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第2章 成人祝いのパーティ
14話 計算された演出
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「レーカ姫、このような無粋な場ではございますが、急ぎお祝いの言葉を贈らせてくださいませ。成人おめでとうございます」
「ありがとうございますシモン様」
気迫さえ感じられる金を、正面から受け止めた。
こちらも噂によると、ロッツランド王家は人を値踏みするのがお好きらしい。
だからこそ、一分の隙も見せる事は許されない。
国益を至上とする相手には、価値がある存在だと見せつけなければならないのだ。
それが、私の役目なのだから。
「シモン様、城へ案内させていただきます。まずは少しお休みになられますか?」
お父様の声掛けに、一瞬遅れてシモン様はそちらを向かれた。
その拍子に、金色がふわりと風に揺れる。
あの覇者を絵に描いたような麗しい見目も、商業国家としての総力を挙げて保たれていらっしゃるのだろう。
私には無縁だがな。
「いいえ。お気遣いは感謝しますが、何分快適な船旅でしたので疲れはありません。それよりも一刻も早くパーティーに参加させていただきたい」
「分かりました。ではこちらへ」
シモン様の「快適な船旅」という言葉に胸騒ぎを覚え、直ぐには足が動かなかった。
お父様とシモン様の背を見送りつつ、チラリとロッツランド王国からの船を伺う。
船上には乱れのない服に身を包んだ船員。そして見る限り、疲れを顔に浮かべる者はいなかった。
あの船、私がロッツランド王国の港を出た時には停泊していたのだろうが、どのくらい後に出港したのだろうか。
先にという事はないだろう。よほど大回りでもしていなければ海上で確認しているだろうから。
我らがノイマンの船は、航海中は直立が難しい程度には揺れる。しかし沈むことはなく速い。
快適だというロッツランド王国の船は、快適でありながら我らの船と同程度の速さであると想定される。
この事から導き出されるのは限りなく最悪に近い、まだ訪れて欲しくなかった事実。
世界的な産業技術の向上によって、いつかこの時が訪れるであろうと懸念していた。
しかし、まだ数年は先であろうと、予想していたというのに。
ノイマンの操船技術なしに「死の海」を渡れる船が、今目の前にある。
この船を作る技術を、恐らくロッツランド王国は得ている。
その上、その技術を得ているのがロッツランド王国だけなのか、他国もそうであるのか、分からない。
小さな島国では情報源が限られる。そしていつも得た情報は手遅れだ。
早急に手を打たなければならない。ノイマンの次期国王である、この私が。
ひと足遅れてパーティ会場に戻ると、船旅の疲れがないというのはやはり事実のようで、シモン様はお父様と共に各国からのお客人と談笑をされておいでだった。
港では派手に見えた装いも、この場ではちょうどふさわしい華やかさで、こんなところまで計算づくなのかと、苦笑が漏れそうになった。
お母様は、ハンザ公国の所にいらっしゃる。
恐らくロッツランド王国の船についてお話をされておられるのであろうが、私も加わった方が良いだろうか?
いや、それは流石に示唆的過ぎるか。
であれば……。
さ迷わせた視線に、一張羅の幼馴染の姿が留まる。
そう言えば、ダンスの途中で放り投げてしまった。
あいつは気にしないだろうが、建前上フォローを入れておいた方が良いだろうか?
考えつつ歩を進めると当然のように目が合って。そして、あいつの、シュンの顔が目に見えて明るくなるのが分かった。
あの分じゃ、ポーカーフェイスを身に付けるのは十年以上先になるだろう。外交だって、恐ろしくて任せられたものじゃない。
言うなればあいつは犬だ。
隠しもしない尻尾から感情が丸わかりで、あんな風に見た目だけでも王子面してるくせに、気を抜くとすぐ泥だらけになってはしゃぐに決まっている。
馬鹿なシュン。でも、ダンスは、思っていたよりは上手かったかもな。
私の意図が読めたのか、シュンが一歩踏み出す。
普段よりも固い動きで、「頑張っています」と言わんばかりの表情で。
だから私は立ち止まり、あいつが来るのを待ち受けて……。
「レーカ様」
「ありがとうございますシモン様」
気迫さえ感じられる金を、正面から受け止めた。
こちらも噂によると、ロッツランド王家は人を値踏みするのがお好きらしい。
だからこそ、一分の隙も見せる事は許されない。
国益を至上とする相手には、価値がある存在だと見せつけなければならないのだ。
それが、私の役目なのだから。
「シモン様、城へ案内させていただきます。まずは少しお休みになられますか?」
お父様の声掛けに、一瞬遅れてシモン様はそちらを向かれた。
その拍子に、金色がふわりと風に揺れる。
あの覇者を絵に描いたような麗しい見目も、商業国家としての総力を挙げて保たれていらっしゃるのだろう。
私には無縁だがな。
「いいえ。お気遣いは感謝しますが、何分快適な船旅でしたので疲れはありません。それよりも一刻も早くパーティーに参加させていただきたい」
「分かりました。ではこちらへ」
シモン様の「快適な船旅」という言葉に胸騒ぎを覚え、直ぐには足が動かなかった。
お父様とシモン様の背を見送りつつ、チラリとロッツランド王国からの船を伺う。
船上には乱れのない服に身を包んだ船員。そして見る限り、疲れを顔に浮かべる者はいなかった。
あの船、私がロッツランド王国の港を出た時には停泊していたのだろうが、どのくらい後に出港したのだろうか。
先にという事はないだろう。よほど大回りでもしていなければ海上で確認しているだろうから。
我らがノイマンの船は、航海中は直立が難しい程度には揺れる。しかし沈むことはなく速い。
快適だというロッツランド王国の船は、快適でありながら我らの船と同程度の速さであると想定される。
この事から導き出されるのは限りなく最悪に近い、まだ訪れて欲しくなかった事実。
世界的な産業技術の向上によって、いつかこの時が訪れるであろうと懸念していた。
しかし、まだ数年は先であろうと、予想していたというのに。
ノイマンの操船技術なしに「死の海」を渡れる船が、今目の前にある。
この船を作る技術を、恐らくロッツランド王国は得ている。
その上、その技術を得ているのがロッツランド王国だけなのか、他国もそうであるのか、分からない。
小さな島国では情報源が限られる。そしていつも得た情報は手遅れだ。
早急に手を打たなければならない。ノイマンの次期国王である、この私が。
ひと足遅れてパーティ会場に戻ると、船旅の疲れがないというのはやはり事実のようで、シモン様はお父様と共に各国からのお客人と談笑をされておいでだった。
港では派手に見えた装いも、この場ではちょうどふさわしい華やかさで、こんなところまで計算づくなのかと、苦笑が漏れそうになった。
お母様は、ハンザ公国の所にいらっしゃる。
恐らくロッツランド王国の船についてお話をされておられるのであろうが、私も加わった方が良いだろうか?
いや、それは流石に示唆的過ぎるか。
であれば……。
さ迷わせた視線に、一張羅の幼馴染の姿が留まる。
そう言えば、ダンスの途中で放り投げてしまった。
あいつは気にしないだろうが、建前上フォローを入れておいた方が良いだろうか?
考えつつ歩を進めると当然のように目が合って。そして、あいつの、シュンの顔が目に見えて明るくなるのが分かった。
あの分じゃ、ポーカーフェイスを身に付けるのは十年以上先になるだろう。外交だって、恐ろしくて任せられたものじゃない。
言うなればあいつは犬だ。
隠しもしない尻尾から感情が丸わかりで、あんな風に見た目だけでも王子面してるくせに、気を抜くとすぐ泥だらけになってはしゃぐに決まっている。
馬鹿なシュン。でも、ダンスは、思っていたよりは上手かったかもな。
私の意図が読めたのか、シュンが一歩踏み出す。
普段よりも固い動きで、「頑張っています」と言わんばかりの表情で。
だから私は立ち止まり、あいつが来るのを待ち受けて……。
「レーカ様」
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