聖女の私にできること第五巻

藤ノ千里

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第六章 恋と愛の違い

第四十八話 触れることで分かる事

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 急展開過ぎる話に、一松はものすごく情けない顔のまま顔を上げた。
 年相応な、困り果てて泣きそうな顔。ついヨシヨシしたくなっちゃうような顔。
 ・・・母性本能めちゃくちゃ刺激されるな。
「私・・・が・・・?!」
「無論お美代様のご意向も伺うが、お主であらば不足はなかろう」
「で、ですが・・・」
「好いておるのであらば問題ないであろう」
「ですがその・・・」
 一松の相談相手は道明様だからと傍観してたけど、さすがにこれはかわいそう過ぎる。
 ので、口を挟みます。
「道明様、そういう強引なの良くないですよ」
 当然飛んでくる「口を挟むな」とでも言いたげな視線。
 でも一松はちょっとホッとしてたから、とりあえず気づかないフリしとこう。
「一松はさ、お美代さんが誰かと結婚しちゃうのが嫌なんだよね?」
 コクリと小さく頷く一松。かわいいな。
「でも、自分の気持ちを伝えてお美代さんと恋仲になろうとは思わない?」
「分からぬのです・・・」
「告げれば良かろう。でなくば、何も動かぬぞ」
「ちょっと道明様黙っててください」
 ズルズルと悩むより行動した方が良いという道明様の言う事が正しいのは分かる。
 彼くらいの歳になれば、駄目だった時の結果も受け入れる事もできるだろう。
 けど一松はまだ子どもなんだ。それに多分初恋なんだ。
 淡々と判断できる方がおかしいんだ。
「このまま、お美代さんには何も言わないで今まで通りの関係でい続けるのも手だよ。でも、それは選択していないんじゃなくて『言わない』っていう選択をしたことになる」
「選択を・・・」
「そう、だから一松が後悔しない方を選択しなさい。言ってもいいし言わなくてもいいし、もし言って何かしらの結果が出て、それについて相談したいならまた聞くよ?」
 つい伸びた手が、つい一松の頭を撫でていた。
 可愛い息子の初恋。できることなら成就して欲しいと、そう思っていた。
 一松はまた俯いたけど、だいぶ落ち着いた表情で。
 しばらく悩んだ後「失礼いたしまする」と部屋に帰って行ったのだった。


 そんな感じで良い話をして、母親としての役割を全うした達成感と共に寝ようと思ったけど、そうは問屋が卸さない。
 気持ち不機嫌そうな夫殿が、させてくれないからだ。
「随分と、一松にお優しいのだな」
 「黙ってて」と言われた事より嫉妬が勝つのは可愛いけど、布団の上で待ち構えてらっしゃるから彼をどうにかしないと寝るのは無理そうだ。
「息子ですから」
「息子であろうが、一人の男児だ」
「一人の男児だけど息子です」
 言い返されると、道明様は目をスッと細めた。
 恐らく悪い事を考えてる。私に意地悪する系の悪い事を。
 けど、彼が思いつくまでゆっくりと待ってあげるなんて選択肢、私は取らないけどね。
「何を・・・っ」
 考え事を止めさせるために、唇を奪ってやった。
 短いキスの後唇を離すと、呆れたような顔をしてたから、今度は額にキスして、瞼に、頬にキスして。
 顔のあちこちにキスしていると、道明様の両腕が私を抱きしめてくれた。
 だから応えるように、今度はまた唇にキスを、ちょっと大人なキスをする。
 中断しちゃったイチャイチャの続きだ。
 お仕置きも誤魔化せるし一石二鳥。
 だと思ったんだけど。
「っ!」
 キスしたまま押し倒されてしまった。
 ゆっくりと離れていく唇のその先で、私を見下ろす道明様。彼の、長いまつ毛に彩られた蠱惑的な眼差しが、何も有耶無耶にできていないと告げていた。
「あれほどのお節介を、他の男には焼いておらぬであろうな?」
「多分・・・」
「多分?」
 ぐっと、急に成人男性の体重が、のしかかってくる。
 私を押さえつけるように、彼の体が服越しに密着する。
「重いです」
「であろうな」
 意地悪さんを押しのけようとした手も、どいてくれたと思った一瞬で掴まれてしまって。
 結果、ちょっと犯罪チックな体制で布団に押さえつけられてしまったのだ。
「道明様だってすぐ他人のお節介焼くじゃないですか」
「私は立場上だ。個人的な関わりはない」
「なら私だってそうですよ」
 何だか今日は負けたくなくて、つい言い返してしまって。
 でもそんな会話ですら、嬉しいのだ。
 道明様が私にだけしてくれる話で、私にだけ見せてくれる顔だから。
「よく回る口だな」
「夫に似たのかもしれないですね」
「そうか」
 急に、フッと苦笑した時の表情が、凄く幸せそうで。
 キュンとしちゃう。服越しの体温が恋しくなっちゃう。
「道明様・・・」
 おねだりすると、すぐに優しいキスが落ちてきた。彼の唇が私のそれに触れて、撫でて、開いた口からえっちな舌が入ってくる。
 道明様の手は、いつの間にか私の手を恋人の形で握ってくれていて、押さえつける体重だって心地良いくらいの重さになっていて。
 ただ愛おしさのままに彼に身を預けた。
 そうやって、今日もまた幸福な夜が過ぎていった。
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