聖女の私にできること第五巻

藤ノ千里

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第六章 恋と愛の違い

第四十五話 恋バナ

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「いいえ、小瑠璃様のお為とあらばお美代は粉骨砕身にて務める覚悟ですので!」
「心強うございまする。ですがどうぞお体第一にてご無理はなさらぬように」
「はい!」
 道明様の隠しきれない色気はお美代さんにはノーダメージのようで、雰囲気の対比が凄い。
 お美代さんは清涼剤だ。絶対光来寺の空気の浄化に一役買ってる。
「そろそろ食べても良いです?」
「あぁ」
 三人で手を合わせて、ご飯の時間。
 実はこの面子でご飯を食べるのって初めてだ。
 お箸をとって、お茶碗を持ち上げて、煮物に手をつける。
 チラッとお美代さんを見ると、全く同じ動きだったみたいで面白くなってきちゃう。
「最近は託児所で困ってる事ない?」
「そうですね、みんな元気で良い子なので毎日が楽しいです!」
「そっか」
 お美代さんと話をするといつも元気をもらえるからありがたいなぁ。
「手は足りてる?」
「はい!十分過ぎるほどでありがたいです!」
「相変わらず誰か手伝いに来てくれるの?」
「そうなのです!最近は耕太ちゃんが手伝いに来てくれて」
「お兄ちゃんだもんね」
「はい!大張り切りです!」
 フフッと笑いながらご飯を頬張り、さてどう切り出したものかと考えながら咀嚼して。
 飲み込む時に道明様と目が合った。
 「どうする気だ?」と試すような視線。
 手助けはしてくれないんだろうけど、見せ物にされてるみたいでちょっと不服。
 これは私の手腕を見せつけてやらなくては。
「前、手伝いに来る僧がいるって言ってなかったっけ?木吉、だっけか?」
「あ、木吉様はお忙しいようですので最近は・・・」
「じゃあ手伝いは耕太君だけ?」
「いえ、一松様が頻繁にいらっしゃるので助かっております!」
 よしよし、上手く一松の話にできた。
「へぇ、一松は何手伝ってるの?」
「小さい子の遊び相手でしたり、汚れ物を持っていってくださったりと沢山お手伝い頂いていて大助かりなのです!」
 あら、一松そんなに献身的に手伝ってるなんて、可愛い奴だな。
 それにお美代さんからの印象もかなり良さそうだ。
 まぁ、このお美代さんのニコニコは普通の、他意のないニコニコなんだろうけど。
「一松いい子だよね。それに最近背が伸びてきたし、大人びてきたし、すぐに二枚目の男の人になりそうじゃない?」
「左様にございますね!一松様もどなたか素敵な奥方様をお迎えになられるのでしょうか?」
「お見合いの予定は無いけど・・・本人は気になってる子がいるらしいよ」
「まぁまぁまぁ!どなたでございますか!?」
 ちょっと攻めてみた結果は、微妙に失敗。
 ここでお美代さんが「え?」って戸惑ってくれれば脈アリだったのに、このただの知り合いの恋バナのテンションは、脈・・・ないかも。
「どなたかは・・・」
「快活な娘様に思いを寄せておるようでございまする」
 突然恋バナに加わってきた道明様は、言葉のチョイスが絶妙過ぎた。
 さすがは色事の達人。
「繕い物に来られている方でございますか?」
「んー、と・・・」
「より身近なお方ではないかと」
「身近な・・・?」
 もうほとんど答えみたいなものだし、「そこまで言っていいの?」と思ったけど、お美代さんはまだ思い当たらないらしい。
 キョトンとした顔のままお漬物をムシャムシャ食べてたから。
「噂によると、その娘御と人気のない場で逢瀬を重ねておるとか」
「そ、そうなのですね!?」
 口元を抑えながら驚いてるけど、お美代さん、その娘御ってお美代さんの事だよ。
 噂になってるのは嘘だけど。
「私も、この年の内には良い話が聞けるのではと、期待を寄せている所にございまする」
「その際はまた光来寺にて祝言を?」
「はい。愛弟子の祝言とあらば、光来寺を上げて執り行わせていただく所存にございます」
 田助とお里さんの、身内だけの祝言にもとても喜んでいたお美代さんだ。
 キラキラしい顔で楽しそうにしてるのは良いけど・・・その娘御ってお美代さんの事だよ・・・!!

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 「恋だ」と伺ったとて、すぐに受け入れる事など出来ようはずもない。
 なにせ、私のお美代様へ抱く衝動は、あの下卑た輩が我らに向けるのと代わりがないとしか思えなんだのだ。
 獣らに取り入るのに、色欲を駆り立てる術は知り尽くしていた。
 あれらを策に嵌めるのは容易いのだ。ただ餌をぶら下げれば良いだけなのだから。
 お美代様は、そのような事などされておらなんだ。であるのに、私の心は獣のように醜い欲を覚えるのだ。
 恋とは、このように醜いものであるのか?
 小瑠璃様の隣でお幸せそうに破顔される道明様も、このように許されざる想いを抱えておられるのか?
 いやしかし、あのお二人は夫婦であられる故話が違うのか。
 それにあのお二人の間にあるのは恋ではなく、愛だ。
 であらば恋とは?
 傷つけたとてしも押し付けてしまいそうになるこの衝動が、恋であるのか?
 それとも、やはり私の心がおかしいのであろうか?
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