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6章 伝わる想い
33話 帰国
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「アズー君。ねぇ、アズー君・・・!」
追いかけて追い抜いて回り込んで、アズー君と向き合う。
泣きそうな彼と、真っ直ぐに向き合う。
「アズー君は私にずっとここにいて欲しい?」
文化も常識も違って、言葉だってアプリを使わないと通じなくて。
心も、通じ合っているか分からなくて。
だから彼に無理を言えないと思っていた。言っちゃいけないと思っていた。
「私、アズー君の事好きだよ。Muru Yuma Rakiaだよ」
今この時だけの関係だとしても仕方ないと思っていた。
けど、もしアズー君が求めてくれるのならば。
「アズー君が、アズー君も私の事、好きでいてくれるなら・・・」
終わりにしたくないと、もっとあなたと一緒にいたいと、そんなわがままを口にしたい。
同じ想いを抱いてくれているのならば。
「すぐにまた戻って来るよ」
アズー君はじっと、スマホの画面だけを見ていた。
言葉の意味を確かめるように、食い入るように見ていた。
「アズー君は私の事好き?」
答えは分かっていた。でも彼がそれを口にしてくれないと意味がなかったから。
ちゃんと言葉を交わさないと、意味がなかったから。
「私、またここに戻ってきてもいい?」
翻訳された文字がアズー君の目に映って、そして彼は目を閉じた。
深くため息をついて、それから開いた目には、涙が滲んでいた。
「A-a...」
スマホの画面を見ると、「僕は」の文字。
「私」じゃなくて「僕」なのかと、一人称の違いに初めて気づいた。
「A-a Ni-o Noa Rakia-de ra.(僕は君が欲しい)」
予想以上にストレートな告白に、一瞬で嬉しさと恥ずかしさが襲ってきて。
ドキドキした。触れてもいないのにアズー君の吐息が感じられて、彼の唇に目がいってしまう。
「Nia Azuu...」
慌ててスマホに視線を戻す。
でもそこに表示されてる「僕は君が欲しい」に、またドキドキしちゃう。
「Nia Azuu, Ni-a Raama Wali Yuma Nia Ta-de ra.(でも、君はきっと後悔する)」
「その時は一緒に考えたい。それじゃ駄目?」
平静を保ったまま答えて、画面をアズー君に見せて。
画面を見たアズー君は、すぐに私を見た。
「本当?」って聞かれてる気がした。
しっかり頷いて答えると、彼の、アズー君の目から涙が零れて。
「リナ・・・!」
抱きついてきた彼は、縋るように私にキスをした。
苦しいくらいに力強い抱擁と、何度も何度も啄まれる唇。
まだ朝なのに、外なのに、誰かに見られるかもしれないのに。
そんなの関係ないとばかりに、彼は何度もキスをして、それからいっそう強く私を抱きしめてくれた。
「Wali Tana Luan-o Yuma Tani Lun-de Warina.」
耳元で聞こえる泣きながらの言葉。
彼の心からの想いだって分かった。
だから、私に届いた。スマホの画面なんてなくても、アズー君の想いは私に届いたんだ。
「うん。待ってて」
帰国の旅程は驚くくらい順調にいった。
アズー君にちょっとだけ返金してもらった決済アプリの残高で航空券を予約して、あとタナイさんを雇ったから。
それに、飛行機も珍しくほとんど遅延しなかった。
乗り換えもスムーズにいったし、ロストバゲージもしなかったし、お土産も割れなかったし。
昼の便で空港に帰り着いたけど、そのまま部屋に帰って寝た。
時差ボケを治すためにぐっすり寝て、目が覚めたら翌朝だったのは、我ながらびっくりだった。
荷解きをした後、目的のものを引き出しの中から引っ張り出して、シャワーを浴びて着替えて。
朝食は学食にしようと思って、荷物を抱えながら部屋を出た。
「おはようございます!」
研究室の戸を開けると、少しゴチャついた資料に埋もれるようにして、目的の人がいた。
「おはようございます。随分と満喫されて来られたようですね」
初老の、穏やかな笑みを浮かべるこのおじいちゃんが、先住民考古学の権威こと、外薗教授だ。
「そうなんです!すっごい楽しくて興味深くて勉強になりました!」
「それは良かった」
ご自身が行きたかったであろうキターニ族のツアーを予約してくれたのも教授だし、それ以前に、3カ国ほど僻地の少数民族のところへフィールドワークに連れて行って下さったのも教授だし。
そもそも、この裾野の狭い先住民考古学の道を照らしてくださったのも、教授だし。
恩師で上司で趣味仲間なお方なのだ。
「これ、取材ノートです!写真は今朝クラウドに上げたからもう見れるはずです!」
「拝見します」
教授がいつも見せてくださるように私のノートを手渡すと、教授は受け取ってから中身を・・・。見ない?
それに教授の視線はノートではなく、私の手元で・・・。
「不躾かとは存じますがその梧桐さんが手にされているのは・・・」
「お気づきですか?」
恐る恐るの質問に、ニヤリと怪しい笑みを作る。
さすが教授。目ざとくて嗅覚が鋭い。
手にしていたバッグを手近な机に置き、中身を恭しく取り出すと、教授は恋人くらい至近距離で私の手元を見つめていた。
キラキラと少年のような顔で。
「じゃーん、お土産です!」
「おおおおお!」
喜んでくれるかな?と思って選んだお土産をこれほどまで喜ばれるとやっぱり嬉しいよね。
教授曰く、「誰も持ち帰りを許可された事のないキターニ族の品」は未だかつてないほど好評で、写真とノートも「教授若返ったかな?」ってくらい好評で、それからしばらくキターニ族談話が盛り上がったのでした。
追いかけて追い抜いて回り込んで、アズー君と向き合う。
泣きそうな彼と、真っ直ぐに向き合う。
「アズー君は私にずっとここにいて欲しい?」
文化も常識も違って、言葉だってアプリを使わないと通じなくて。
心も、通じ合っているか分からなくて。
だから彼に無理を言えないと思っていた。言っちゃいけないと思っていた。
「私、アズー君の事好きだよ。Muru Yuma Rakiaだよ」
今この時だけの関係だとしても仕方ないと思っていた。
けど、もしアズー君が求めてくれるのならば。
「アズー君が、アズー君も私の事、好きでいてくれるなら・・・」
終わりにしたくないと、もっとあなたと一緒にいたいと、そんなわがままを口にしたい。
同じ想いを抱いてくれているのならば。
「すぐにまた戻って来るよ」
アズー君はじっと、スマホの画面だけを見ていた。
言葉の意味を確かめるように、食い入るように見ていた。
「アズー君は私の事好き?」
答えは分かっていた。でも彼がそれを口にしてくれないと意味がなかったから。
ちゃんと言葉を交わさないと、意味がなかったから。
「私、またここに戻ってきてもいい?」
翻訳された文字がアズー君の目に映って、そして彼は目を閉じた。
深くため息をついて、それから開いた目には、涙が滲んでいた。
「A-a...」
スマホの画面を見ると、「僕は」の文字。
「私」じゃなくて「僕」なのかと、一人称の違いに初めて気づいた。
「A-a Ni-o Noa Rakia-de ra.(僕は君が欲しい)」
予想以上にストレートな告白に、一瞬で嬉しさと恥ずかしさが襲ってきて。
ドキドキした。触れてもいないのにアズー君の吐息が感じられて、彼の唇に目がいってしまう。
「Nia Azuu...」
慌ててスマホに視線を戻す。
でもそこに表示されてる「僕は君が欲しい」に、またドキドキしちゃう。
「Nia Azuu, Ni-a Raama Wali Yuma Nia Ta-de ra.(でも、君はきっと後悔する)」
「その時は一緒に考えたい。それじゃ駄目?」
平静を保ったまま答えて、画面をアズー君に見せて。
画面を見たアズー君は、すぐに私を見た。
「本当?」って聞かれてる気がした。
しっかり頷いて答えると、彼の、アズー君の目から涙が零れて。
「リナ・・・!」
抱きついてきた彼は、縋るように私にキスをした。
苦しいくらいに力強い抱擁と、何度も何度も啄まれる唇。
まだ朝なのに、外なのに、誰かに見られるかもしれないのに。
そんなの関係ないとばかりに、彼は何度もキスをして、それからいっそう強く私を抱きしめてくれた。
「Wali Tana Luan-o Yuma Tani Lun-de Warina.」
耳元で聞こえる泣きながらの言葉。
彼の心からの想いだって分かった。
だから、私に届いた。スマホの画面なんてなくても、アズー君の想いは私に届いたんだ。
「うん。待ってて」
帰国の旅程は驚くくらい順調にいった。
アズー君にちょっとだけ返金してもらった決済アプリの残高で航空券を予約して、あとタナイさんを雇ったから。
それに、飛行機も珍しくほとんど遅延しなかった。
乗り換えもスムーズにいったし、ロストバゲージもしなかったし、お土産も割れなかったし。
昼の便で空港に帰り着いたけど、そのまま部屋に帰って寝た。
時差ボケを治すためにぐっすり寝て、目が覚めたら翌朝だったのは、我ながらびっくりだった。
荷解きをした後、目的のものを引き出しの中から引っ張り出して、シャワーを浴びて着替えて。
朝食は学食にしようと思って、荷物を抱えながら部屋を出た。
「おはようございます!」
研究室の戸を開けると、少しゴチャついた資料に埋もれるようにして、目的の人がいた。
「おはようございます。随分と満喫されて来られたようですね」
初老の、穏やかな笑みを浮かべるこのおじいちゃんが、先住民考古学の権威こと、外薗教授だ。
「そうなんです!すっごい楽しくて興味深くて勉強になりました!」
「それは良かった」
ご自身が行きたかったであろうキターニ族のツアーを予約してくれたのも教授だし、それ以前に、3カ国ほど僻地の少数民族のところへフィールドワークに連れて行って下さったのも教授だし。
そもそも、この裾野の狭い先住民考古学の道を照らしてくださったのも、教授だし。
恩師で上司で趣味仲間なお方なのだ。
「これ、取材ノートです!写真は今朝クラウドに上げたからもう見れるはずです!」
「拝見します」
教授がいつも見せてくださるように私のノートを手渡すと、教授は受け取ってから中身を・・・。見ない?
それに教授の視線はノートではなく、私の手元で・・・。
「不躾かとは存じますがその梧桐さんが手にされているのは・・・」
「お気づきですか?」
恐る恐るの質問に、ニヤリと怪しい笑みを作る。
さすが教授。目ざとくて嗅覚が鋭い。
手にしていたバッグを手近な机に置き、中身を恭しく取り出すと、教授は恋人くらい至近距離で私の手元を見つめていた。
キラキラと少年のような顔で。
「じゃーん、お土産です!」
「おおおおお!」
喜んでくれるかな?と思って選んだお土産をこれほどまで喜ばれるとやっぱり嬉しいよね。
教授曰く、「誰も持ち帰りを許可された事のないキターニ族の品」は未だかつてないほど好評で、写真とノートも「教授若返ったかな?」ってくらい好評で、それからしばらくキターニ族談話が盛り上がったのでした。
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