君の国と僕の国

藤ノ千里

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第3章 傲慢な願い

20話 この国のやり方

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 レーカが行ってしまった後、やはりロッツランド王国から婚約の申し出があったのだと言う話を聞いた。
 状況から考えて断ることはないだろうというのは、言わずもがなだった。
 僕は、無力感に支配されていた。
 何も出来なくて、全部無駄になって、その上拒絶されて。
 その上、1週間後には返答のためにレーカがロッツランド王国に行くのだと言う。
 行ってしまうのだと言う。
「あら不細工な顔ですこと」
「……うん」
「セーラン様の所へそのお顔で行く気ですか?」
「……うん」
 レーカ。僕の太陽。
 君以上に輝かしい存在なんて、僕の世界にはないのに。
 君がいないと、夜が明けないのに。
「じゃあ行ってらっしゃい」
「……うん」
 打ちひしがれた抜け殻の体で城を出て、街へ。
 少し入り組んだ街を歩く間も、この前のレーカの拒絶の言葉がのしかかり続けていた。
 重い足、重い体で役場の建物に入り、別棟へ向かう。別棟へ続く扉をくぐると、予想外の人物と行き会った。
「シケたツラだな」
「あれ、ヨーキ」
「ヨッ」
 トレードマークのサングラスにぴっちりと撫で付けた髪という、変わったファッションを好むヨーキは、植物省勤めの有望株。
 そろそろハヤセ姓も卒業するだろうと言われている期待の新人だ。
「こっちに何か用事?」
「アー、あれ。言葉……ツーヤク?に来た」
「あぁ、なるほど」
 そう言えばヨーキはじん国出身で、セーラン様と同胞なのか。
 セーラン様にもこっちの言葉は大抵通じるけど、細かい意思疎通の為にヨーキが通訳してくれたって感じか。
「ご苦労さま」
「また油、買うか?」
「うん……もし必要になったら依頼するね」
 ヨーキの作る油は不純物が少なくて質が良い。だからあれを作る為にはもう少し必要だけど……。
「シケたツラ、又負けたか?」
「うん……」
「薬もルか?ホレ薬」
「そういうのはうちでも違法だって……え?ヨーキもしかして……!」
「ジョーダン」
 ニヤリと大きな口で笑うヨーキは、本当に冗談なのか本気なのか全然分からない。それに前歴があるだけに、やろうと思えばやりそうだ。
 植物省の大臣に報告を……いや、それは良くないか。
 元の名を捨て、この国で生き直す事を誓ってハヤセ姓を受け取った人に対して、過去を持って疑うのはご法度だ。
 だから信じる。ヨーキの事も。
「その冗談笑えないからね」
「ダろ?」
 カーッという笑い声を上げながら、ヨーキは帰って行った。
 彼って本当に変わり者だ。天才と変人が紙一重って、本当だったんだなぁ……。


 ヨーキのお陰でちょっとだけ気分が持ち直して、ちょっとだけマシな顔で戸を叩く。
 返事が聞こえて戸を開けると、部屋の中ではセーラン様が待ち受けてらっしゃった。
「こんにちは、星藍セイラン様」
「こんにちはシュン様。お待ちしておりました」
 仁国特有の、体に張り付く様な服に身を包んできちんと座られているセーラン様は、仁国の第3王女であられるお方。
 だから僕であっても多少は気を遣う。
「星藍様。どうか僕の事はシュンと」
「それでしたら私の事もセーランと、この国の呼び方でお呼びください」
 御歳16であられるが、あちらの国では結婚適齢期と聞いた。
 けれどセーラン様は子どものように拗ねた顔をされた。
「分かりましたセーラン様。ですが、であっても、貴女様をこの国に受け入れる事はできませんよ」
「……それはもう聞き飽きましたわ。そう何度も仰らないでくださいませ」
 日当たりの良い部屋の中は、今やセーラン様の私物で溢れている。
 元々必要最低限の物しか置いていなかった状態だったからそこまで荷物を増やされても困るのだけど、半年も滞在されていればいたし方ない。
 あれ?でも、今日はお付きの人がいないな……。
「それで、ご帰国の支度は済まれたのですか?」
「……シュン様はそんなに私に帰って欲しいのですか?」
「え?」
 会話がいまいち噛み合わないような、座りの悪さ。
 明後日にはノイマン公国経由で出国される予定だから、今日呼ばれたのもてっきり別れの挨拶だと思ったのに。何故……?
「えと、仁国の方々が心配されてるだろうから早く帰った方が良いとは思いますが……」
「シュン様は?シュン様のお気持ちはどうなのですか?」
「僕……?」
 セーラン様の目元はいつもキラキラなお化粧をされているから気づかなかったけど、目が潤んでいるようにも見えた。
 瞳が黒いし光が差し込むせいで見間違いかもしれないけど。
「どういう意味でしょうか?」
 仁国とはこれからも付き合いがある予定だし、セーラン様はその仲介を担うとお約束してくださっているから、今生の別れになる事はないはずだ。
 深窓の姫君であるセーラン様も、一刻も早く帰国を望まれていると思っていたのに……。
「お分かりになられない?」
「はい……」
「本当に?」
 船旅への不安は解消されたと聞いていたし、お気に入りの練り香水もいくつもお渡ししたはずだし。
 心残りはないはずなんだけどなぁ。
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