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第2章 成人祝いのパーティ
17話 最低な交渉
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我が国初の遊学で、世界が広い事を知った。
目の前の、無限にも感じる海がとても小さいのだという事も、知った。
だから体を張って国を守ろうと思っていたのに。
シモン様は、正義や信条からではなく、ただ利益の為に我が国へ婿入りしようと考えてらっしゃるというのだ。
たった目と鼻の先に、こんなにも理解し難い人間がいるなどと。
予想もしていなかった。予想できるはずもなかった。
「お受けいただけますよね?」
取り立てる事でもないかのように、平然と仰る姿に嫌悪感さえ覚えた。
まるで正体の分からない生き物と対峙したかのように、喉の奥が張り付く。
「そ、れは……」
「あぁ、妻としての義務を果たして下されば、浮気はしても構いませんよ。私はしませんが」
「は……?」
「悩まれる理由はハンザ公国のシュン王子でしょう?良いですよ、情夫の一人くらい」
「……待て」
「素性も明らかですし、ハンザ公国との仲は保っておきたい。血だけは混ざらぬようにしてもらいたいですが」
「待て!」
ようやく動きを止めた煩い口。
代わりにニィと意地悪く笑う顔を、ぶっ飛ばしてやりたいと思った。
「私を愚弄する気か……?」
「いいえ、ご提案です。貴女が正しい選択を取れるよう、貴女のご希望を叶えて差し上げるというご提案をしております」
握ろうとした拳は既に固く握られていて、ギリッと言う音で歯を噛み締めていた事に気付いた。
気付いたところで、止まらなかった。
シモン様に詰め寄って、胸ぐらを掴んでいた。
ダンッと、言う音と共に、シモン様の体が壁に叩きつけられる。
叩きつけたのはもちろん私だ。
「貴様……!」
「何かおかしなことを申し上げましたか?」
いけしゃあしゃあと、ここまで来ても私を煽り立てる男に、悪態をつこうとして。
つけなかった。
私を映す金が、そんな事をしてもいい相手ではない事を思い出させたから。
「これで終わりなら離して頂いても?」
僅かな時間でも我を忘れるほどに私を支配した怒りが、未だ嵐のように胸の中で渦巻いていた。
嵐に流される事も出来た。その方がきっと楽だった。
けれども私は、嵐を越える術を知ってしまっていた。
胸元に下げた木片の柔らかさを、腰に括り付けた鉄の美しさを、想いながら腕の力を緩める。
私には、私の感情より大切なものがあるから。
だから手のひらを解いて、腕を引く。
守りたい者達の為に。
「これは、交渉成立と思っても良いですね?レーカ姫」
クソみたいな男に良いように利用される未来。
であっても、この国を、あいつを守れるのであれば私は……。
------
レーカの誕生日パーティーは夢のような時間だった。
ご丁寧にも、わざわざサプライズで船で乗り付けてまでして夢の終わりを持ってきてくださったのは、ロッツランド王国第二王子シモン・ロッツランド様。
でも、まあ、それくらいならまだ許せた。
そもそもあのパーティーだって、レーカの政策のひとつみたいだったし。僕たちノイマンの王族を招いたのも政治利用する為だろうし。察した別の国からの圧力があるかもしれないところまでは想定してたから。
だからレーカが直々にお出迎えしたのまでは許せた。
その後、僕とのダンスを再開しようとしたのを遮ってレーカとダンスをし始めたのも、ギリギリ許せた。
本当にギリギリだけど、許せた。
けど問題はその後。あの人、あろう事か跪いてレーカに薔薇を、しかも白の、1本でうちのひと月の国家予算位する値段の真っ白な薔薇を手渡してくれて。
その上、レーカに受け取ってもらったりなんかされちゃって。
いくら商業国家とはいえ、あれほどまでに高価な薔薇を易々とどうでもいい国に渡すわけはない。
加えてあのパフォーマンス。成人したての女性に公衆の面前で恥ずかしげもなく行う行為は、自信と確証があるからこそだろう。
となれば、とても許し難いことにロッツランド王国はレーカとの政略結婚を望んでいるという事になる。
それを他国の使者の前でやると言うことは、腹立たしい事にレーカという存在を牽制に使うつもりなんだろう。
あの国の存在は確かにハンザにとってもノイマン公国にとっても重要で、あの国なしでは成り立たない貿易をしてきた。
今までは。
地理的な問題を考えても、これ以降も貿易の橋渡しをしてもらうつもりだった。
あの瞬間までは。
僕はレーカが好きだ。彼女にずっと恋をしている。
でも彼女は僕を望まないから、だから彼女が望む相手と結ばれるなら構わなかった。
彼女が幸せになるのならば、どこの誰との結婚だって祝福しようと、思ってたんだ。
なのに、なのに……!
「クーリィ、ここ5ミリズレてる。あとこっち15°歪みがあるから直してて」
「へいへい」
許せない。あんなに頑張ってるレーカを利用しようだなんて許せない。
シモン・ロッツランド。彼の事は絶対に許さない。
「ガンダー、ここの金具青鉄じゃないよ。全部入れ替えるって話だろ?」
「足りねぇんだよ、急に作業急かされてっから」
「急かすって言ったってひと月前倒しするってだけだろ?」
「誰しもがお前みてぇに超人じゃねえんだ。普通の人間にゃあ無理だよ」
「じゃあ人を増やしてもらうから」
「アホか!ちょっと冷静になれや!」
目の前の、無限にも感じる海がとても小さいのだという事も、知った。
だから体を張って国を守ろうと思っていたのに。
シモン様は、正義や信条からではなく、ただ利益の為に我が国へ婿入りしようと考えてらっしゃるというのだ。
たった目と鼻の先に、こんなにも理解し難い人間がいるなどと。
予想もしていなかった。予想できるはずもなかった。
「お受けいただけますよね?」
取り立てる事でもないかのように、平然と仰る姿に嫌悪感さえ覚えた。
まるで正体の分からない生き物と対峙したかのように、喉の奥が張り付く。
「そ、れは……」
「あぁ、妻としての義務を果たして下されば、浮気はしても構いませんよ。私はしませんが」
「は……?」
「悩まれる理由はハンザ公国のシュン王子でしょう?良いですよ、情夫の一人くらい」
「……待て」
「素性も明らかですし、ハンザ公国との仲は保っておきたい。血だけは混ざらぬようにしてもらいたいですが」
「待て!」
ようやく動きを止めた煩い口。
代わりにニィと意地悪く笑う顔を、ぶっ飛ばしてやりたいと思った。
「私を愚弄する気か……?」
「いいえ、ご提案です。貴女が正しい選択を取れるよう、貴女のご希望を叶えて差し上げるというご提案をしております」
握ろうとした拳は既に固く握られていて、ギリッと言う音で歯を噛み締めていた事に気付いた。
気付いたところで、止まらなかった。
シモン様に詰め寄って、胸ぐらを掴んでいた。
ダンッと、言う音と共に、シモン様の体が壁に叩きつけられる。
叩きつけたのはもちろん私だ。
「貴様……!」
「何かおかしなことを申し上げましたか?」
いけしゃあしゃあと、ここまで来ても私を煽り立てる男に、悪態をつこうとして。
つけなかった。
私を映す金が、そんな事をしてもいい相手ではない事を思い出させたから。
「これで終わりなら離して頂いても?」
僅かな時間でも我を忘れるほどに私を支配した怒りが、未だ嵐のように胸の中で渦巻いていた。
嵐に流される事も出来た。その方がきっと楽だった。
けれども私は、嵐を越える術を知ってしまっていた。
胸元に下げた木片の柔らかさを、腰に括り付けた鉄の美しさを、想いながら腕の力を緩める。
私には、私の感情より大切なものがあるから。
だから手のひらを解いて、腕を引く。
守りたい者達の為に。
「これは、交渉成立と思っても良いですね?レーカ姫」
クソみたいな男に良いように利用される未来。
であっても、この国を、あいつを守れるのであれば私は……。
------
レーカの誕生日パーティーは夢のような時間だった。
ご丁寧にも、わざわざサプライズで船で乗り付けてまでして夢の終わりを持ってきてくださったのは、ロッツランド王国第二王子シモン・ロッツランド様。
でも、まあ、それくらいならまだ許せた。
そもそもあのパーティーだって、レーカの政策のひとつみたいだったし。僕たちノイマンの王族を招いたのも政治利用する為だろうし。察した別の国からの圧力があるかもしれないところまでは想定してたから。
だからレーカが直々にお出迎えしたのまでは許せた。
その後、僕とのダンスを再開しようとしたのを遮ってレーカとダンスをし始めたのも、ギリギリ許せた。
本当にギリギリだけど、許せた。
けど問題はその後。あの人、あろう事か跪いてレーカに薔薇を、しかも白の、1本でうちのひと月の国家予算位する値段の真っ白な薔薇を手渡してくれて。
その上、レーカに受け取ってもらったりなんかされちゃって。
いくら商業国家とはいえ、あれほどまでに高価な薔薇を易々とどうでもいい国に渡すわけはない。
加えてあのパフォーマンス。成人したての女性に公衆の面前で恥ずかしげもなく行う行為は、自信と確証があるからこそだろう。
となれば、とても許し難いことにロッツランド王国はレーカとの政略結婚を望んでいるという事になる。
それを他国の使者の前でやると言うことは、腹立たしい事にレーカという存在を牽制に使うつもりなんだろう。
あの国の存在は確かにハンザにとってもノイマン公国にとっても重要で、あの国なしでは成り立たない貿易をしてきた。
今までは。
地理的な問題を考えても、これ以降も貿易の橋渡しをしてもらうつもりだった。
あの瞬間までは。
僕はレーカが好きだ。彼女にずっと恋をしている。
でも彼女は僕を望まないから、だから彼女が望む相手と結ばれるなら構わなかった。
彼女が幸せになるのならば、どこの誰との結婚だって祝福しようと、思ってたんだ。
なのに、なのに……!
「クーリィ、ここ5ミリズレてる。あとこっち15°歪みがあるから直してて」
「へいへい」
許せない。あんなに頑張ってるレーカを利用しようだなんて許せない。
シモン・ロッツランド。彼の事は絶対に許さない。
「ガンダー、ここの金具青鉄じゃないよ。全部入れ替えるって話だろ?」
「足りねぇんだよ、急に作業急かされてっから」
「急かすって言ったってひと月前倒しするってだけだろ?」
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