聖女の私にできること第五巻

藤ノ千里

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第一章 江戸城にて

第十話 追及

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「んで、あたしたちは急に小瑠璃が江戸城に泊まることになったって事しか聞かされてないんだけど、それについて説明してくれんだろ?」
 昨日吉家様と二人きりにされた後、玄さん、智久さんとは合流させてもらえなかったのだ。
 でもこうやって会いに来ることは許されてるんだから、縛り付けたい訳ではなさそうだ。
 少なくとも、今は。
「えっと、あんまり詳しくは言えないのですが・・・」
 お偉いさんに関連する情報はどこまでがセーフでどこからがアウトなのかがよく分からない。
 なので、めちゃくちゃぼかして伝えることしかできなかった。
「以前上様と面識があって、それで今回お話相手になって欲しいとの事でした」
「何だいそりゃあ」
 案の定のツッコミに肩をすくめて答える。
 これ以上は誤魔化しがきかなくなりそうだから口にできない。何もできずにただ宿に泊まり続けるしかできない智久さんには申し訳ないけれど、私だって被害者なのだ。
「智久さん、港で待っていてくれる船には帰ってもらってください」
「帰りは如何されるのですか?」
「用意してもらえるらしいです」
 玄さんと違って無駄口の少ない智久さんは「承知」とだけ言って納得してくれた。
 納得、というか、追及しないでくれたというのが正しいか。
 この人、口数が最小限なだけで実は過保護だからな・・・。
「ねぇ小瑠璃」
「なんですか?」
 変な顔の玄さんは、首をぐるりと回してから私を見た。やはり変な顔のままで。
「あたしさ、鹿谷でとある噂を聞いちゃったんだけどさ」
「そうですか」
「なんでもね、上様のお手付きの娘がいるって話でさ」
「そうなんですね」
「あれってあんたかい?」
「私、手は付けられてないですね」
「そのお手付きの娘が、上様のお子を宿してるっていうのも聞いたんだけどさ」
「手を付けられてないので、子どももいないですね」
 この件について追及されるであろうことは想定済みだったから、想定通りの受け答えだった。
 それが納得いかなかったんだろうね。玄さんはずっと変な顔のままだったから。
「あんたが前言ってた権力って、上様に気に入られてるって事かい?」
「違いますね」
「んじゃあ、なんでこんな事になってんのさ」
「それは上様に聞いてくださいよ」
 お供の方を目で示すと、さすがに玄さんも黙ってくれた。
 情報は重たいのだ。
 うっかり口にした一言で、このお供が刀を抜くことになる可能性だって、十分にある程には。


 事情は話したし、智久さんの宿代や食事代はお上が出してくれるという事だしで、お昼ご飯の時間には江戸城へと戻った。
 外出する条件として「ご飯は江戸城で食べること」があったせいだ。
 そして、やっぱり豪華なご飯を食べ終わると、吉家様のお部屋へと呼び出される。
 彼のお部屋にいたのは、彼だけじゃなかった。克信様と、玄さんまでもが神妙な顔で座っていたのだ。
 その面子だけで何を話すのかは察してしまう。密貿易船について、なんだろうな。
 玄さんの隣に座ると、彼は何とも言えない顔をしていた。
 正面の吉家様の目の前には木村先生からの信書が広げられていて、昨日読んだはずなのにまた読み返したらしい。
「この文をそなたも読んだか?」
 仕事モードなのか、吉家様の声には重厚感があった。
 二人きりの時は、もっと穏やかな感じなのにな・・・。
「私、字が読めないんです」
「そうか。・・・これは木村殿の直筆じゃな?」
「はい」
 木村先生に限って、内容に粗相そそうは無いはずだ。
 だったら誤字とかだろうか?そんな粗を探すようなこと、する人じゃないと思うけど。
くだんの船の乗員へ治療を施したとあるが、これは?」
「それ、は・・・」
 そうだった。それがあった。
 開腹手術の事後承認を得るという大きな課題があったんだった。
 木村先生の前では啖呵をきったけど、どうやって交渉するか全く考えてなかった。
 克信様の視線が痛い。
 でも不思議と、吉家様の視線は痛くなくて。
 だから、聖女としてではなく、私のままで答えていた。
「私の判断です」
「そなたの?」
「弾を取り出さないと患者の命が危なかったのですぐに治療すべきだと判断しました」
「弾?」
「はい」
「何の弾だ?」
「え・・・?」
 吉家様の表情は変わらなかったけど、克信様の方を伺うと難しい顔をされていた。
 まるで私の言葉が、初めて聞く内容だとでも言うように。
 吉家様の方へ視線を戻したけど、やはり彼の表情は読めそうにない。
 心を、読むか?
 いやでも、それは知ってはいけないことを知ることに繋がりかねない。
 機密にでも触れてしまえば、それこそ帰れなくなる。
「何か騒動があったのか?」
「あの・・・」
「あったのだな?」
「・・・はい」
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