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第3章 傲慢な願い
19話 明確な拒絶
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ガンダーに今日の作業は禁止をされてしまったので、仕方なく城に戻った。
でも結果としてそれはとても良いタイミングで、何故かと言うとノイマン公国の方々がいらしていたから。
両陛下とお話中との事で、僕は自室へ戻るしかなかったけれど、終われば話の内容は教えてもらえるからとりあえず仮眠を取ることにした。
そしてハルナに起こされたのが昼過ぎ。
用意してもらった昼食を急いで食べて支度を整えて中庭に行くと、レーカが待っていてくれた。
「お待たせ!」
嬉しくてレーカしか見えていなかったけど、何故かその場には先生もいた。
僕の剣の師で、レーカの剣の師でもあるコンシュート・ハヤセ先生。
ハヤセ姓の示す通り一応うちの国民だけど、ノイマン公国でも剣を教えているこの島イチの剣豪だ。
「あ、お話中でしたか?」
「いいえ、終わりました。ではレーカ嬢、シュン様、失礼いたします」
背が高くスッとした銀髪の老剣士。
でも恭しく頭を下げる姿はベテラン執事みたいで、彼が剣士だと知らない人もいるらしい。
僕も先生みたいに格好いい感じに歳を取れると嬉しいんだけど。
先生の後ろ姿を見送り、レーカに視線を戻すと彼女はまだ先生が去った方向を見ていた。
困惑したような表情。いつも大人びてるレーカの、幼さの残るような表情は新鮮で、可愛かった。
見蕩れる僕の前で、レーカは目を閉じて、開きながらこちらを見た。
迷っているように揺れる胡桃色の瞳。ぎゅっと閉じた唇。
そして彼女は剣を抜いた。
細く短い女性用の剣を。
「勝負だシュン。剣を抜け」
キラリと光る切っ先が僕に向けられる。
なのに君の瞳は、まだ揺れていた。
「今から?」
「あぁ、その腰にあるのは飾りじゃないだろ?」
念の為と、正装に近い格好をしていた。
だから帯刀していたのは、いつもの、レーカとの仕合で使う練習用の剣じゃなかった。
「早く抜け」
怒ったような声に急かされて渋々抜いた剣は、陽の光の下で青白く光る。
鉄も切れる青鉄でてきた剣だから。
だから抜きはしても構えられずにレーカの様子を伺った。
レーカが何を考えてるか理解したくて。
でも君は構えをとる。
何かを焦っているかのように。
「これで最後にしようシュン」
「え?」
「私とお前の最後の勝負だ。本気でかかってこい」
「最後……って?」
「いくぞ」
「え、あっ……!」
駆け出したレーカはそのまま上方から剣を振り下ろす。
受け、たら駄目だ。折れちゃう。
後ろに飛びのいて避けると、レーカの剣は顔の高さでそのまま突きに転じた。
「わっ……と」
急遽左にステップを踏むと、剣が追いかけてくる。
頭を下げ、いや後ろに……!
大きく後ろに飛び退きながら、剣を目の前に構えた。追撃に来たら叩き落とすつもりで。
そしたら流石にレーカは追って来なくて、崩れた体勢を整えながらまた剣を構え直していた。
「ねぇレーカ」
「本気で来い!」
レーカが吠えて、また斬りかかってくる。
今度はしゃがんで下段、足を狙ってきて。
後ろに飛んで、跳ね上がってきた剣を身を捩って躱して、柄頭の打撃を腕で受けて、押し返そうと思ったらバランスを崩してよろけてしまって。
そしたら蹴りが襲ってきた。
剣の腹で受けたけど、衝撃を殺すために地面を転がって、直ぐに起き上がった。
「ねぇレーカ、どうしたの?」
「本気で、来い……!馬鹿!」
息を切らしながら、またレーカが飛びかかってくる。
その目に、光る雫が見えた。
動揺してしまって、判断が遅れた。
レーカが振り下ろす剣を避ける余裕がなかった。
僕の剣を掲げて、レーカの剣を受け止めた。
そのせいで、重い手応えと同時に硬い音がして、レーカの剣が折れた。
折れてしまった。
「あ、ごめ……っ!」
反射的に謝ろうとした僕は、体に衝撃を受けて地面に倒れ込んだ。
レーカの体当たりだって、倒れながら気付いた。だから君が怪我をしないように抱きとめて。
顔を上げた君は、僕に折れた剣を突きつけた。
酷く痛そうな、顔をしながら。
「私の勝ちだ」
「レーカ……」
「遊びは終わりだ。もう二度とな」
「待ってレーカ」
起き上がり、背を向けて、君が行ってしまう。
行ってしまう。
「待って、待ってレーカ!」
勝ったのに、何も要求せずに、振り返らずに行ってしまう。
「ねぇ!レーカ!待ってレーカ!」
君に必要とされたくてここまで来たのに。
なのに君が行ってしまう。
「レーカ!!」
慌てて起き上がり、足がもつれながら追いかけた。
追いかけて、君の手に……。
「来るな!」
明確な拒絶の言葉に、体が凍りついた。
凍りついたまま、君が去っていくのを見ている事しか出来なかった。
でも結果としてそれはとても良いタイミングで、何故かと言うとノイマン公国の方々がいらしていたから。
両陛下とお話中との事で、僕は自室へ戻るしかなかったけれど、終われば話の内容は教えてもらえるからとりあえず仮眠を取ることにした。
そしてハルナに起こされたのが昼過ぎ。
用意してもらった昼食を急いで食べて支度を整えて中庭に行くと、レーカが待っていてくれた。
「お待たせ!」
嬉しくてレーカしか見えていなかったけど、何故かその場には先生もいた。
僕の剣の師で、レーカの剣の師でもあるコンシュート・ハヤセ先生。
ハヤセ姓の示す通り一応うちの国民だけど、ノイマン公国でも剣を教えているこの島イチの剣豪だ。
「あ、お話中でしたか?」
「いいえ、終わりました。ではレーカ嬢、シュン様、失礼いたします」
背が高くスッとした銀髪の老剣士。
でも恭しく頭を下げる姿はベテラン執事みたいで、彼が剣士だと知らない人もいるらしい。
僕も先生みたいに格好いい感じに歳を取れると嬉しいんだけど。
先生の後ろ姿を見送り、レーカに視線を戻すと彼女はまだ先生が去った方向を見ていた。
困惑したような表情。いつも大人びてるレーカの、幼さの残るような表情は新鮮で、可愛かった。
見蕩れる僕の前で、レーカは目を閉じて、開きながらこちらを見た。
迷っているように揺れる胡桃色の瞳。ぎゅっと閉じた唇。
そして彼女は剣を抜いた。
細く短い女性用の剣を。
「勝負だシュン。剣を抜け」
キラリと光る切っ先が僕に向けられる。
なのに君の瞳は、まだ揺れていた。
「今から?」
「あぁ、その腰にあるのは飾りじゃないだろ?」
念の為と、正装に近い格好をしていた。
だから帯刀していたのは、いつもの、レーカとの仕合で使う練習用の剣じゃなかった。
「早く抜け」
怒ったような声に急かされて渋々抜いた剣は、陽の光の下で青白く光る。
鉄も切れる青鉄でてきた剣だから。
だから抜きはしても構えられずにレーカの様子を伺った。
レーカが何を考えてるか理解したくて。
でも君は構えをとる。
何かを焦っているかのように。
「これで最後にしようシュン」
「え?」
「私とお前の最後の勝負だ。本気でかかってこい」
「最後……って?」
「いくぞ」
「え、あっ……!」
駆け出したレーカはそのまま上方から剣を振り下ろす。
受け、たら駄目だ。折れちゃう。
後ろに飛びのいて避けると、レーカの剣は顔の高さでそのまま突きに転じた。
「わっ……と」
急遽左にステップを踏むと、剣が追いかけてくる。
頭を下げ、いや後ろに……!
大きく後ろに飛び退きながら、剣を目の前に構えた。追撃に来たら叩き落とすつもりで。
そしたら流石にレーカは追って来なくて、崩れた体勢を整えながらまた剣を構え直していた。
「ねぇレーカ」
「本気で来い!」
レーカが吠えて、また斬りかかってくる。
今度はしゃがんで下段、足を狙ってきて。
後ろに飛んで、跳ね上がってきた剣を身を捩って躱して、柄頭の打撃を腕で受けて、押し返そうと思ったらバランスを崩してよろけてしまって。
そしたら蹴りが襲ってきた。
剣の腹で受けたけど、衝撃を殺すために地面を転がって、直ぐに起き上がった。
「ねぇレーカ、どうしたの?」
「本気で、来い……!馬鹿!」
息を切らしながら、またレーカが飛びかかってくる。
その目に、光る雫が見えた。
動揺してしまって、判断が遅れた。
レーカが振り下ろす剣を避ける余裕がなかった。
僕の剣を掲げて、レーカの剣を受け止めた。
そのせいで、重い手応えと同時に硬い音がして、レーカの剣が折れた。
折れてしまった。
「あ、ごめ……っ!」
反射的に謝ろうとした僕は、体に衝撃を受けて地面に倒れ込んだ。
レーカの体当たりだって、倒れながら気付いた。だから君が怪我をしないように抱きとめて。
顔を上げた君は、僕に折れた剣を突きつけた。
酷く痛そうな、顔をしながら。
「私の勝ちだ」
「レーカ……」
「遊びは終わりだ。もう二度とな」
「待ってレーカ」
起き上がり、背を向けて、君が行ってしまう。
行ってしまう。
「待って、待ってレーカ!」
勝ったのに、何も要求せずに、振り返らずに行ってしまう。
「ねぇ!レーカ!待ってレーカ!」
君に必要とされたくてここまで来たのに。
なのに君が行ってしまう。
「レーカ!!」
慌てて起き上がり、足がもつれながら追いかけた。
追いかけて、君の手に……。
「来るな!」
明確な拒絶の言葉に、体が凍りついた。
凍りついたまま、君が去っていくのを見ている事しか出来なかった。
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