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第六章 恋と愛の違い
第四十七話 お美代さんのお見合い相手
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「お美代様」
平然を装うのはいともたやすい。
務めて当たり障りのないように。道明様の模範的な弟子として振る舞うのは造作もない事なのだ。
「何かお手伝いはございませぬか?」
平然と、伺ったのだ。
何一つ、私の所作におかしな所などなかったのだ。
だと言うのに、お美代様は驚かれたような、困ったような表情で私から目を逸らしたのだ。
「あ、い、いいえ!何もございません!」
その仕草だけで、十分であった。
その言葉が拒絶であると、痛いほどに分かったのだ。
その日の夕餉の折、晴彦の奴は珍しくも神妙な面持ちをしておった。
「一松」
「何だ」
「お主、二年の後は如何様にするつもりだ?」
それは、道明様が江戸よりお戻りになられた折に仰っていた事柄であろう。
光来寺での二年の務めの後、あの方は小瑠璃様とお二人きりで行かれるのだと、その事であろう。
元より、「聖雅院を収めるまで」と拾われた身であった私だ。
この光来寺に来る事にならなかったとて、いづれこの時が来る事は理解していた。
「気を揉んでおったとて変わるまい。時が来れば如何様にもなるであろうが」
道明様へのお力添えの為僧となった身ではあるが、帰る家もなければ還俗する理由も無い。
必然と、御仏を信じぬ罰当たりな僧として生涯を過ごすのであろうが、それがこの光来寺になるか別の寺になるかは私が決める事でもなし。
晴彦であれば八ツ笠の弟妹の元へ行くと言う道もあるであろうがな。
「ではお主、光来寺を出る事となっても良いのか?」
「当然だ」
「お美代様と、今生の別れとなるやもしれぬぞ?」
「な、何を・・・」
驚きから箸が転げ落ちる。
拾い上げた先には、晴彦の意地の悪い笑みがあった。
「良いのか?」
「煩いわ阿呆」
この阿呆が何を勘違いしているのかは分からぬが、別にお美代様と恋仲と言う訳でもあるまいに。
恋仲・・・。いや、有り得ぬ。
例え私のこの想いが恋であったとて、お美代様は知る由もないのだ。
それに、拒絶されたではないか。
拒絶されたのだ。
あのように赤いお顔で、目も合わせずに。
「お美代様を好ましく思うておられるのは亀次郎様であられたか・・・?」
「あの方のあれはただの色情だ。先日もお富様の乳ばかり見られていたぞ」
「であるからお主託児所に入り浸っておるのか」
「当然だ」
もしやこの阿呆は、私がお美代様に会いに通っているとでも思うていたのか?
阿呆も阿呆だ。兄弟子が聞いて呆れる。
私が、この私が、仕事を放って女人にうつつを抜かすなどと。
あるはずがない。
そのような事、あるはずがないのだ。
「では木吉様だな」
「何がだ」
「お美代様の婚姻相手に決まっておろう。お美代様は恐らくは光来寺に留まり続ける。どなたかへ嫁がれるは必然だ」
また晴彦の奴が戯言を話しておるのだと、一度は聞き流したのだ。
だが、私の脳裏には勝手に白無垢のお美代様が浮かんだ。
私ではない誰かの隣で、お幸せそうに微笑むお美代様の姿が浮かんだ。
そして胸が、抉られるように傷んだ。
体を傷つけられるよりも痛い事があるのだと、私はこの時初めて思い知ったのだ。
------
「道明様・・・」
聞いたことのないようなか細い声が、隣の部屋へ続く襖の向こうから聞こえてきた。
一松の声だった。
「何用だ?」
冷静に答える道明様を押しのけるようにして、慌てて身を起こした。
服はまだ乱れてないし、くっついてキスしてただけだったけど、子どもの前でのイチャイチャはあまりよろしくない。
一応道明様からも少し離れたけど、彼はゆっくりと布団から起き上がったところだった。
「あの、ご相談が・・・」
「入りなさい」
「はい」
ついさっきまであんなに妖艶な表情をしていたというのに、色欲とは無縁じゃないかってくらいきちんとした僧正様の姿で、道明様は一松を迎え入れた。
でも一松は、判決を受ける前の被告みたいな顔で項垂れながら道明様の前に座った。
「相談とは?」
今気づいたけど、素の道明様って他人に「大丈夫?」とか聞かないよね。
デリカシーがないというか、気遣いがないというか。
外面との落差が激しいけど、たぶん心配していないわけじゃないんだろうな・・・。
「・・・見合いを、希望されている方がいると、以前伺いました」
「あぁ」
「その、お相手の娘様は・・・今現在光来寺にいらっしゃる方から選ばれるのでしょうか?」
「お美代様の事か?」
確かに、どう考えても一松が気にしてるのはお美代さんの事だろうけどさ。
それにしても道明様ストレートに聞きすぎなのよ。デリカシーがないのよ。
「・・・はい」
ほら一松の声泣きそうじゃん、かわいそうに。
「お美代様への見合いは考えておらぬ」
「そう、ですか・・・」
「お主が見合い相手となるか?」
「えっ!?」
平然を装うのはいともたやすい。
務めて当たり障りのないように。道明様の模範的な弟子として振る舞うのは造作もない事なのだ。
「何かお手伝いはございませぬか?」
平然と、伺ったのだ。
何一つ、私の所作におかしな所などなかったのだ。
だと言うのに、お美代様は驚かれたような、困ったような表情で私から目を逸らしたのだ。
「あ、い、いいえ!何もございません!」
その仕草だけで、十分であった。
その言葉が拒絶であると、痛いほどに分かったのだ。
その日の夕餉の折、晴彦の奴は珍しくも神妙な面持ちをしておった。
「一松」
「何だ」
「お主、二年の後は如何様にするつもりだ?」
それは、道明様が江戸よりお戻りになられた折に仰っていた事柄であろう。
光来寺での二年の務めの後、あの方は小瑠璃様とお二人きりで行かれるのだと、その事であろう。
元より、「聖雅院を収めるまで」と拾われた身であった私だ。
この光来寺に来る事にならなかったとて、いづれこの時が来る事は理解していた。
「気を揉んでおったとて変わるまい。時が来れば如何様にもなるであろうが」
道明様へのお力添えの為僧となった身ではあるが、帰る家もなければ還俗する理由も無い。
必然と、御仏を信じぬ罰当たりな僧として生涯を過ごすのであろうが、それがこの光来寺になるか別の寺になるかは私が決める事でもなし。
晴彦であれば八ツ笠の弟妹の元へ行くと言う道もあるであろうがな。
「ではお主、光来寺を出る事となっても良いのか?」
「当然だ」
「お美代様と、今生の別れとなるやもしれぬぞ?」
「な、何を・・・」
驚きから箸が転げ落ちる。
拾い上げた先には、晴彦の意地の悪い笑みがあった。
「良いのか?」
「煩いわ阿呆」
この阿呆が何を勘違いしているのかは分からぬが、別にお美代様と恋仲と言う訳でもあるまいに。
恋仲・・・。いや、有り得ぬ。
例え私のこの想いが恋であったとて、お美代様は知る由もないのだ。
それに、拒絶されたではないか。
拒絶されたのだ。
あのように赤いお顔で、目も合わせずに。
「お美代様を好ましく思うておられるのは亀次郎様であられたか・・・?」
「あの方のあれはただの色情だ。先日もお富様の乳ばかり見られていたぞ」
「であるからお主託児所に入り浸っておるのか」
「当然だ」
もしやこの阿呆は、私がお美代様に会いに通っているとでも思うていたのか?
阿呆も阿呆だ。兄弟子が聞いて呆れる。
私が、この私が、仕事を放って女人にうつつを抜かすなどと。
あるはずがない。
そのような事、あるはずがないのだ。
「では木吉様だな」
「何がだ」
「お美代様の婚姻相手に決まっておろう。お美代様は恐らくは光来寺に留まり続ける。どなたかへ嫁がれるは必然だ」
また晴彦の奴が戯言を話しておるのだと、一度は聞き流したのだ。
だが、私の脳裏には勝手に白無垢のお美代様が浮かんだ。
私ではない誰かの隣で、お幸せそうに微笑むお美代様の姿が浮かんだ。
そして胸が、抉られるように傷んだ。
体を傷つけられるよりも痛い事があるのだと、私はこの時初めて思い知ったのだ。
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「道明様・・・」
聞いたことのないようなか細い声が、隣の部屋へ続く襖の向こうから聞こえてきた。
一松の声だった。
「何用だ?」
冷静に答える道明様を押しのけるようにして、慌てて身を起こした。
服はまだ乱れてないし、くっついてキスしてただけだったけど、子どもの前でのイチャイチャはあまりよろしくない。
一応道明様からも少し離れたけど、彼はゆっくりと布団から起き上がったところだった。
「あの、ご相談が・・・」
「入りなさい」
「はい」
ついさっきまであんなに妖艶な表情をしていたというのに、色欲とは無縁じゃないかってくらいきちんとした僧正様の姿で、道明様は一松を迎え入れた。
でも一松は、判決を受ける前の被告みたいな顔で項垂れながら道明様の前に座った。
「相談とは?」
今気づいたけど、素の道明様って他人に「大丈夫?」とか聞かないよね。
デリカシーがないというか、気遣いがないというか。
外面との落差が激しいけど、たぶん心配していないわけじゃないんだろうな・・・。
「・・・見合いを、希望されている方がいると、以前伺いました」
「あぁ」
「その、お相手の娘様は・・・今現在光来寺にいらっしゃる方から選ばれるのでしょうか?」
「お美代様の事か?」
確かに、どう考えても一松が気にしてるのはお美代さんの事だろうけどさ。
それにしても道明様ストレートに聞きすぎなのよ。デリカシーがないのよ。
「・・・はい」
ほら一松の声泣きそうじゃん、かわいそうに。
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「そう、ですか・・・」
「お主が見合い相手となるか?」
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