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第二章 心が向かう先
第二十話 木村先生
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「お邪魔いたします」
その男性は、渋い感じのおじ様って感じで、同源先生と同じ白衣を来ていた。
白衣に着いた汚れから、今の今まで患者の治療をしていた事が分かった。
でも、渋い顔には柔和な微笑みが浮かんでいて、その微笑みはよく似ていたのだ。
「私は奥医師の木村玄信と申します。小瑠璃様というのは貴方ですな?」
そう、木村大先生こと木村玄燈先生に、よく似ていたのだ。
「はい」
背筋がピンと伸びた佇まいも木村先生にそっくりで、少し若返った木村先生って感じ。
まぁ、この人も木村先生ではあるんだけどね。
「わざわざ私に会いに来てくださったと伺いました」
言いながら、玄信先生は私の前に腰を下ろした。その一つ一つの動作も木村先生とそっくりで、なんだか少し面白い。
「はい。昨日、急用でお会いすることが出来なかったので」
そう言うと、玄信先生は目を見張った。
あれ?昨日会う予定だったはずなのに、知らなかったとか?
そんな訳ないんだけどなぁ。
なんて思ったのもつかの間。
「では貴方が上様の意中のお方なのですか?」
「え」
ありえない単語が玄信先生の口から聞こえてきて、我が耳を疑った。
「何ですかそれ」
「上様より『惚れた相手である故丁重に相手せよ』と言付かりましたので」
「え、えぇ~・・・」
確かに、江戸城内での私の扱いってやり過ぎじゃない?って思うこともあるくらいだったし、大袈裟に言われてるんだろうなとは思っていた。
けど、けどまさか、どストレートに「惚れた相手」なんて言って回ってるなんて・・・。
将軍様の惚れた相手なんて言われればそりゃああれだけ丁重に扱われるか。
納得は出来たけど・・・でもこう、あけすけ感が半端ない。
だって、私、江戸城内では「なかなか上様の好意を受け取らない謎の女」として認知されてるってことでしょ?
あの、どう考えてもプレイボーイな上様を手のひらで転がしてる感じの女だと思われてるって事でしょ?
的外れではないけど風評が酷い。絶対聖女のイメージダウンに繋がってる。
これは吉家様に抗議しないとだな。
「違っておりましたか?」
「あー、んー、まぁ一旦その話は保留にしてください」
「分かりました。して、私をご所望の理由をお聞かせいただいても?」
少しお茶目さも感じられる笑みで、玄信先生は小首を傾げた。
なので、さっきまでの事は頭から追い出して、彼の目を真っ直ぐに見る。
「私、木村玄燈先生と一緒に働いていたんです」
「父と?!」
私の言葉に、ガタッと腰を浮かせるほど驚いて、しかも玄信先生は動揺しているようでもあった。
江戸城勤めの医師で、かつ苗字が木村だから木村先生のお子さんだろうとは思っていたけど、先生の名前を出すだけでこれほどまでに驚かれるとは。
でもその理由はすぐに分かった。
「生きて、いたのですね」
言いながら玄信先生は腰を下ろす。
今度は心から安堵したような顔で。
「生きてって・・・?」
「行方が分からなくなっていたのです。ある日突然いなくなり書き置きもなかったので、てっきり母の後を追ったものかと思っておりました」
今度は私が驚く番だ。
普通に八ツ笠に転職したんだと思っていたのに、まさか身内に連絡していなかったなんて。
しかも後を追うって事は、奥さんを亡くされているのか。
この時代であれば歳的に珍しくはないだろうけど・・・。
「それで、今父はどちらに?」
「あ、今は鹿谷にいて、ふた月前までは八ツ笠だったんですけど」
「鹿谷というと・・・随分と遠いですな。そこで何を?」
「お医者さんとして働かれてますよ」
「医師、として・・・」
まるで噛み締めるように言いながら、玄信先生は目を閉じて天を仰いだ。
一瞬、泣くのかと思った。
でも、ぎゅと閉じた目の端から、涙はこぼれなかった。
「そう、ですか・・・良かった」
涙をこぼさずに泣いているような姿に、彼がどれだけ木村先生を心配していたかが伝わってくる。
こんな風に思ってくれる家族を置いて行方をくらますなんて、木村先生を知っている身としては信じられなくて。
だって先生はすごく人情深く懐も深い人だから、家族を悲しませたまま放っておくような人には思えなかったんだ。
思えなかったから、気になった。
そんな事をした理由が。
「あの、差し支えなければ聞いてもいいですか?」
玄信先生が、目を開きながらゆっくりとこちらを向く。
さっきよりもっと柔らかくなった笑みは、やっぱり木村先生に似ていた。
それから三時間ほど後。
「そなた、同源に気に入られたようだぞ」
なんて言う吉家様は、庭先に作られた雅な感じの座敷席に座ってらっしゃった。
ちなみに、昨日はなかったから昼間のうちに用意したんだろう。
お金持ちの娯楽って感じでちょっと引いちゃうかも。
まぁ、普段から豪遊してる訳ではなさそうだから、本当にちょっとだけだけど。
「便利に使われているだけですよ」
草履を脱いで上がると、既に飲み始めていた吉家様がお銚子をこちらに向けてくる。
飲めと、仰ってるんだろうけど、どうしたものか。
その男性は、渋い感じのおじ様って感じで、同源先生と同じ白衣を来ていた。
白衣に着いた汚れから、今の今まで患者の治療をしていた事が分かった。
でも、渋い顔には柔和な微笑みが浮かんでいて、その微笑みはよく似ていたのだ。
「私は奥医師の木村玄信と申します。小瑠璃様というのは貴方ですな?」
そう、木村大先生こと木村玄燈先生に、よく似ていたのだ。
「はい」
背筋がピンと伸びた佇まいも木村先生にそっくりで、少し若返った木村先生って感じ。
まぁ、この人も木村先生ではあるんだけどね。
「わざわざ私に会いに来てくださったと伺いました」
言いながら、玄信先生は私の前に腰を下ろした。その一つ一つの動作も木村先生とそっくりで、なんだか少し面白い。
「はい。昨日、急用でお会いすることが出来なかったので」
そう言うと、玄信先生は目を見張った。
あれ?昨日会う予定だったはずなのに、知らなかったとか?
そんな訳ないんだけどなぁ。
なんて思ったのもつかの間。
「では貴方が上様の意中のお方なのですか?」
「え」
ありえない単語が玄信先生の口から聞こえてきて、我が耳を疑った。
「何ですかそれ」
「上様より『惚れた相手である故丁重に相手せよ』と言付かりましたので」
「え、えぇ~・・・」
確かに、江戸城内での私の扱いってやり過ぎじゃない?って思うこともあるくらいだったし、大袈裟に言われてるんだろうなとは思っていた。
けど、けどまさか、どストレートに「惚れた相手」なんて言って回ってるなんて・・・。
将軍様の惚れた相手なんて言われればそりゃああれだけ丁重に扱われるか。
納得は出来たけど・・・でもこう、あけすけ感が半端ない。
だって、私、江戸城内では「なかなか上様の好意を受け取らない謎の女」として認知されてるってことでしょ?
あの、どう考えてもプレイボーイな上様を手のひらで転がしてる感じの女だと思われてるって事でしょ?
的外れではないけど風評が酷い。絶対聖女のイメージダウンに繋がってる。
これは吉家様に抗議しないとだな。
「違っておりましたか?」
「あー、んー、まぁ一旦その話は保留にしてください」
「分かりました。して、私をご所望の理由をお聞かせいただいても?」
少しお茶目さも感じられる笑みで、玄信先生は小首を傾げた。
なので、さっきまでの事は頭から追い出して、彼の目を真っ直ぐに見る。
「私、木村玄燈先生と一緒に働いていたんです」
「父と?!」
私の言葉に、ガタッと腰を浮かせるほど驚いて、しかも玄信先生は動揺しているようでもあった。
江戸城勤めの医師で、かつ苗字が木村だから木村先生のお子さんだろうとは思っていたけど、先生の名前を出すだけでこれほどまでに驚かれるとは。
でもその理由はすぐに分かった。
「生きて、いたのですね」
言いながら玄信先生は腰を下ろす。
今度は心から安堵したような顔で。
「生きてって・・・?」
「行方が分からなくなっていたのです。ある日突然いなくなり書き置きもなかったので、てっきり母の後を追ったものかと思っておりました」
今度は私が驚く番だ。
普通に八ツ笠に転職したんだと思っていたのに、まさか身内に連絡していなかったなんて。
しかも後を追うって事は、奥さんを亡くされているのか。
この時代であれば歳的に珍しくはないだろうけど・・・。
「それで、今父はどちらに?」
「あ、今は鹿谷にいて、ふた月前までは八ツ笠だったんですけど」
「鹿谷というと・・・随分と遠いですな。そこで何を?」
「お医者さんとして働かれてますよ」
「医師、として・・・」
まるで噛み締めるように言いながら、玄信先生は目を閉じて天を仰いだ。
一瞬、泣くのかと思った。
でも、ぎゅと閉じた目の端から、涙はこぼれなかった。
「そう、ですか・・・良かった」
涙をこぼさずに泣いているような姿に、彼がどれだけ木村先生を心配していたかが伝わってくる。
こんな風に思ってくれる家族を置いて行方をくらますなんて、木村先生を知っている身としては信じられなくて。
だって先生はすごく人情深く懐も深い人だから、家族を悲しませたまま放っておくような人には思えなかったんだ。
思えなかったから、気になった。
そんな事をした理由が。
「あの、差し支えなければ聞いてもいいですか?」
玄信先生が、目を開きながらゆっくりとこちらを向く。
さっきよりもっと柔らかくなった笑みは、やっぱり木村先生に似ていた。
それから三時間ほど後。
「そなた、同源に気に入られたようだぞ」
なんて言う吉家様は、庭先に作られた雅な感じの座敷席に座ってらっしゃった。
ちなみに、昨日はなかったから昼間のうちに用意したんだろう。
お金持ちの娯楽って感じでちょっと引いちゃうかも。
まぁ、普段から豪遊してる訳ではなさそうだから、本当にちょっとだけだけど。
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草履を脱いで上がると、既に飲み始めていた吉家様がお銚子をこちらに向けてくる。
飲めと、仰ってるんだろうけど、どうしたものか。
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