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第3章 傲慢な願い
21話 望むこと
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いっそクーリィにでも相談するかなぁ、なんて思いつつ、窓の外に目をやる。
風にはためく見事な刺繍のカーテンは、仁国のもの。このレースを使ってドレスを作ったら、君は着てくれるだろうか。
なんて思っていたら、駆け寄ってくる影があった。
避けようと思ったけれど、それがセーラン様だと気づいて抱きとめた。
僕の胸元に顔を押し付けて、か弱い腕で僕に抱きついて、そんなセーラン様は理想通りのお姫様の姿なんだろうとぼんやりと思った。
「お慕いしているのですシュン様」
無理に引き剥がそうとしたら傷つけてしまいそうなほど細い、首と肩。
透き通った肌は、彼女が大切にされてきた証。
絹のような髪は、海風や日に晒されてたなびいた事もないんだろう。
「どうか私を、貴方様の妻にしてくださいませ」
震えるか細い声が、嘘では無いと告げていた。
こんな風に告白されて、きっと普通の男性なら嬉しく思うんだろう。
僕ではない、普通の男性であれば。
「申し訳ありませんセーラン様」
「いや……!嫌です……!」
「僕はこの身の全てを捧げたい人がいるんです」
「そ、それでも、構いません……!」
「いいえ、駄目です。セーラン様」
縋り付くセーラン様の姿に、「困った」以上の感情が湧かない僕はきっとおかしいんだと思う。
「この身を捧げる為に、余計な物は邪魔になってしまうんです」
この国に生まれた国民は、何かを突き詰める能力に秀でていることが多い。けれどそういう人は、代わりに人としてどこか欠けている。
だから僕はきっと、ハンザ公国でなければ生きていけなかったと思う。
「どうかご理解ください。星藍姫」
勘違いさせないように触れることもせずにセーラン様を宥めて。宥め続けて小一時間。
やっと開放された時には、セーラン様の香水の匂いが服に染み付いてしまっていた。
------
パーティーの翌日、客人らを乗せて帰国されたシモン様が残されて行ったのは、ロッツランド国王の署名入りの書簡。
婚約のお申し込みだ。
ロッツランド王国から我がノイマン公国への、格式ばった正式な。
シモン様が口にされていた計画はそのほとんどが記載されてはおらず、「友好を深めたい」旨と、「両国間で保有する技術の交流をしたい」旨の回りくどい御託が並んでいた。
私と共に目を通した陛下は、「お前の考えを聞きたい」とおっしゃった。
私は「これ以上ない好機かと思います」と、答えた。
「本当に良いのか?1度申し出を受ければこちらからの撤回は難しいぞ」
陛下はお父様としてなおも聞いて来られた。
その表情が、初めてこの方に謁見した時の、あの質問をされた時と重なって。
どうしてだか、苦しくなった。
ロッツランド王国へ返答をする前に、正式な形でハンザ公国を訪問した。
両陛下と私で、かの国から婚約のお申し入れがあり、それをお受けするという話をする為に。
ロッツランド王国が求めるのは我がノイマンの航海力のみである為、ハンザ公国の貿易等の中継は今後も変わりなく行う事。婚姻となった場合でも私が女王となり実権を握る為、やはりハンザ公国との外交へは影響がないよう務める事。
しかし、ハンザ公国に造船を依頼していた船は、現在造船中の物までしか引取りを保証できない事。
そういった諸々を、ノイマン公国とハンザ公国として正式に会談した。
だからシュンは、正式な皇太子でないあいつは同席を許されなかった。
会談が終わると、両陛下のみ先に帰国して頂き、私は中庭にて休憩を取らせてもらう事にした。
特に意味はなく、ただ何となく、だ。
するとそこに、少し懐かしい方がいらっしゃったんだ。
「おくつろぎの所失礼します」
「先生!」
ハンザ公国一の剣豪であられ、我がノイマン公国にも時折剣の指導に来て下さるコンシュート先生。
お会いするのは2年ぶりだった。
「お久しぶりです。レーカ嬢」
「ご無沙汰してます。お元気でしたか?」
「えぇ、お陰様で」
姿勢正しく佇みながら、所作の細部まで洗礼されている先生は、かつては他国の貴族の身分でいらっしゃったと聞いた事がある。
今はハンザ公国のいち市民。
いや、王より金賞を頂いているから、階級としては職人になるんだったか。
あの国の身分制度は不可解だ。あえてそうしているようにも見えるほどに。
「レーカ嬢はお綺麗になられましたな。すっかりレディであられる」
「本当にそう思われますか?」
懐かしさから思わず子どもじみたことを言ってしまい、慌てて目を逸らした。
何を言っているんだ私は。
「いえ、今のは……」
「容姿を気にされておいでで?」
ノイマンの国民ではなく、ハンザ公国に身を置きながらも誰とも交わらない先生。
どこか浮世離れしたこの方の前では、自分が酷くちっぽけに思えてしまう。
風にはためく見事な刺繍のカーテンは、仁国のもの。このレースを使ってドレスを作ったら、君は着てくれるだろうか。
なんて思っていたら、駆け寄ってくる影があった。
避けようと思ったけれど、それがセーラン様だと気づいて抱きとめた。
僕の胸元に顔を押し付けて、か弱い腕で僕に抱きついて、そんなセーラン様は理想通りのお姫様の姿なんだろうとぼんやりと思った。
「お慕いしているのですシュン様」
無理に引き剥がそうとしたら傷つけてしまいそうなほど細い、首と肩。
透き通った肌は、彼女が大切にされてきた証。
絹のような髪は、海風や日に晒されてたなびいた事もないんだろう。
「どうか私を、貴方様の妻にしてくださいませ」
震えるか細い声が、嘘では無いと告げていた。
こんな風に告白されて、きっと普通の男性なら嬉しく思うんだろう。
僕ではない、普通の男性であれば。
「申し訳ありませんセーラン様」
「いや……!嫌です……!」
「僕はこの身の全てを捧げたい人がいるんです」
「そ、それでも、構いません……!」
「いいえ、駄目です。セーラン様」
縋り付くセーラン様の姿に、「困った」以上の感情が湧かない僕はきっとおかしいんだと思う。
「この身を捧げる為に、余計な物は邪魔になってしまうんです」
この国に生まれた国民は、何かを突き詰める能力に秀でていることが多い。けれどそういう人は、代わりに人としてどこか欠けている。
だから僕はきっと、ハンザ公国でなければ生きていけなかったと思う。
「どうかご理解ください。星藍姫」
勘違いさせないように触れることもせずにセーラン様を宥めて。宥め続けて小一時間。
やっと開放された時には、セーラン様の香水の匂いが服に染み付いてしまっていた。
------
パーティーの翌日、客人らを乗せて帰国されたシモン様が残されて行ったのは、ロッツランド国王の署名入りの書簡。
婚約のお申し込みだ。
ロッツランド王国から我がノイマン公国への、格式ばった正式な。
シモン様が口にされていた計画はそのほとんどが記載されてはおらず、「友好を深めたい」旨と、「両国間で保有する技術の交流をしたい」旨の回りくどい御託が並んでいた。
私と共に目を通した陛下は、「お前の考えを聞きたい」とおっしゃった。
私は「これ以上ない好機かと思います」と、答えた。
「本当に良いのか?1度申し出を受ければこちらからの撤回は難しいぞ」
陛下はお父様としてなおも聞いて来られた。
その表情が、初めてこの方に謁見した時の、あの質問をされた時と重なって。
どうしてだか、苦しくなった。
ロッツランド王国へ返答をする前に、正式な形でハンザ公国を訪問した。
両陛下と私で、かの国から婚約のお申し入れがあり、それをお受けするという話をする為に。
ロッツランド王国が求めるのは我がノイマンの航海力のみである為、ハンザ公国の貿易等の中継は今後も変わりなく行う事。婚姻となった場合でも私が女王となり実権を握る為、やはりハンザ公国との外交へは影響がないよう務める事。
しかし、ハンザ公国に造船を依頼していた船は、現在造船中の物までしか引取りを保証できない事。
そういった諸々を、ノイマン公国とハンザ公国として正式に会談した。
だからシュンは、正式な皇太子でないあいつは同席を許されなかった。
会談が終わると、両陛下のみ先に帰国して頂き、私は中庭にて休憩を取らせてもらう事にした。
特に意味はなく、ただ何となく、だ。
するとそこに、少し懐かしい方がいらっしゃったんだ。
「おくつろぎの所失礼します」
「先生!」
ハンザ公国一の剣豪であられ、我がノイマン公国にも時折剣の指導に来て下さるコンシュート先生。
お会いするのは2年ぶりだった。
「お久しぶりです。レーカ嬢」
「ご無沙汰してます。お元気でしたか?」
「えぇ、お陰様で」
姿勢正しく佇みながら、所作の細部まで洗礼されている先生は、かつては他国の貴族の身分でいらっしゃったと聞いた事がある。
今はハンザ公国のいち市民。
いや、王より金賞を頂いているから、階級としては職人になるんだったか。
あの国の身分制度は不可解だ。あえてそうしているようにも見えるほどに。
「レーカ嬢はお綺麗になられましたな。すっかりレディであられる」
「本当にそう思われますか?」
懐かしさから思わず子どもじみたことを言ってしまい、慌てて目を逸らした。
何を言っているんだ私は。
「いえ、今のは……」
「容姿を気にされておいでで?」
ノイマンの国民ではなく、ハンザ公国に身を置きながらも誰とも交わらない先生。
どこか浮世離れしたこの方の前では、自分が酷くちっぽけに思えてしまう。
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