカピカに輝いて見えたあの杯。
他の杯を持って帰るのは駄目なのに、この杯だけは貰えたのは、確かに特別対応に思える。
でも、プロポーズで杯を贈るなら、直接手渡しじゃない?
シアちゃん経由で渡されて「プロポーズです」なんて言われても、流石に喜べない。
・・・アズー君が手渡してくれてたらなら、プロポーズだったとしても凄く嬉しかったのに。
もしプロポーズなんだとしたら、もしかしてこれって彼の手作りなんだろうか?
いくつも作るなんて考えづらいから、多分一つだけ。彼が一つだけ作った、特別な杯なんだろうか?本当に?
あの時から、少しは私に好意を抱いてくれていたって、そういう事なのだろうか?
アズー君に会いたい。
会って、聞きたい。
この杯をくれた意味を。
彼の口から直接、聞かせて欲しいから。
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